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クトゥルフ系

広場の折れた大樹

作者: 蛇月夜

村外れの広場に、半ばより折れた茶色い大樹が生えている。


地元の人々はそれを御神木として奉っており、年に一度の祭りの時期はその村で最も賑わう空間になっていた。


言い伝えによれば、この樹は神代から此処に根を張っており、先の大戦ではここ一帯の人々の拠り所となった。不思議な事に、日々来襲するB-29はこの村には爆撃をしなかったと言われている。


だが、ここ数十年の間に人々はこの村を離れ、いつしか祭りもすたれてしまった。


祭りがおこなわれなくなり数十年。一人の黒い女がその樹の前に居た。黒を基準に、赤い線の入ったライダースーツ風の服装をしている。傍らには彼女と同じく黒い大型バイクが止めてある。


「本当にこんな辺鄙(へんぴ)な所に本物の霊樹があるなんてな、ナイに情報を流した奴は一体何者なんだ?」


黒い女は大樹に手を置いた。


ひび割れ、堅くなった樹皮に柔らかな女の手が重なる。


「確かにアトゥ(Ahtu)の現界の為の入れ物には丁度良さそうだな」


そう言って、女は大樹より手を離し、懐から宝石を取り出した。


それは五センチ程度の黒色に幾筋もの朱い線が走った多面体。


女は多面体を持ったままに、何かを呟きだした。


「にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! 時空間の門にして鍵たる我等が叔父よ。我が声を聞き届けん。我が名は『“黒の詩篇、滅びの微笑”黒き(Black )シビュラ(Sibylla)』。神の僕たる這い寄る混沌の巫女なり。我等が化神の一つたる『“蠢く密林”アトゥ』を此処に現界せよ。入れ物(生贄)は我が前にあり。輝け、トラペゾへドロン! 次元たる壁を越えよ!」


シビュラが呪文を暗唱し終えると多面体、『輝く(Shining )トラペゾ(Trapezo)ヘドロン(hedron)』が乾いた血に似た暗赤色の光を放ち、その光は大樹を包み込んだ。


「さっさと起きな、アトゥ。そろそろ仕事の時間だぜ?」


黒い光が一際大きく輝き膨れ上がり、弾けた。


中から現れたのは、漆黒の樹皮に血の如く朱い線を持った大樹だった。


姿は光が包み込む前とそう変わらないが、根元の部分が人の髑髏しゃれこうべとなり、枝が鞭へと変貌した。


“ふむ、シビュラか。ワシを目覚めさせるとは何事じゃ?”


根元の髑髏より、しわがれた老人の声が発せられた。


「ナイの野郎に言ってくれ。アタシはあいつの使いだ」


“そうか。ではワシは奴の所へ移動しなければならないのだな? なんと難儀な事じゃ。おまえたちはもっと年長者を敬うべきじゃな”


アトゥの辛辣な言葉がシビュラへ投げかけられる。


「だ~か~ら~、アタシじゃなくナイ本人に言いやがれ! それに年齢的に言えばナイの方が年上だろうが! そもそも、なにを言ってもどうせあいつは教会からは殆ど出歩かねぇぞ。前回の失敗から反省して今回の復活の術式はあいつが核になってんだ。後は本体さえ戻ってくれば完成するらしいぜ。お前を現界させたのも結界を張らせたいからとか言ってたぞ」


シビュラは逆にアトゥに向かってまくし立てる。


“奴は何度も転生しておるではないか。ワシはまだ三回目じゃぞ。今までの年齢を換算すればワシの方が年長じゃ。それにしても、復活のう。神代に(Elder )(God)に封じられた我等が主が、か?”


「年齢云々は本人に言えっての。復活の方は解除の術式が開発出来そうらしい。失敗するかもしれんが、やらないよりはましだ」


“そうか。なるほどの。では、ワシも動くとしよう”


「主の名前を聞いてやっとか、この野郎!」


“何を言うか。主の復活を望むは我等混沌の最終目標であろう? 主が復活なさるかもしれんのならば、ワシらはすぐに駆けつけるものじゃ”


「最初っから素直にそう動いてくれれば簡単なんだよ。まぁいい。さっさと人間態になれ。ナイのところまで連れて行ってやるよ」


シビュラがそう言うと、アトゥの体がざわめき始めた。


ざわめきは波となり、アトゥの全身から集まっていく。


最終到達点は髑髏の額。


額に混 沌の化神としての力が集まっていく。


「懐かしきはこの姿、じゃな」


アトゥの体であった大樹が崩れ、額であった箇所より老人が出現した。


その姿は古代欧州の森に住み、膨大な知識と魔術を受け継いでいたと言われているドルイド僧であった。


「では行こうぞ、シビュラ。神父の元へ」


「ハイハイ、じゃあさっさと忌まわしき(Hunting)狩人(Horror)の荷台に乗れ」


そう言うと彼女は自分の隣で触れなくてもエンジンを鳴らし始めたバイクに跨がった。アトゥも少し躊躇したが、シビュラにならった。


「……乗ったな?」


シビュラの口元に不適な笑みが浮かぶ。


「へっ?」


「ではこれより、ナイのいる教会を目指して、ノンストップで走り抜けるぜェ!

 せいぜいしっかり掴まってる事だなアトゥ! 落っこちても知らねぇぜ!」


気味の悪いうめき声に似たエンジンの爆音を轟かせ、バイクは超高速でお世辞にも平らとは言えない土の道を走り抜けていった。



年若い女の笑い声と老人の叫び声を振りまきながら。

本当は最後に敬うことを忘れた村人へアトゥが復讐するはずだったのですが、くどくなるので却下しました。

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