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燃え盛る高俅の屋敷。崩れ落ちる回廊の奥で、官軍の兵たちは絶望的な恐怖に包まれていました。
そこに立っていたのは、人間ではなく、炎を背負った二尊の憤怒相――武松と魯智深でした。
一、 炎の断絶
「和尚、頃合いだぜ。兄貴の気配が消えた」
武松が、血に濡れた二振りの戒刀を低く構え直しました。彼の衣は火の粉で焦げ、至るところから血が滲んでいましたが、その双眸は獣のように爛々と輝いていました。
「ふん、ようやくか。これ以上この杖を振り回すと、この立派な屋敷が全部平らになっちまうところだったぜ」
魯智深は、折れた槍の山を土足で踏みつけ、大きく息を吐きました。
官軍は二人のあまりの気迫に、数千の兵が取り囲みながらも、誰一人として最初の一歩を踏み出せません。その沈黙を切り裂くように、魯智深が禅杖を石畳に叩きつけました。
「さらばだ、腰抜けども! 地獄へ行くのは、お前たちの主人が先だ!」
二、 奇跡の脱出:燕青の「糸」
二人が包囲網を突破しようとしたその時、崩落した屋根の間から一筋の縄が降りてきました。
「和尚! 武松兄貴! こっちだ!」
それは、脱出したはずの**燕青**でした。彼は一行を逃がした後、この二人の「仁王」を死なせないために、独り密かに引き返していたのです。
「燕青か、余計な真似を……」
武松は苦笑しながらも、その縄を掴みました。二人は炎上する屋根の上へと一気に駆け上がります。背後から放たれた無数の矢は、燕青が事前に仕掛けていた目眩ましの煙幕によって、空を虚しく切り裂くだけでした。
三、 暗渠の闇を抜けて
三人は屋根を伝い、燕青が事前に買収しておいた水門の管理者、その隠し通路へと飛び込みました。
そこは、都の華やかさとは無縁の、悪臭漂う暗い地下水路でした。
「……武松、お前の脇腹、ひどいな」
魯智深が、暗闇の中で武松の体を支えました。
「和尚こそ、肩に矢が刺さったままだぜ。……笑えねえな」
二人は泥水を分け合い、互いの傷を粗末な布で縛りながら、一歩一歩、光の差す出口へと進みました。
官軍が都の門を封鎖し、街中をひっくり返して捜索している間、彼らは誰も見向きもしない「都の排泄物」が流れる道を通って、死地を脱したのです。
四、 夜明けの再会
翌朝、郊外の古びた廟の影。
宋江たちは、殿を務めた二人の帰りを、祈るような思いで待っていました。
霧の向こうから、足を引きずりながら歩いてくる三つの影が見えたとき、李逵は声を上げて泣き出しました。
「和尚! 武松の兄貴! 生きてやがったか!」
魯智深は、廟の柱に力なく寄りかかり、血まみれの顔でニヤリと笑いました。
「死のうと思ったんだがな……閻魔の野郎が、俺の杖が重すぎて地獄の床が抜けるって、追い返しやがったのさ」
武松は黙って宋江の前に立ち、片膝をつきました。
「……宋殿。……戻りました」
宋江は二人のボロボロになった体を、言葉もなく強く抱きしめました。
黄金の檻の中で腐りかけていた宋江の魂に、二人の流した鮮血が、再び「梁山泊の誇り」を熱く注ぎ込んだ瞬間でした。
最強の二人が生還し、ついに百八星の主要な魂が再び揃いました。しかし、都を脱出した彼らを待っているのは、もはや逃げ場のない「最終決戦」です。




