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梁山泊、泥と鉄の砦。
都から生還した宋江を囲み、百八星の主要な面々が再び集ったのは、かつての聚義庁の残骸に作られた、冷たい風の吹き抜ける作戦会議場でした。
宋江の顔からは甘さが消え、その瞳には凍てついた決意が宿っています。
呉用が、地図の上にいくつかの黒い石を置きました。
一、 呉用の断腸の策:『焦土の檻』
「皆、聞け。高俅は今度こそ、我らを根絶やしにするために十万の正規軍を動かす。もはや、この島に籠もるだけでは全滅を待つのみだ」
呉用の声は低く、そして非情でした。
「最後の方策は……**『梁山泊を捨てる』**ことにある」
その一言に、周囲の好漢たちが息を呑みました。しかし、呉用は続けます。
「捨てると言っても、逃げるのではない。この島全体を、高俅の軍を葬る巨大な『棺桶』にするのだ。敵を島の中心部まで引き込み、そこで一気に火を放つ。我らはその混乱に乗じ、水路と地下道を抜けて、敵の本陣、すなわち高俅の首一点のみを狙う」
二、 役割の分配:最後の輝き
呉用は、震える手で各々に最後となるかもしれない命を下しました。
誘引:李逵と魯智深
「お前たちは、正面から敵を迎え撃ち、わざと負けて退け。敵を島の深部、火薬を仕掛けた泥濘地帯へと誘い込むのだ。最も危険だが、お前たちにしか務まらん」
伏兵:林冲と武松
「林冲殿、武松。貴殿らはあえて島を脱し、湖の対岸、官軍の背後の葦原に潜め。島が燃え上がった時、逃げ場を失い混乱する敵の背後から、高俅の喉元を食い破れ」
水の壁:李俊と阮三兄弟
「水軍は湖の底に沈めた杭を浮かせ、官軍の退路を完全に封鎖せよ。一兵たりとも、この湖から生かして帰すな」
三、 宋江の宣告:『修羅の旗』
宋江はゆっくりと立ち上がり、ボロボロになった「替天行道」の旗を、自らの手で篝火の中へ投げ込みました。
「兄貴!? 何を!」
李逵が驚いて叫びましたが、宋江の横顔は動きませんでした。
「……『天に代わって道を行なう』時代は終わった。これからは、誰のためでもない、我ら百八人の『義』を証明するためだけに戦う。この旗が燃え尽きた灰こそが、我らの新たな旗印だ」
宋江は腰の剣を抜き、その刃を自らの掌に当てて、一気に引き切りました。滴る血を、地図の上に広がる梁山泊の図面へと滴らせます。
「高俅に教えよう。我らは、折れることはあっても、屈することはない。この山が燃え尽きる時、それこそが北宋という国の終わりの始まりであることを、奴の眼に焼き付けてやるのだ」
四、 嵐の前の静寂
砦の外では、すでに地平線を埋め尽くす官軍の松明の光が見え始めていました。
十万対、数百。
数字の上では勝負になりません。しかし、この「最後の方策」は、勝利を求めたものではなく、自分たちが「英雄」として、あるいは「壮絶な逆賊」として、歴史に深く爪痕を残すための、死を前提とした狂気の策でした。
「さあ……始めようじゃねえか。最高の宴をよ」
武松が低く笑い、刀を鞘に収めました。
梁山泊の夜が明けていきます。
ついに、梁山泊を舞台とした最終決戦の幕が上がります。




