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錆と鍵穴  作者:
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一章

それはあまりにあたりまえな日常

 いつも通りの通学路、このいつも通りがかれこれ三年続いている。オレの高校生活はほとんどが通学路の往復で成立している。周囲の人間は、部活やらバイトやら忙しそうにしているが、俺には縁のない世界だ。授業中、オレは窓から空を見ることに精を出している。だからって別段成績が悪いわけじゃない、目は上の空でも耳は意外と授業を聞いているのだ。おかげで成績は全体の中の上、無難なところだ。苦手教科の数学を除けば人並み、可もなく不可もない。こんな人間はオレだけじゃない。

 だがその日は違った、オレは何気なく

「次の教科なんだっけ?」

と尋ねた、学校ではよくある光景だ。一日5回は見かける、それに高校だけでなく学校と名のつくところならどこでも使うフレーズだろう。友人Aはいつも通り答えた。

「え?あ、うん魔術Ⅱだね」

・・・・?。今日は4月1日ではない、友人Aなりの冗談らしい、くだらない、そもそもどう反応していいかわからなくなるようなボケは控えてほしいものだ。オレは漫才が苦手なのだ。魔術?しかもⅡ?オレはいつの間にか魔術Ⅰを履修していたのか?まぁそんなことはどうでもいい、今はどうツッコムかを考えるべきだ。

「どうした、教科書でも忘れたのか?」

モタモタするオレを見かねて声をかけてきた、またボケてきやがった。ここはオーソドックスなツッコミで良いだろう、オレは確信した。

「そうそう家に置いてきちゃった・・・ってそんなわけあるかーい!魔術Ⅱってなんやねん!」

生まれて初めてのノリツッコミにしては、上等だ。オレは自画自賛しながら友人Aの反応を待った。

「おまえ、苦手教科だからって無かったことにするなよ。ハッハッハ」

友人Aは笑い出す、つられて周りのクラスメイトも笑い出した。嗚呼オレは日頃付き合いが悪かったせいで、どうやらイジメの対象になってしまったらしい。普段は地味でおとなしい奴までコッチをみて笑っている。オレも昨日、いやさっきまでそいつと同じポジションだったってのに、とんだとばっちりだ。いい機会だからクラスメイトに教えてやろう、普段おとなしい奴ほどおこると怖いということを

「お前ら何なんだよ!オレをハブにして面白いか!?酷く下賤な野郎どもだ!!」

オレが生まれて産声を上げて以来、これほど大きい声を出したことはなかっただろう。言いたいことは言った。あとは教員室に行こう、このままここにいたら気の強い奴に殴られるかもしれない、オレはやや急ぎ足で教室を出ようとした。

「お前、大丈夫か?」

友人Aはオレの肩をつかんで行く手を遮った、この忠告はきっと今後、オレに刺客が送り込まれてリンチになることを案じたAなりの優しさなのだろう、振り返ってみるとやはりAの心配そうな顔があった。

「とりあえず、保健室に行こう、ね?」

友人Bがオレに話しかける、一瞬なぜそんなことを言われたかオレには理解できなかったが、どうやらオレの身の安全を本気で案じているらしいことが震える声から察することができた。若干お門違いな気がするが、善意あふれる行為を無下に断るわけにもいかない。AとBに両腕を抱えられるようにして保健室に向かう、そこには40を少し超えた校医がいる。

「彼は魔法に関する記憶をなくしちゃったみたいなんです」

Aが説明する、だがそれは私に対して不快なものでしかない、あ、今気づいた、これはドッキリに違いない、さんざん魔法があるかのように仕向けて、オレが信じ込み、摩訶不思議な呪文を唱えさせて、そこでネタバラシ、オレ赤面。こんなところだろう。実力のある芸人なら落ちに向けてどんなリアクションをとろうかと思案するに違いないが、オレにそんな表現力はない、それにオレがこのドッキリに参加するメリットがない。周りが面白がって俺だけ嘲笑の的、不快だ。こんな不快な構図など壊してしまいたい。

「何か非合法の薬でも飲まされたの?それとも忘却魔法?」

案の定だ、校医までグルとはずいぶん規模が大きいドッキリだ。

「あなたみたいな生徒、今日二人目よ。もしかしてグルで授業サボるつもり?記憶喪失を装うのは斬新な手段とはいえないわよ?だいたい・・・」

「早退させてください」

オレは校医の言葉を遮って言った、もう今日は帰ってしまいたい。オレのキャパシティをはるかに超えた出来事だ。

 校医は意外と簡単に早退を許してくれた、サボりだろうが記憶喪失だろうが、一晩寝たら治るとでも思っているのだろうか。あの校医はオレを含めて二人の人間がオレと同じ状況にあるといっていた、それが嘘でなければ同じくイジメの対象になっている仲間がいるということになる、そんなことを考えているうちに家についた。さっさと帰宅したのはいいものの、やることがあるわけでもなく、やりたいこともない。ふと今日の出来事を誰かに喋りたくなった。両親は共働きでまだ帰ってこない、そもそも自分のおやに「オレは今日クラスのみんなにイジメられました」などと言う気はない、オレにもプライドがある。であれば、幼馴染にでも笑ってもらおう、そう考えたオレは隣家に向かった、チャイムを鳴らして返答を待つ、ここで気付いたが、今家にいるわけがない、オレは早退したから自由の身だが、幼馴染はまだ教室の椅子に縛られているはずなのだ。オレは恥ずかしくなって戻ろうとしたが、

「ハーイ、どちら様?」

インターホンが喋った、正確にはインターホン越しに家人が話しかけてきたのだ、そしてその声は紛れもなく幼馴染のものだ。

「オレだよ、ちょっと今いいか?」

「えっ、なんでもう帰ってきてるの?」

「そのことを含めた話だ」

オレは返答を待たず玄関のドアを開けるとそこにはジャージ姿の幼馴染がいた、帰ってきてから着替えたのだろう制服は家じゅうに散乱している。オレは幼馴染の部屋に入る、いつも通り”散らかっている”を絵にかいたような、ある意味整然とした部屋だ。たとえるなら映画やドラマのセットのように小道具さんや大道具さんによって意図的に”散らかっている”ことを再現しているみたいな感じだ。

「なんでユウくんはもう帰ってきてるの?」

「きっと、ミオと同じ理由だよ。」

「魔法?」

「ああそうだ、オレの苦手教科は数学だけだと思っていたが、どうやら魔法も追加しなきゃならないらしい」

オレと幼馴染(ミオ)はしばらく話し合ったが、お互いが持ち合わせている情報に大差はなく、有益な話し合いにはならなかった。

「まずは魔法が本当にあるかどうか確かめなきゃね」

オレは若干頭がクラクラしてきた、どうやらミオは魔法の存在を完全に否定してはいないらしい。まるで空飛ぶ少年と腕が鉤状になってる海賊が出てきそうなお話だ。

「ミオ、お前魔法を信じてるのか?」

「し、信じてるって?そんなわけないじゃない、ただ、あったら良いなって、そう思っただけ」

嘘つけ、顔真っ赤じゃないか。

「まぁ、夢はあるよな」

俺なりの精一杯のフォローだ、これ以上に気が利いた言葉があるならぜひ広辞苑に載せてほしい。

「ユウくんは信じて・・・あってほしいと思わない?」

「魔法か・・・クラスの奴曰くオレは魔法が苦手らしい、しかも教科が増えるってことはテストが増えるってことだろ?そんなのは嫌だ。」

言い切ってやった、仮に魔法があるとして俺の知っている小説ではさんざん勉強させられる。その上命が狙われるのだ、こんな役を演じたいものか。

ミオは少しさびしそうな顔でうつむいていた。オレ達の会話はそれ以上成立しなかった、ミオは魔法の存在をオレに否定され落ち込んでしまった。そそくさと家に帰ったオレはすぐにベットに潜り込み眠った。

どれくらい時間が過ぎただろうか、夕方に眠って夜中に起きると時間感覚がおかしくなる。空が暗いことに違和感をおぼえる、部屋の時計をみると午後10時、もう両親が帰ってきているはず。夕食を食べずに寝たオレは腹が減っていた。今にいる父はいつものようにビールを飲みながらテレビを見ている、母は台所で食器を洗っているらしい、カチャカチャと陶器が擦れあう音がしていた。ふすまを開け台所に入ると母は雑誌に夢中だった。カチャカチャと皿がなっている。シンクでは皿がまるで踊っているように宙に浮かんでいた。オレはフリーズした、古いパソコンのように。母はそんな私に気づかず雑誌に視線を落としている。何秒たったかわからないが、オレは母に聞いた

「あれ、何?」

「何って、シンクがどうしたの?」

「いや、だって、皿が勝手に・・・」

「なに、私は不器用だから魔法なんか使ったら皿が割れると思ってるの?」

「魔法って、」

「文句があるならユウがやればいいじゃない、浮遊系魔法は1年生の教科でしょ?どうせ中卒の私なんか上手くできませんよーだ」

もう一度シンクに目を向ける、皿が1枚浮かび上がるちょうどオレの胸くらいの高さ、するとスポンジがまたしても宙に浮き、皿の上を円を描くようにクルクルと回る、一通り泡まみれになった皿は蛇口の下に向かう、するとそれまでしまっていた蛇口から水が流れ出しみるみる泡がおちる、泡が落ちた皿はまたオレの胸ぐらいの高さまで上がると一瞬降下した、水を切っているらしい、今度は乾いた布巾が現れまたしても皿の上を円を描くように動いた。乾いた皿は食器棚に器用に収まる。これがずっと繰り返されていた。こんな手品は見たことがない、

「ユウ、夕食食べた?」

母が聞く

「まだだけど」

それどころじゃない、母はこの状況になぜ平常心を保っていられるのだろうか、母までオレを陥れようとしているのか?いや何のメリットがあってそんなことをするのだろうか、オレの性格は母親譲りだ、考えていることはお互いに大体わかっている。

「あれ、卵しかないや、目玉焼きでいいよね」

オレはもう無意識的にうなずいた、すると母は冷蔵庫からコンロめがけて卵を投げつけた、距離は約50センチだが卵ははじけるだろう、哀れな卵、だが予想に反して卵はゆっくりとコンロに向かっていった、まるでスローモーションのようだ。人は事故にあう瞬間などに当たりの光景がスローになると聞いたことがある。しかし今スローになっているのは卵だけ。母はフライパンをコンロに乗せ、油を注ぎ火をつけた。

そこは手動なのか。

面白いのはここからだった、母が何かボソボソつぶやいたと思ったら、卵は乱回転からラグビーボールのように頭をフライパンにまっすぐ向けジャイロ回転し始めた。そして卵の頂点にひびが入ったかと思うと殻全体にひびが入った、卵の頂点を北極点としたなら経線に沿うように90度ずつ4つに、今度は頂点からまるで花が咲くように殻が向け始めた、やがて4つの花弁を脱ぎ去るように生卵の本体部分と呼ぶべき部分のみがフライパンに落ちた。

ここからは私の知る目玉焼きと変わらない、適度に焼かれた後にフライ返しで皿に盛られ、オレは醤油をかけて食べた、味も私の知る目玉焼きと変わらない。

「ユウ、どうしたの?そんなに目を丸くして、どっちが目玉焼きかわからないよ?」

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