埋め合わせとイヴ
「貴女なんか死んじゃえばいいのにね。
そうしたら私、幸せなれるかもしんない」
「そうだね」
銀色の針がまた一つ、動く。
「わたしが男の子だったらよかった?」
「ううん。そうは思わない」
「いいの、どうせなれっこないんだから。ねえ、わたしと結婚したかった?」
「したくないよ。だって言ったじゃない、私。貴女なんて死んじゃえばいいって」
消えてしまえばいいのに。
確かに彼女はそう言った。
貰ったばかりの指環を胸に抱きしめながら。
「いいこと考えた。
わたし、あなたにいいお婿さん見つけてあげる。
だから、それでいいでしょう。
そんでわたしたちはサヨナラすればいい」
「嫌。だって貴女ってセンス無さそうじゃない」
「じゃあどうするのよ」
「ずっとそばにいましょうよ。
あなたの拙さは、私がなんとかしてあげるわ」
ああ。
彼女がかすかな声を上げる。
「アダムとイヴなんて出遭わなきゃよかったのに。
そしたらわたしたち、そばにいられたね」
「そうね。でもいいじゃない、
ちょっとくらい世間とズレてたって。
どうせ隣が空っぽになるんなら、そばにいようよ」
結構重たい問題ですね。こういうことも世の中にはあります。たとえそれが罪悪と認識されようと、愛ってもんは持続機能という厄介なのがついてるんですよね。