第9話 近すぎる偶然
第9話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、日常の中で起きる“少しおかしな再会”の回になります。
これまでの出来事が、ただの偶然ではないと感じ始める——
そんな変化を楽しんでいただけたら嬉しいです。
帰り道。
夕方の空は、やけに赤かった。
「……なんなんだよ、あれ」
黒沢恒一は、歩きながら頭を押さえる。
さっきのレース。
7、11、4。
順番まで、全部一致。
「……見えた、よな」
独り言が漏れる。
偶然じゃない。
あれは、確実に“結果”を知っていた。
だが——
ズキッ。
「……っ」
頭の奥に、軽い痛み。
我慢できる程度。
だが、確実にある。
「……気のせいか?」
そう思おうとする。
だが、さっきの感覚といい、この痛みといい。
どうにも、嫌な繋がりを感じた。
⸻
コンビニの自動ドアが開く。
いつもの店。
いつもの光。
いつもの匂い。
変わらないはずの場所。
なのに——
「……」
足が止まる。
何かいる。
そんな感覚。
理由はない。
でも、確かに“いる気がする”。
「……なんだこれ」
小さくつぶやきながら、中へ入る。
⸻
缶コーヒーを手に取る。
レジへ向かう途中。
視界の端に、映る。
帽子。
サングラス。
人目を避けるような仕草。
「……は?」
思わず声が漏れる。
如月レイナ。
見間違いじゃない。
さっきまで競馬場にいたはずの人間が、
普通にコンビニにいる。
「……なんでだよ」
頭が追いつかない。
偶然。
いや——
(……近すぎるだろ)
⸻
レイナは雑誌コーナーを見ていた。
完全にオフの雰囲気。
仕事じゃない。
本当に、ただそこにいる。
恒一は少し迷う。
声をかけるか。
それとも、無視するか。
(……やめとくか)
関わらない方がいい。
そう思って、レジへ向かう。
⸻
「……あ」
振り返る気配。
目が合う。
数秒の沈黙。
「……黒沢、だよね」
「……覚えてたか」
「うん」
レイナが少しだけ笑う。
「さすがにね」
競馬場でのやり取り。
今度は、ちゃんと繋がっている。
⸻
「……なんでここにいるんだ」
思わず聞く。
「え?」
「いや、普通に考えて……」
言葉を選ぶ。
「お前が来る場所じゃないだろ」
「ひどくない?」
軽く笑う。
「普通に来るけど」
「……マジで?」
「うん」
あっさりと答える。
「家、この辺だし」
⸻
「……は?」
思考が止まる。
「……今なんて言った」
「この辺住んでるって」
「……」
言葉が出ない。
競馬場で会って、コンビニで再会して。
さらに——ご近所。
(……出来すぎだろ)
⸻
「黒沢は?」
「俺もこの辺だ」
「へぇ」
少しだけ目を細める。
「じゃあ、ご近所さんじゃん」
「……そうなるな」
妙な現実感。
国民的アイドルと、ご近所。
意味がわからない。
⸻
「……ねえ」
「ん?」
レイナが少しだけ考えるように言う。
「なんかさ」
「黒沢って、“当たり引きそうな人”って感じしない?」
「……なんだそれ」
思わず返す。
「うまく言えないんだけど」
少しだけ視線を逸らす。
「なんか、流れ持ってそうっていうか」
「……」
心臓が、わずかに跳ねる。
当てたことは言っていない。
6億のことも。
なのに——
「……変なこと言うな」
軽く流す。
だが、完全には否定できなかった。
⸻
「……さっきからさ」
レイナが続ける。
「なんか変な感じするんだよね」
「変な感じ?」
「うん」
少しだけ首を傾げる。
「また会う気がしてたっていうか」
「……」
言葉が止まる。
同じだ。
自分も、店に入る前に感じていた。
“いる気がする”と。
⸻
ズキッ。
「……っ」
頭に痛み。
さっきより、少し強い。
「……大丈夫?」
「……ああ」
軽く手で押さえる。
誤魔化す。
だが、確実にわかる。
さっきのレース。
そして今。
何かを“使った”後に、来ている。
⸻
「……黒沢」
「ん?」
「これさ」
レイナが、少しだけ真面目な顔をする。
「偶然じゃないよね」
「……ああ」
否定できない。
もう、無理だ。
⸻
6億円。
未来が見えた感覚。
競馬の完全的中。
そして、この再会。
全部が、繋がっている。
「……これ、全部おかしくねぇか」
小さくつぶやく。
「うん」
レイナが頷く。
「おかしい」
はっきりと。
⸻
沈黙。
コンビニの中。
何でもない場所。
なのに、空気だけが違っていた。
⸻
「……めんどくせぇな」
恒一は苦笑する。
だが、その顔には少しだけ覚悟があった。
もう戻れない。
普通には。
⸻
ただ一つ、はっきりしている。
この力は——
未来だけじゃない。
⸻
“人も、引き寄せている”
第9話を読んでいただきありがとうございました。
競馬場に続き、まさかのコンビニでの再会。
そして明らかになってきた「近すぎる偶然」。
未来を見る力だけでなく、
“人や出来事を引き寄せている”可能性も見えてきました。
次回は、この力のルールに少しずつ迫っていきます。
どこまで見えるのか、何がきっかけなのか——
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引き続きよろしくお願いします。




