Fantasia on the Wall

Our Ballad

「ふう」

ことり、とビールの缶を置く微かな音。

「やっぱいいね。風呂上りのビールは最高」

「良かったじゃない。

それより、いつもと銘柄、違うんじゃない？」

「ああ。いつものが、店になかったんだ」

寂しそうに微笑む。

愛おしそうに缶を握り締めるけれど、

明らかに物足りなそうな表情。

「……本当に、あなたってわからない。

結局、私のこと、どう思ってるのよ」

「どう、って。好きだよ」

「ねえ、もういい加減にしてよ。

中途半端が一番嫌いなの。

もうさ、彼女のところに戻れば？」

浮気相手という仕事。

浮気相手という曖昧な立場。

「……君が望むならね」

「いいわよ、別に。代わりに、そのビール頂戴」

「構わないよ」

私と同じ、Substitute（ほけつ）という存在。

なんだか缶が妙に愛おしかった。