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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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第1話 48歳、何も持っていない

はじめまして。

この作品を読んでいただきありがとうございます。


この物語は、

「もう人生遅いと思っている人間でも、変われるのか?」

そんなテーマで書いています。


48歳、独身、実家暮らし。

何も持っていない男が、ある出来事をきっかけに人生を大きく動かしていく物語です。


少しでも共感してもらえたら嬉しいです。

それでは、第1話をどうぞ。


人生なんて、だいたい四十を過ぎたあたりで決まるものだと思っていた。


 まして四十八歳、独身、実家暮らし、派遣社員。


 ここまで来れば、もう逆転なんて言葉は若いやつのためにあるのだと嫌でもわかる。


 黒沢恒一は、畳の上に寝転がったまま、黄ばんだ天井をぼんやりと見上げていた。


 六畳一間。

 子供のころから変わらない自分の部屋。

 壁には昔好きだった競馬のポスターが色あせて貼られたままで、棚の隅には吸いもしないのに買ったままの電子タバコが埃をかぶっている。


 枕元に転がるスマホには、派遣会社からのメッセージが届いていた。


『明日の現場、朝七時集合です。遅れないようお願いします』


「はいはい……」


 誰に聞かせるでもなく返事をして、恒一はスマホを伏せた。


 明日も倉庫。

 明後日もたぶん倉庫。

 たまに工場。

 運が悪ければ引っ越し補助。


 そんな日々を何年繰り返してきただろう。


 若い頃は、こんな人生になるとは思っていなかった。


 普通に就職して、普通に結婚して、普通に家庭を持つ。

 せめてそんな“よくある人生”くらいは自分にもあると思っていた。


 だが、最初の会社が潰れてから全部が狂った。


 転職はうまくいかず、非正規を転々としているうちに年齢だけが積み重なった。

 気づけば、履歴書に書けるのは短い職歴ばかり。

 面接に行けば、年下の面接官に気まずそうな顔をされる。


 ——この歳で、何ができるんですか?


 そう面と向かって言われたことはない。

 だが、言われなくても目を見ればわかる。


「何も、できませんよ……」


 自嘲気味につぶやくと、自分の声がやけに空っぽに聞こえた。


 襖の向こうから、母親の声が飛んでくる。


「恒一ー、ごはんできてるよー」


「……今行く」


 のそりと起き上がり、恒一は居間へ向かった。


 食卓には焼き魚と味噌汁、冷ややっこ。

 慎ましい、というより年金暮らしらしい質素な夕飯だった。


「今日もお仕事お疲れさま」


「別に、大したことしてないよ」


「そんなことないよ。働いてるだけ偉いじゃない」


 母はそう言って笑う。


 その言葉が優しさだとわかっていても、恒一には時々つらかった。


 四十八にもなって、母親に“働いてるだけ偉い”と慰められる人生。


「母さんこそ、買い物行ったのか?」


「うん。卵が安かったからねぇ」


 いつもの会話。

 いつもの夜。

 変わらない実家の匂い。


 たぶんこのまま、自分は何者にもならずに終わっていくのだろう。


 そんな考えが頭をよぎるたび、恒一は食事の味を感じなくなる。


 夕飯のあと、風呂にも入らず近所のコンビニまで歩いた。


 夜風はまだ少し冷たい。

 住宅街の街灯は頼りなく、遠くで犬の鳴く声がした。


 恒一はポケットに突っ込んだ千円札を指先で確かめながら歩く。


 今日の手持ちは、千三百円。

 そのうち千円を使う。

 残り三百円で明日の缶コーヒーを買う。


 我ながら終わってるな、と思う。


 なのに足は自然とコンビニへ向かっていた。


 競馬、競輪、パチンコ、スマホの公営ギャンブル。

 大勝ちなんてしたことはない。

 それでもやめられないのは、負けている時間だけは“今の人生”を忘れられるからだ。


 自動ドアが開き、店内の明るい光が恒一を包んだ。


「いらっしゃいませー」


 バイトらしい若い店員の声。

 雑誌コーナーを抜け、レジ横の端末の前に立つ。


 スポーツくじ、スクラッチ、数字選択式宝くじ。


 普段の恒一は、こういうものはあまり買わない。

 競馬やパチンコと違って、当たる気がしないからだ。


 どうせ夢を買うなら、もう少し“手触り”のある負け方がしたかった。


「……やめとくか」


 小さくつぶやき、踵を返しかけた、その時だった。


 不意に、頭の奥がずきりと痛んだ。


「っ……!?」


 目の前が一瞬だけ白くなる。


 思わず端末の台に手をついた恒一の脳裏に、何かが浮かんだ。


 数字だった。


 六つ。


 まるで黒い空間に白い文字で焼き付けられるみたいに、はっきりと。


3、8、14、27、31、42


「……は?」


 思わず声が漏れる。


 一瞬のことだった。

 だが、妙にくっきり見えた。夢でも錯覚でもなく、“頭に入ってきた”という感じだった。


 恒一は何度か瞬きをした。


「何だ今の……」


 疲れてるのか。

 寝不足か。

 それとも、ついに脳がどうかしたか。


 笑えない冗談だな、と思いながらも、心臓だけが妙にざわついていた。


 数字はまだ頭に残っている。


 3、8、14、27、31、42。


 何の意味もない。

 たまたま浮かんだだけ。

 そんなもの、信じる方がどうかしている。


 だが恒一は、その場から動けなかった。


「……千円だしな」


 誰に言い訳するでもなく、独りごちる。


 どうせ無駄金だ。

 パチンコで千円溶かすのと何が違う。


 そう思って、恒一は端末に数字を入力した。


 3。

 8。

 14。

 27。

 31。

 42。


 指が少し震えていた。


 発券された紙を受け取る。

 レジで会計を済ませる。

 たったそれだけのことなのに、胸の奥に得体の知れないざわめきが広がっていく。


 店を出ると、さっきより夜が静かに感じられた。


 恒一はレシートと一緒に折りたたまれたくじ券を見下ろす。


「当たるわけ、ないよな」


 当然だ。


 もしこんなもので当たるなら、四十八年間ここまで負け続けてはいない。


 人生はそんなに甘くない。

 俺はそんなに選ばれた人間じゃない。


 わかっている。

 わかっているはずなのに——。


 胸騒ぎだけが、消えなかった。


 帰宅すると、母はもう寝る支度をしていた。


「遅かったねぇ」


「コンビニ寄ってただけ」


「またお菓子でも買ったの?」


「いや、別に」


 くじを買ったことは言わなかった。

 言ったところで、情けなさが増すだけだ。


 部屋に戻り、恒一は上着のポケットからくじ券を取り出した。


 薄い紙切れ一枚。

 こんなものに期待するなんて、どうかしている。


 それでも捨てられず、机の上にそっと置いた。


 畳に座り込み、しばらくそれを眺める。


 人生を変えるものなんて、本当はどこにもない。

 変わらない毎日の中で、少しずつ古びていくだけだ。


 自分はもう若くない。

 恋も、夢も、成功も、全部どこか遠い場所の話だ。


 だけど——もし。


 もし万が一、何かが変わるとしたら。


「……いや、あるわけないか」


 苦笑して、恒一は電気を消した。


 暗闇の中で、さっきの数字だけがやけに鮮やかに脳裏に残っていた。


3、8、14、27、31、42


 眠りに落ちる直前、恒一は自分でも気づかないほど小さな声でつぶやいた。


「一回くらい……当たってみたいよな」


 その願いが、人生をひっくり返すことになるとは、まだ知らなかった。



いい流れで始められたと思う。

次はかなり大事なので、**第2話は「当選発表の朝」**にすると強い。

そこで一気に読者を掴める。

第1話を読んでいただきありがとうございました。


ここから主人公の人生が少しずつ動き始めます。

次回は「当選発表の朝」、一気に物語が進みます。


よろしければブックマークや評価をいただけると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


引き続きよろしくお願いします。


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