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降誕・新・水滸伝・続篇  作者: velvetcondor guild


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53/59

53

王慶討伐の戦塵が収まり、静まり返った湖畔。勝利の証であるはずの「楚」の軍旗は泥にまみれ、梁山泊の陣営には、勝鬨かちどきの代わりに低く重い、慟哭の風が吹き抜けていました。

戦場の華々しさではありません。共に死地を潜り抜けてきた「家族」を失った男たちの、剥き出しの悲しみです。

一、 鉄牛(李逵)の迷子:泣けない野獣

いつもは猪突猛進、大声を張り上げて暴れ回る黒旋風・李逵が、この日ばかりは言葉を失っていました。

彼は、水底から引き揚げられた張順の遺品――血と泥に汚れた真っ白な手拭い――を、大きな手で握りしめたまま、陣営の隅でうずくまっていました。

「……おい、張順。起きろよ。お前、水の中じゃ死なねえんじゃなかったのか」

李逵にとって、張順は数少ない「喧嘩のあとの親友」でした。かつて江州で取っ組み合い、水の底に引きずり込まれて完敗したあの日から、二人の間には言葉を超えた絆がありました。

「兄貴(宋江)よ……。俺はよ、遼の兵隊を千人斬るより、こいつとまた一発、水遊びがしたかったんだぜ……」

李逵の大きな目から、大粒の涙が溢れ出しました。それは「鉄牛」と呼ばれた荒くれ者の、最初で最後の、子供のような泣き顔でした。

二、 行者(武松)の静寂:独臂どくびの誓い

一方、行者・武松は、月明かりの下で独り、酒を煽っていました。

彼は水軍の激闘の中で、兄弟のように慕っていた仲間たちの死を次々と見届けました。

武松は、かつて景陽岡で虎を打った時の、あの無敵の力と孤独を思い出していました。しかし、今の孤独はあの時とは違います。

「……義に死ぬ、か。言葉で言うほど美しくはないな、宋江兄貴」

武松の瞳には、かつての鋭い殺気ではなく、悟りにも似た深い虚無が宿っていました。彼は、張順や阮小二が散っていった湖面を見つめ、重い戒刀を強く握り締めました。

「地獄の門まで、あと何人、俺たちの兄弟が並ぶことになる。……だが、俺は止まらん。止まれば、死んだ奴らの道が途絶えてしまう」

三、 魯智深の祈り:花和尚の慈悲

その武松の背中に、大きな影が寄り添いました。花和尚・魯智深です。

彼は一言も発さず、武松の隣に腰を下ろすと、懐から数珠を取り出しました。

「武松よ。……死んだ奴らは、皆、星へ戻ったのだ。梁山泊という名の、天の星にな」

普段は豪放磊落に笑う魯智深の、震えるような低い声。彼は仏門に身を置きながら、誰よりも人の死を悼み、その魂の重さを知っていました。

二人の英雄が、月下の湖畔で並んで座る姿は、消えゆく梁山泊の栄光を象徴するような、あまりにも寂しく、気高い光景でした。

四、 宋江の絶望と呉用の決意

陣屋の奥では、宋江がその光景を幕間から見て、嗚咽を漏らしていました。

「私のせいだ……。私が、彼らを陽の当たる場所へ連れて行こうとしたばかりに、彼らを闇に突き落としてしまった」

呉用は、その宋江の背中を支えることすらできず、冷たく燃える蝋燭を見つめていました。

「宋殿。悲しみを止めてはなりません。しかし、我らは進まねばならぬ。

梁山泊の好漢たちは、心に癒えぬ傷を抱えたまま、次の戦場へと向かう準備を始めました。彼らの背負う「替天行道」の旗は、もはや栄光の象徴ではなく、死者たちの魂を包む経帷子きょうかたびらのようになびいていました。

親友の死を乗り越えるのではなく、その重みを背負って歩き出す李逵と武松。


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