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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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第5話 誰もいない場所で

第5話を読んでいただきありがとうございます。


ついに、主人公とヒロインが直接出会います。

ほんのわずかなやり取りですが、

ここから二人の関係が動き始めます。


ぜひ最後までお楽しみください。


ライブが終わったあとも、しばらく動けなかった。


 音の余韻。

 光の残像。

 あの一瞬の違和感。


「……帰るか」


 ようやく立ち上がる。


 周囲の観客は興奮気味に話しながら出口へ向かっていた。


「レイナ様やばくない!?」

「今日の神席、ほんと神だった!」


 そんな声があちこちから聞こえる。


 だが恒一の頭の中には、別のものが残っていた。


 ——あの顔。


 完璧な笑顔の奥に、一瞬だけ見えた“空白”。


「……無理してるな」


 もう一度、同じ言葉をつぶやく。


 気のせいかもしれない。

 だが、あれは見間違いじゃない気がした。



 人の流れに乗るのが苦手で、恒一は少し遅れて会場を出た。


 外の空気が、ひんやりしている。


 夜。


 ライブの熱とは別の、現実の温度。


 人混みを避けるように歩いていると、ふと建物の裏手に出た。


 明かりが少なく、人気もない。


 スタッフ用らしい通路。


「……近道か?」


 特に考えもせず、足を踏み入れる。


 数歩進んだところで——


 足が止まった。


 人影。


 壁にもたれるようにして、誰かが座り込んでいる。


 細いシルエット。


 長い髪。


「……大丈夫か?」


 思わず声をかける。


 その人物が、ゆっくりと顔を上げた。


 そして——


 息が止まる。


「……え」


 そこにいたのは、


 さっきまでステージに立っていたはずの——


 如月レイナだった。



 ライトのない場所で見る彼女は、別人みたいだった。


 メイクはそのまま。

 衣装もそのまま。


 なのに、まるで“色”が抜けたみたいに見える。


 さっきの圧倒的な存在感が、嘘みたいだった。


「……誰」


 低い声。


 警戒している。


「あ、いや……その……」


 言葉が出てこない。


 まさかこんな場所で会うなんて思っていなかった。


 どうしていいかわからない。


 沈黙が落ちる。


 レイナは視線を逸らし、小さく息を吐いた。


「……ファン?」


「……たぶん」


 自分でもよくわからない答えだった。


 レイナが、わずかに眉をひそめる。


「“たぶん”って何」


「いや……詳しくは知らないけど、さっきのライブは見てた」


「……そう」


 それ以上、興味を持つ様子はなかった。


 立ち上がろうとするが、少しふらつく。


 思わず、恒一は手を伸ばした。


「大丈夫か」


 その瞬間。


 レイナの目が、こちらを強く睨んだ。


「触らないで」


「……悪い」


 すぐに手を引く。


 空気が張り詰める。


 普通なら、ここで終わりだ。


 関わらない方がいい。

 自分とは世界が違う人間。


 そう思うのに——


 足が動かなかった。


 代わりに、口が勝手に動いた。


「……無理してるだろ」


 自分でも驚くくらい、自然に出た言葉だった。


 レイナの動きが止まる。


「……は?」


「さっきのライブ」


 少しだけ、視線を合わせる。


「一瞬、顔が抜けてた」


 沈黙。


 時間が止まる。


 次の瞬間、レイナの表情が変わった。


 怒りでも、呆れでもない。


 “驚き”だった。


「……見てたの?」


「いや、たまたま目に入っただけだ」


「……」


 レイナは何も言わない。


 ただ、じっとこちらを見ている。


 その視線が、さっきまでの“アイドルの目”とは違っていた。


「……あんた、何」


「何って……ただのおっさん」


「……変な人」


 そう言いながら、レイナは小さく笑った。


 ほんの少しだけ。


 ステージの笑顔じゃない。


 自然な、力の抜けた笑い。


 それを見て、恒一は少しだけ安心した。


「……そっちこそ」


「何」


「無理して笑うなよ」


 また、言ってしまった。


 レイナの表情が、わずかに揺れる。


「……」


 言い返してくるかと思った。


 怒られるかと思った。


 だが——


「……うるさい」


 小さな声。


 それは、拒絶ではなかった。


 どこか、力の抜けた響きだった。


 遠くでスタッフの声がする。


「レイナー? どこー?」


 レイナが、はっとしたように立ち上がる。


「……もう行く」


「ああ」


 一歩、二歩。


 歩き出してから、ふと立ち止まる。


 振り返らないまま、言った。


「……さっきのこと、誰にも言わないで」


「言わねぇよ」


「……絶対」


「絶対」


 短いやり取り。


 それだけだった。


 レイナはそのまま、光のある方へ消えていった。



 一人残された場所。


 さっきまでの静けさが戻る。


「……なんだったんだ」


 ぽつりとつぶやく。


 夢みたいな時間だった。


 国民的アイドルと、言葉を交わした。


 それも、誰もいない場所で。


 しかも——


 あの“素”を見た。


「……関わらない方がいいよな」


 そう思う。


 どう考えても、自分の人生には関係のない人間だ。


 6億円があっても、そこは変わらない。


 それなのに——


 胸の奥に、何かが残っていた。


 あの一瞬の笑顔。


 あの声。


 あの“うるさい”。


「……変な感じだな」


 苦笑する。


 そのとき、ふと気づく。


 あの数字。


 6億円。


 そして、今日のこの出来事。


 全部が、どこか繋がっているような気がした。


「……まさかな」


 小さく首を振る。


 だが、その“まさか”は——


 これから現実になっていくことを、まだ知らなかった。


第5話を読んでいただきありがとうございました。


初めての接触。

誰もいない場所で交わされた、短い会話。


ですがこの出会いが、

二人の運命を大きく変えていきます。


次回は、少し不思議な形で再び二人が関わることになります。

“偶然ではない何か”を感じてもらえるかもしれません。


よろしければブックマークや評価、感想をいただけると励みになります。

引き続きよろしくお願いします。


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