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燃え盛る砦の火光が、泥にまみれた湖水を赤く染めていた。
もはやこれまでか。林冲が血を吐き、膝を屈しかけたその時、湖の霧の向こうから、地鳴りのような「音」が響いてきました。
それは官軍の火砲の音ではなく、巨大な波が岩を穿つような、重く、力強い**「鼓動」**でした。
一、 闇を裂く「水底の牙」
「……何だ、あの音は」
高俅の別動隊が動きを止め、夜の湖面を見つめました。
霧の中から突如として姿を現したのは、かつての梁山泊の軍船ではありませんでした。それは、巨大な鉄の鱗を纏ったかのような、奇怪にして巨大な**「黒い船団」**。
船首に翻るのは、色褪せた、しかし力強い「義」の旗。
そして、その最前列に立つ男の影を見て、呉用が目を見開きました。
「……李俊か!?」
そこには、宋江の「帰順」の方針に異を唱え、一足先に山を降り、海の彼方へ去ったはずの**「混江龍・李俊」**の姿がありました。
二、 海の王の帰還
「野郎ども、梁山泊の火を消させるな! 陸の義理は知らねえが、この水の都を汚す奴は、俺が許さねえ!」
李俊の声と共に、水面が爆発しました。
船の影から飛び出したのは、**阮三兄弟(小二、小五、小七)**率いる水軍の生き残りたち。彼らは官軍の船を次々と下から突き破り、水底へと引きずり込んでいきます。
李俊が率いてきたのは、南方の海で鍛え上げた、異国の技術を融合させた荒くれ者たちでした。彼らにとって、高俅の別動隊など、浅瀬の雑魚に過ぎません。
三、 意外な合流
さらに、島の背後の断崖からも、雄叫びが上がりました。
そこには、戦いから身を引き、山奥で平穏を求めていたはずの九紋龍・史進、そしてかつての宿敵であったはずの各地の野伏たちが、泥にまみれて駆けつけていました。
「宋江の兄貴がいなけりゃ、この山はただの岩山だ。だが、あんたたちが死んじまったら、俺たちの生きた証が消えちまうんだよ!」
史進の振るう三股叉が、敵の包囲陣を鮮やかに切り裂きました。
一度はバラバラになり、それぞれの道を歩もうとした「宿星」たちが、梁山泊の消えゆく灯火を救うために、誰に呼ばれることもなく集結したのです。
四、 泥濘の中の再燃
「……全軍、立て!」
林冲が、槍を杖にして再び立ち上がりました。その瞳には、絶望ではなく、凄まじい「命」の火が灯っていました。
「加勢は来た。我らの魂は、まだ死んでいない! 高俅の犬どもを、この湖の肥やしにせよ!」
李逵も、武松も、魯智深も、ボロボロの体で笑いました。
「へへっ……おせえんだよ、李俊の野郎……」
「和尚、酒はあの世まで取っておく必要はなさそうだぜ」
絶体絶命だった梁山泊の砦は、この意外な再集結によって、一転して「官軍を飲み込む巨大な蟻地獄」へと変貌しました。




