第20話 戻る場所
第20話を読んでいただきありがとうございます。
ここまで積み重ねてきたものが、
ひとつの形として見え始める回になります。
静かに広がっていた流れが、どこまで届くのか——
その瞬間を楽しんでいただけたら嬉しいです。
動画を上げて、一日。
数字は、静かに伸びていた。
派手ではない。
だが、止まらない。
「……いい伸び方してるな」
黒沢恒一はスマホを見ながらつぶやく。
再生数。
コメント数。
どれも、じわじわと増えている。
「急じゃないのがいいね」
佐倉が言う。
「ちゃんと届いてる証拠」
「……そうか」
恒一は頷く。
横で、レイナが画面を見つめている。
コメント欄。
『やっぱり歌だよ』
『待ってた』
『戻ってきた感じする』
ひとつひとつを、噛みしめるように見ていた。
「……すごいね」
小さくつぶやく。
「こんなに言ってもらえるんだ」
「前があったからな」
恒一が言う。
「……でも」
レイナが少しだけ首を振る。
「ちゃんと届いてる気がする」
その言葉には、確かな実感があった。
その日の夜。
再生数が、一気に動く。
「……おい」
恒一が声を上げる。
「ん?」
「これ、跳ねたぞ」
画面を見せる。
再生数が急激に伸びている。
コメントの流れも変わっている。
「……何これ」
レイナが目を見開く。
「誰かに拾われたね」
佐倉がすぐに判断する。
「有名なアカウントが拡散してる」
リンクが回っている。
動画が、別の場所で広がっている。
「……来たか」
恒一が小さく言う。
その言葉通りだった。
そこからは、一気だった。
再生数。
フォロワー。
コメント。
すべてが加速する。
通知が止まらない。
「……やばいね」
レイナが笑う。
だが、その笑顔は驚きだけじゃない。
確信に近いものがあった。
「……これ」
「いけるかも」
もう一度、その言葉。
今度は、完全に信じていた。
翌日。
さらに状況は変わる。
「……これ見て」
佐倉が画面を見せる。
音楽配信サイト。
動画が紹介されている。
「……え?」
「ランキング入りしてる」
レイナが固まる。
「……嘘でしょ」
「本当」
さらに。
「こっちも」
別のサイト。
記事。
見出し。
『復活の歌声』
その文字を見て、レイナが息を止める。
「……ほんとに」
言葉が出ない。
ただ、画面を見つめる。
恒一は、その様子を少し離れたところから見ていた。
(……来たな)
ここまで来た。
ゼロから始めて。
少しずつ積み上げて。
ようやく、ここまで。
「……黒沢」
レイナが呼ぶ。
「ん?」
「……ありがとう」
突然の言葉。
「何がだよ」
「ここまで、連れてきてくれて」
少しだけ笑う。
その目は、少しだけ潤んでいた。
「……まだ途中だろ」
恒一が言う。
「これからだ」
「……うん」
レイナが頷く。
その顔は、もう迷っていなかった。
完全に前を向いている。
そのとき。
スマホが震える。
また通知。
また仕事の連絡。
だが、今回は違った。
「……音楽番組?」
恒一が画面を見る。
「出演オファー来てる」
「……え?」
レイナが固まる。
「早くない?」
「早いな」
だが、不思議ではなかった。
この流れなら、来てもおかしくない。
「……どうする?」
恒一が聞く。
レイナは少しだけ考える。
そして。
「……やる」
迷いはなかった。
「ここまで来たなら」
「ちゃんと、やりきる」
その言葉に、重みがあった。
「……いいね」
佐倉が小さく笑う。
「じゃあ、準備しよう」
また動き出す。
次のステージへ。
だが。
その流れの中で。
恒一は、ふと立ち止まる。
(……)
違和感。
ほんのわずか。
だが、確かにあった。
(……順調すぎる)
すべてが、うまくいきすぎている。
できすぎている。
その感覚。
頭の奥に、引っかかる。
だが。
「……まあ、いいか」
小さくつぶやく。
今は、それよりも。
目の前の流れを掴む方が先だ。
そう、自分に言い聞かせる。
レイナが笑っている。
前を向いている。
それだけで、十分だった。
だが。
このときの恒一は、まだ知らない。
この流れの先に、何が待っているのかを。
第20話を読んでいただきありがとうございました。
ついに、レイナの歌が大きく広がり始めました。
ここまでの積み重ねが、ようやく結果として現れた形になります。
ですが——
この流れがずっと続くとは限りません。
順調すぎるほどの展開。
その裏にある“違和感”も、少しずつ大きくなってきています。
ここから先、物語は新たな局面へ進みます。
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引き続きよろしくお願いします。




