ティアラ
なっ!?
目の前にはすでに虫の息の少女が倒れている。
見た目からして俺と同じくらいの年齢だろう。
ただ、もう何日も食事をとっていないのか痩せ細っている。
こんな状況でも濁りのない綺麗な銀髪には2つの耳が力なく垂れている。
いわゆる亜人というものだろう。
だが、そんなことよりも今はっ…!
「この子を買いたい!いくらだ!?」
「え、あっでも呪いが…」
「大丈夫だ!それよりもいくらだ!?」
あまりにも必死なその気迫にドイーヒは気後れしながらもしっかりと答えた。
「呪いを考慮した上で金貨1枚で…」
チャリーン
「はい、これでいいか!?」
「あ、はい。ではこの契約書にサ…」
シュバッ
「これでいいか!?」
「…はい。ではこの首輪をつけますのでそこに血を一滴垂らしてください」
そういうとドイーヒは首輪を少女につけた。
瞬間俺は爪で指をきり、血を首輪につけた。
すると首輪は一瞬光り、首輪にはユウトと刻まれていた。
「これで完了です。何かありましたらまた此方へお越しください」
「ああ!それよりももう行く!今日はありがとう!じゃ!」
ドイーヒによって奴隷契約の完了が告げられると、俺は少女を抱きかかえた。
いわゆるお姫様だっこの形だ。
そのまま俺は宿へと向けて走った。
その道中、周りに不審な目で見られるなか、俺は少女に告げる。
「俺はユウトだ。待ってろ、絶対助けてやるからな」
…と。
その言葉に意識が朦朧としている中で少女は小さく微笑んだのであった。
□
あれから無事宿にたどり着いたため少女をベットに寝かせた。
あいかわらず痩せているが、顔色は少しだけよくなっていると思う。
俺が急いだのには理由がある。
それは、少女が死ぬ寸前だったからだ。
俺が鑑定で見れるステータスの中には体力というものがある。
これはよくゲームのステータスにあるHPと同じ意味を持つ。
つまりはこの体力が0になると死ぬというわけだ。
俺がステータスを確認したところ少女はあの時体力が2しかなかった。
さらに俺が首輪に血を垂らす直前に1へと減ったことから本当にギリギリだったと言えよう。
では何故少女は助かったのか。
それは最近俺に備わったスキル、勇者の祝福のおかげだ。
勇者の祝福にはパーティーメンバーの状態異常を無効化する力がある。
あの時少女の体力を蝕んでいたのは、極度の飢えからくるのか、飢餓と言う状態異常であった。
だが、奴隷契約を結んだことにより俺とパーティーを組むことになったため、少女の飢餓は祝福の力により無効化されたというわけである。
奴隷契約は強制的にパーティーを組んだことになるという情報を、あらかじめ聞いていたことが功を奏したようだ。
そういうわけで少女はとりあえず死ぬことはなくなった。
とりあえずは大丈夫であろう。
あ、そうそう。
少女の呪いの件だが、どうやら呪いも状態異常だったようで無効化された。
もし呪いが状態異常ではなくとも、猛毒は立派な状態異常であるのであまり変わらないのだが…。
さて、何か眠くなってきたし、少女が目を覚ますまで俺も寝るか。
まぁ、少女が起きれば気配でわかるだろうし、大丈夫だろ。
そう考えていると、知らないうちに疲れが溜まっていたのか俺は深い眠りについた。
□
少女が目を覚ました。
熟睡していた俺だが、普通に気配を感じとり起きることができた。
まさに超人的である。
少女にはとりあえず今までのことを話した。
俺が買ったこと、呪いは無効化されたことなどをだ。
呪いがなくなったことなど、色々と驚いていたが、俺の発言に頷きながら泣いてくれた…。ん!?
「どうした?どこか悪いのか?」
突然泣き出した少女に困惑する俺。
今まで泣き出した少女の対応などしたことがなかったので仕方が無いだろう。
痩せ細り力が入らない身体、水もほとんど飲めず渇き切った中で少女は泣ながら言った。
「まさ…か…呪い…なく…なる…て…思わ…かった…もの…です…からっ」
うまく話せていなかったがしっかり伝わった。
確かにそうだよな。
今まで自分をくるしめてきた呪いがなくなったんだもんな…。
俺はベットの上で泣いている少女を抱きしめた。
何故かそうしたくなった。
少女は驚いていたが身を委ねてくれる。
一瞬だが、とても長く感じる時間。
俺は少女を離す。
「落ち着いたか?」
「はい…ありがとう…ございました」
小さく微笑む少女。
あ、そういえば…
「自己紹介がまだだったな。俺はユウト。まだ初心者だが冒険者をやってる。よろしくな」
「私はティアラと申します。奴隷商に捕まるまでは村で家事の手伝いをしました。戦闘経験はありません。種族は銀狼族です。よろしくお願いします、ご主人様」
泣き止み、うまく話せるようになったようだ。
それよりも、
「なぁ、質問なんだが銀狼族って珍しい種族か?」
名前的にそう思えたのだ。
「はい、珍しいと思います。私が住んでいた獣人の村では800人程度住んでいましたが、銀狼族は私の家族だけだったのですから」
「そうか。じゃあ、その村はどこにあるんだ?家族は?」
「…………」
黙りこむティアラ。
余程のことがあったのだろう。
これ以上追求するのは良くないな。
「言いたくなければ言わなくていいぞ」
「はい…。すいません」
「まぁ、気にするな」
微妙な空気が流れる。
こんな時は…
「よし、夕飯食べに行くか!ティアラにも早く肉つけて元気になって欲しいからな」
「まさかまともな食事をいただけるなんて…。ありがとうございます、ご主人様」
おいおい、ティアラの中で俺はどんだけ鬼畜なんだよ…。
まあよろこんでいるし、いっか。
ここで俺はティアラの服が周りには見せられない状態になっていることに気づいたので、とりあえずローブを着せた。
そして2人は一階へと向かった。
一階ではちょうど冒険者が依頼を終えて帰ってくる時期だからか、とても賑わっていた。
その中で俺は2人用の席を見つけたため、そこに腰掛けた。
…………
おかしい。いつまで経っても目の前の席に誰も座らない。
何かが俺の後ろでフラフラとしている。
俺はため息とともに話かけた。
「ティアラ座らないのか?」
「奴隷がご主人様と同じ椅子には座れません」
やっぱりか…。
まぁ、よくあるパターンだよな。
「でもフラフラじゃないか」
「だ、大丈夫ですよご主人様。私はただ踊っているだけなので」
…いや直立したまま左右にフラフラ揺れる踊りってどんなんだよ。
一瞬大勢の人が合わせてそれをやる所を思い浮かべてみたけど何かこわいよ!
しょうがない。あれをやるか…
まあ別に大したことではないんだけどな。
俺は立ち上がりティアラの目の前へ行くと両足を抱え持ち上げた。
「へぁ!?」
とティアラが驚いた声をあげる。
今の状況を簡単に伝えると俺がティアラをお姫様だっこしているのだ。
さっきもしていたじゃないかと思うかもしれないが、あの時俺は必死で、ティアラは意識がほとんどない状態だったのだ。
今回はお互い意識をはっきりと持っている状態。
当然ものすごく恥ずかしい。
ティアラに至っては奇声を上げるほどだ。
その声に反応して数人がこちらを向いたことは言うまでもないだろう。
とりあえず俺は恥ずかしくなったので、本来の目的である『ティアラを椅子に座らせる』を実行する。
よし、無事成功だ。
さすがにここまで押し付けられると奴隷うんぬん言えなくなったようだ。
よかったよかった。
ちょうどこの時タイミング良く料理が運ばれてきた。
どれも美味しそうである。
俺はすぐに料理に食らいつくが、やはりティアラは反応しない。
また奴隷うんぬん言うつもりだろうか。
「ティアラ、食べていいんだぞ?」
「へ?どれをですか?」
「だから、ここに並べてある食事をだよ」
「ダメですよご主人様。奴隷がご主…」
「いいから食え!」
「ん!?」
俺はまた何か言おうとしたティアラの口に鶏肉のようなものをつっこんだ。
すると、しっかりモグモグとしながら突然泣き出した。
…少し強引すぎたかな。
そう思った俺だったが、次のティアラの言葉でそれが違うのだとわかった。
「ひっぐ…おいしい…ですっ」
何だおいしくて泣き出したのか。
なら、よかった。
その後俺が食べて良いことを伝えると今度は勢いよく食べ出した。
なんだが少し距離が近づいた気がした。
その夜、寝てしまったティアラをベットに運び寝かせ、俺は床で寝た。
もちろん、その夜は何もなかった。
次の日の朝、床で寝ている俺を見てティアラが驚いたのは言うまでもないだろう。
ついにヒロイン登場です!
銀髪獣耳美少女ですよ、みなさん!
テンションがあがりますね!
ではティアラの容姿について簡単に説明しましょう。
しっかりと食事をとりある程度肉付きが良くなった場合です。
まずルックスですが目が大きくクリクリで美人と言うよりは美少女と言う言葉が当てはまります。
綺麗というより可愛いという印象ですかね。
スタイルですが、胸は大き過ぎず小さ過ぎずというぐらいでしょうか。
ただ、ティアラとしてはもう少し成長して欲しいようです。
性格としては非常に真面目だが、厳しい印象は受けない感じです。
まぁ、簡単にこんな感じですかね。
しっかりとした説明はこれからキャラが増え登場人物を紹介する時にしますので楽しみしていてください。
では、次回でまた会いましょう!