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高俅という「劇薬」を都へ放った宋江と呉用の目論見は、予想もしない、より苛烈な形となって朝廷を突き動かしました。
泥にまみれ、乞食のような姿で開封に戻った高俅を待っていたのは、皇帝の慈悲でも、部下たちの安堵でもありませんでした。それは、彼が築き上げた権力の座を虎視眈々と狙っていた**「若き野心家たち」による非情な切り捨て**でした。
一、 権力の交代:後継者・童貫の冷笑
高俅の不在の間、軍の全権を掌握したのは、蔡京と結託した枢密使・童貫でした。彼は、梁山泊の噂を聞きつけ、高俅を「国を売った逆賊」として処理する絶好の機会と捉えたのです。
「太尉様、おいたわしや。梁山泊でさぞかし恐ろしい毒でも盛られたのでしょう。……もはや、まともな判断はできぬご様子」
都の門前で捕らえられた高俅は、弁明の機会すら与えられず、自身の屋敷の奥深くにある「開かずの間」へと押し込められました。かつて自分が宋江を閉じ込めたのと同じ、窓に鉄格子がはめられた**「黄金の牢獄」**です。
高俅は、林冲に叩き込まれた腹の激痛にのたうち回りながら、自分が育てた部下たちが、自分の印章を奪い、自分を「生ける亡霊」として葬り去るのを、ただ見ていることしかできませんでした。
二、 梁山泊討伐隊「八門金鎖」の結成
童貫は、高俅の失態を塗り替えるべく、北方の国境を守る精鋭「禁軍八校尉」を呼び戻し、最新鋭の重装甲騎兵を中心とした**「梁山泊討伐総力軍」**を編成しました。
その規模、実に五十万。
高俅のような私欲による小競り合いではなく、これは「国家の威信」を賭けた、梁山泊という異分子を根絶やしにするための、文字通りの殲滅戦の布陣でした。
三、 梁山泊参謀本部の迎撃態勢
都の変節は、即座に**朱武(諜報参謀)**の放った間者によって梁山泊へもたらされました。参謀本部の空気は、かつてないほどに研ぎ澄まされます。
「高俅が失脚し、童貫が動いたか。……狙い通りだ」
**呉用(総参謀長)**は、地図上の開封の駒を弾き飛ばしました。
「敵は高俅の失敗を糧とし、より組織的、より大規模な正面突破を図ってくる。徐寧、軍制をさらに強化せよ。公孫勝、天候を読み、敵の機動力を削ぐ『霧の罠』を準備せよ」
四、 宋江の宣告:第二の国家の「国防」
宋江は、もはや高俅の影を追うことはありませんでした。彼の視線は、三十万の兵が整然と並ぶ梁山泊の広大な練兵場に向けられていました。
「高俅という過去は終わった。今、我々の前に立ちはだかるのは、腐り果てた北宋という『体制』そのものだ」
宋江は、参謀本部の面々を見渡しました。
「これは討伐ではない。二つの国家による、覇権を賭けた戦争であると心得よ。我らが敗れれば『賊』として死ぬ。勝てば、新たなる歴史の『祖』となるのだ」
高俅が暗い部屋で孤独な死の恐怖に怯える一方で、梁山泊は**「参謀本部」という頭脳と、「三十万の軍勢」という肉体**、そして**「宋江」という魂**が完全に一体となり、史上最大の激突へと突き進んでいきました。
高俅を幽閉し、より強大な軍を率いて現れた童貫。梁山泊はついに、一人の悪党ではなく「国家」を相手にする戦いへと突入します。




