表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
降誕・新・水滸伝・続篇  作者: velvetcondor guild


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/59

59

毒酒によって散った宋江と李逵の亡骸が、楚州の南門外、蓼児窪りょうじあの清らかな土に眠ってから数日が過ぎました。

一、 月下の報復:高俅の終焉

都・開封の郊外。高俅は、夜風に混じった「琴の音」を耳にしました。

「……誰だ、こんな夜更けに」

次の瞬間、音もなく部屋の隅に影が落ちました。浪子・燕青です。その美貌には、かつての華やかさはなく、ただ北風のような鋭い殺気だけが宿っていました。

「燕青……! 貴様、生きていたのか!」

高俅が悲鳴を上げる間もありませんでした。燕青の手から放たれたいしゆみの矢が、高俅の喉笛を正確に貫きました。もがき苦しむ高俅の耳元で、燕青は氷のように冷たい声で囁きました。

「これは、毒酒に消えた百八人の兄弟たちの、最後の一杯だ。冥土へ持っていくがいい」

かつて一国を揺るがした権勢の徒は、誰に看取られることもなく、どす黒い血を吐き出しながら、闇の中でその醜い生涯を閉じました。

二、 蓼児窪:墓前の静寂

季節は巡り、蓼児窪の丘には名もなき野花が咲き乱れていました。

そこには、新しく築かれた宋江、李逵、そしてあとを追った呉用と花栄の墓が、寄り添うように並んでいます。

一人の旅人が、その前に立ちました。粗末な衣を纏い、背には一張の琴。燕青です。

彼は高俅の死の報を――手向ける代わりに、ただ静かに、兄弟たちが好んだ強い酒を墓石に振りかけました。

「兄貴……。遅くなりました。ようやく、すべてを片付けてきましたよ」

三、 燕青の独白と「義」の継承

燕青は、墓の前に座り込み、琴を爪弾き始めました。その音色は、かつて梁山泊の宴で皆が合唱した、あの勇壮で、どこか悲しい旋律でした。

「旦那(盧俊義)も、宋江兄貴も……。あなた方は、最後まで『忠』という名の鎖を外せなかった。だが、その愚かさこそが、我ら百八人が命を賭けた『美しさ』だったのでしょうな」

燕青は、空に浮かぶ一筋の雲を見上げました。

百八の星は消え、梁山泊の砦も今は草に埋もれています。しかし、燕青は知っていました。この地を訪れる民たちが、宋江たちの墓に花を供え、権力に抗った英雄たちの物語を、子供たちに語り継いでいることを。

「替天行道……。天に代わって道を行う。その道は、都の宮殿にはなく、この名もなき民の心の中にこそ、永遠に続く道だったのだ」

四、 そして、風になる

燕青は立ち上がると、一度だけ深く頭を垂れ、二度と振り返ることなく歩き出しました。

彼の行く先には、李俊が待つ大海原があるのか、あるいはただの放浪の旅が続くのか、それは誰にもわかりません。

ただ、彼が去ったあとの蓼児窪には、風に揺れる野花とともに、一編の詩が刻まれた木札だけが残されていました。


「星は天に還り、義は地に満つ。梁山泊の夢、覚めてなお、萬古の風に香るなり」


英雄たちの熱き血潮と、散りゆく美学の物語は、ここで静かに、しかし力強く幕を閉じます。

長きにわたる百八星の物語、最後まで共に歩んでいただき、誠にありがとうございました。宋江たちの「義」の物語が、あなたの心の中に小さな星として灯り続ければ幸いです。


『新・水滸伝・続篇』最終回

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ