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降誕・新・水滸伝・続篇  作者: velvetcondor guild


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21/59

21

山を降りる百八人の列は、音もなかった。

鎧が擦れるわずかな音と、馬の鼻息。それ以外は、ただ雪を踏みしめる重い足音だけが、凍てついた湖畔に響いていた。

宋江を先頭とする一団が、かつて朱貴しゅきが営んでいた「湖畔の居酒屋」の跡まで辿り着いたとき、道は二つに分かれていた。

ひとつは、朝廷の使者・洪信が待つ、華やかな、しかし毒に満ちた都・開封へと続く官道。

もうひとつは、民が飢え、土匪が跋扈する、名もなき荒野へ続く間道。

「宋江の兄貴、どっちへ行くんだい」

二丁斧を肩に担いだ李逵りきが、無邪気な、それでいて鋭い問いを投げかけた。

「俺たちの居場所は、あっちの綺麗な道にはねえはずだ」

宋江は答えず、ただじっと北の空を見つめていた。

そこには、重く垂れ込めた雲の切れ間に、かつて自分たちを導いたはずの星々が、今は寒々しく光っている。

「……呉用、おまえには何が見える」

「風が見えます。血の匂いを孕んだ、不吉な風が」

呉用は羽扇を閉じ、暗闇の先を指した。

「使者・洪信が持ってきた勅書には、我らを『先鋒』として使うとありました。それはつまり、我らが露払いとなり、朝廷が手を汚したくない汚れ仕事をすべて引き受けろということです。最初の標的は、すでに決まっておりましょう」

そのとき、暗闇の中から一騎の馬が駆け寄ってきた。

斥候に出ていた「神行太保」戴宗たいそうである。その足取りは、いつになく乱れていた。

「兄貴、一大事です!」

戴宗は息を切らしながら、宋江の前に膝をついた。

「山を下りた我らを待ち構えていたのは、歓迎の宴ではありません。官軍の精鋭、そして……高俅こうきゅうの息がかかった軍勢が、すでに十里先に陣を敷いています。彼らは我らを『招安』する気などありません。山から引きずり出し、平地で一網打尽にするつもりです!」

「何だと!」

魯智深が禅杖を地面に叩きつけた。氷が砕ける鋭い音が響く。

「あの狐野郎め、最初から騙し討ちにするつもりだったか!」

林冲の眼が、氷のように冷たく冴えわたった。

「……想定内です」

林冲は愛槍を握り直し、宋江を見た。

「兄貴、結界は破れました。もう逃げ場はありません。ここが、我ら百八人が『賊』として死ぬか、『義』として生きるかの分水嶺です」

宋江はゆっくりと、腰の剣を引き抜いた。

その剣は、月光を浴びて青白く、しかしどこか悲しげに光った。

彼は背後に続く百八人の顔、一人ひとりをなぞるように見渡した。

そこには、「英雄」の輝きよりも、もっと深く、重い「覚悟」が刻まれていた。

「皆、聞け」

宋江の声は、低く、だがすべての好漢の心臓を直接叩くように響いた。

「我らは今、この山を捨てる。だが、志を捨てたわけではない。朝廷が我らを裏切るというのなら、我らはその裏切りさえも糧にして、天の道を歩むまでだ」

宋江は剣を、官道ではなく、荒野の方角へと向けた。

「官道へは行かぬ。我らは闇を行く。高俅の軍を背後から突き、この国の腐った根を、まずは我らの手で一つ、切り落とす!」

「おおおっ!」

地鳴りのような咆哮が、雪の原野に爆発した。

それは、終わりの始まり。

百八星という巨大な流星が、ついに大地へ激突しようとしていた。

宋江は心の中で、誰にも聞こえぬ声で呟いた。

(晁蓋の兄貴。見ていてくだされ。俺たちが、この国の闇を照らす最期の灯火となってみせます)

雪は、ますます激しさを増していた。

百八の影は、白銀の世界へと消えていく。

その後に残されたのは、ただ深く、暗い、歴史の裂け目だけであった。


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