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宋江の言葉を受け、彼らは一度、崩れかけた結界を背に、再び梁山泊へと引き返しました。しかし、そこはもはや以前のような「静かな聖域」ではありませんでした。
仮設の砦:泥濘の牙
八百里の湖水を渡り、島へと戻った彼らが最初にしたことは、祝杯をあげることではなく、土を掘り、杭を打ち込むことでした。
かつて豪傑たちが笑い転げた聚義庁の前の広場は、瞬間に変貌を遂げました。華やかな装飾は剥ぎ取られ、代わりに尖った木柵と、官軍の火砲を凌ぐための泥壁が幾重にも築かれます。
「これは『城』ではない。……ただの『檻』だ」
**公孫勝**が、かつて結界が張られていた空を仰ぎながら呟きました。
もはや不思議な霧が敵を惑わすことはありません。島を囲むのは、むき出しの泥と、いつ官軍が押し寄せるか分からない恐怖だけでした。
鉄と泥の休息
仮設の砦は、ひどく殺風景なものでした。
屋根は雨漏りを防ぐのが精一杯の筵であり、好漢たちは泥にまみれたまま、そこで短い眠りにつきました。
「和尚、こんなところで寝てると、体が土に還っちまいそうだぜ」
武松が、凍った土の上に座り込む魯智深に声をかけました。
「構わんさ。元々、俺たちは土から生まれたようなもんだ」
魯智深は、泥だらけの手で数珠を回しながら答えました。
砦のあちこちでは、**湯隆**たちが休む間もなく武器を鍛え直す槌の音が響いています。かつての梁山泊が「風流な山」であったなら、今のここは「死に物狂いの兵器工場」と化していました。
宋江の沈黙
宋江は、その仮設の砦の一角に据えられた粗末な床几に座り、ひたすら対岸の動きを見つめていました。
結界が壊れたことで、島の様子は対岸から丸見えです。しかし、宋江はあえて旗を隠そうとはしませんでした。
「隠れても無駄だ。我らがここにいることを、世界に知らしめる」
呉用は、その宋江の背中を見て悟りました。この仮設の砦は、守るためのものではない。自分たちの「志」を、最後の一滴まで絞り出すための**「死に場所」**を自分たちの手で作っているのだ、と。




