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降誕・新・水滸伝・続篇  作者: velvetcondor guild


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26

雪が止み、静まり返った梁山泊の仮陣営に、一筋の緊張が走りました。

宋江は、その身を包む古びた官服を整え、皆の前に立ちました。その背中には、もう迷いはありませんでした。

一、 凍てつく決意

「……私は、行く。ただ一人で、開封かいほうの土を踏む」

その一言に、陣営を囲んでいた百七人の好漢たちの間に、激しい波紋が広がりました。

李逵りきが真っ先に飛び出し、宋江の足元に縋り付きました。

「兄貴! 行っちゃいけねえ! 罠だって、死にに行くだけだって、三歳の子供でも分かることじゃねえか! どうして、どうしてあんたほどの人が、そんな毒入りの饅頭を食おうとするんだ!」

宋江は、李逵の大きな手を優しく、しかし力強く振り払いました。

「鉄牛よ。これは毒ではない。これは『証』なのだ」

「証だと……?」

「そうだ。我らがただの賊として、この雪の中に消えるのではないという証だ。もし私が都へ行き、陛下にまみえ、我らの志を直接お伝えすることができれば……お前たちのこれまでの罪はすべて消え、世の民は梁山泊を『義』と認めるだろう」

二、 義と忠の激突

林冲りんちゅうが、一歩前に出ました。その蛇矛の先が、雪を深く突き刺しています。

「宋殿、貴殿が都へ行けば、高俅こうきゅうは必ず貴殿を捕らえ、辱め、最後には毒を盛るでしょう。それは、我ら百八星全員を殺すのと同じことです。貴殿が死んで、名誉だけが残ったとして、この男たちの魂は誰が救うのですか!」

宋江は林冲を真っ直ぐに見つめました。その瞳には、一滴の涙もありませんでした。

「林冲。お前は高俅を恨んでいる。だが私は、この国を愛しているのだ。恨みで動けば、我らはただの血塗られた賊だ。だが、忠義で動けば、死んでもなお、我らの志はこの大地に残る」

「……それは、あまりに孤独な道です」

呉用ごようが、低く、重い声を漏らしました。

「軍師として、私はこの策に賛成できません。宋殿、貴殿が行けば、梁山泊という一つの世界は、そこで断絶します」

三、 孤独な旅立ち

宋江は、呉用に微かな笑みを浮かべました。

「呉用、お前にだけは分かるはずだ。誰かがこの『血の連鎖』を止めねばならないことを。私が生け贄となることで、梁山泊の星々が、平和な世を歩めるのなら……。これは私が、百八人の首領として、最後に果たすべき仕事なのだ」

宋江は、腰に差していた『替天行道』の小旗を抜き、それを呉用の手に握らせました。

「私がいなくなっても、この旗を降ろすな。……さらばだ、兄弟たち」

宋江は、ただ一頭の馬に跨りました。

誰も言葉を返せませんでした。彼を力ずくで止めることはできました。しかし、宋江が纏っているあの「殉教者」のような光を、誰も汚すことはできなかったのです。

「兄貴――ッ!!」

李逵の絶叫が、雪の原野に響き渡りました。

宋江は一度も振り返ることなく、白銀の闇の向こう、魔都・開封へと消えていきました。

残された者たちの間には、寒風よりも冷たい、巨大な穴が空いていました。

首領を失った百七の星々は、それぞれの武器を握り締めながら、ただ遠ざかる蹄の音を、血を吐くような思いで聞いていたのでした。

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