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降誕・新・水滸伝・続篇  作者: velvetcondor guild


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40

梁山泊の仮設本陣は、張り詰めた静寂に包まれていました。

三十万の軍勢を盤石にし、「国家」としての体裁を整えた今、宋江と呉用はあえて、手に入れた最強の駒である高俅を「放つ」という博打に出ました。

一、 策士たちの冷徹な計算

「高俅殿、もはや貴殿をここに留めておく理由はない。……都へお帰りなさい」

宋江の言葉に、高俅は耳を疑いました。命を奪われるか、一生飼い殺しにされると思っていたからです。しかし、宋江の傍らに立つ呉用の目は笑っていませんでした。

「高俅殿。貴殿が都に戻れば、そこには貴殿を『裏切り者』と断じる証拠が山積している。死罪は免れぬでしょう。だが、貴殿が生き延びる道はただ一つ……陛下に、我ら梁山泊がいかに強大か、そして『我らと手を組むことこそが唯一の生存戦略である』と吹き込むことです」

これは解放ではなく、高俅という「火種」を朝廷の真っ只中に投げ込む、最期にして最大の攪乱工作でした。

二、 一頭の馬と、絶望の門

梁山泊の正門。

そこには、一頭の痩せた馬と、やつれ果てた高俅が立っていました。かつての権威を象徴する華やかな輿も、禁軍の護衛もありません。

「……さらばだ、宋江。この屈辱、一生忘れぬぞ」

高俅は捨て台詞を吐き、馬に跨りました。しかし、その声は震えていました。都へ戻っても待っているのは茨の道であることを、彼自身が一番よく知っていたからです。

三、 林冲の咆哮、最後の一撃

高俅が馬を歩ませようとしたその時、重い足音と共に一人の男が立ち塞がりました。

豹子頭・林冲。

その手には蛇矛はなく、ただ怒りに燃える拳がありました。

「……林冲か。どけ、私は解放されたのだ!」

高俅が怯んだ瞬間、林冲の拳が高俅の腹部へ、稲妻のごとく叩き込まれました。

「ぐはっ……!!」

内臓を揺さぶるような一撃。かつて愛妻を奪われ、人生を狂わされた林冲の、積年の恨みのすべてが込められた一撃でした。高俅は馬上で悶絶し、血を吐きながら崩れ落ちそうになります。

「これは、貴様が殺した同胞たちと、亡き妻の分だ」

林冲は冷たく言い放つと、そのまま高俅の乗った馬の尻を、力任せに平手でひっぱたきました。

「行け! 二度とその面を見せるな!」

四、 泥濘に消える権力者

馬は驚いて嘶き、猛然と走り出しました。

馬上から転げ落ちぬよう、必死に馬の首にしがみつく高俅。かつて天下を牛耳った太尉の姿はそこにはなく、ただ一人の惨めな老人が、泥を跳ね上げながら霧の向こうへと消えていきました。

宋江と呉用は、その背中を高い砦の上から見下ろしていました。

「これで……すべてが揃った」

呉用が静かに呟きました。

「高俅が都で足掻けば足掻くほど、朝廷は自壊し、我らの『第二の国家』は相対的に正義となる。宋殿、時代が我らを呼んでいます」

宋江は答えず、ただ林冲が立ち尽くす荒野を見つめていました。

高俅を放ったことは、朝廷との対等な「外交戦」の始まりを意味します。三十万の軍勢、完成された参謀本部、そして都に放たれた猛毒。

梁山泊の星々は、いまや中国全土を飲み込む巨大な渦へと進化を遂げようとしていました。

高俅という火種が都へ向かいました。林冲の一撃は、過去との決別であり、梁山泊の「独立」を告げる鐘の音でもありました。

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