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降誕・新・水滸伝・続篇  作者: velvetcondor guild


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11 降誕・新・水滸伝

天命刻印録


数年後 地上界


百八日の儀が終わってから、

天は何事もなかったように静まり返っていた。


大元の石碑は閉じ、

刻まれた百八の名は、

ただ石の奥に眠っていた。

その時を知る者は、

天においても少なかった。

まして地上では、

誰一人として知らない。


数年後。


大宋の世も、まだ春浅く、

人の心には静かな波が寄せては返していた頃である。


地上界のある山。


雲は低く流れ、

古い松が岩を抱くように立つ。

そこは仙人が住まうと伝えられる山であった。


人々はこの山を畏れ、

また頼った。

戦の続く世である。

悪霊が出る、

疫が流れる、

人が倒れる。

そのたびに

人は山へ登り、

祈りを捧げた。


その山を皇帝に命じられた一隊の軍人達が山に登っていた。


兵を率いる一人の男。

名を

洪信。


戦を重ねた武人であった。


仙人は、不在で有った。


留守番の者には案内させて彼は山の堂に入り、

仙人の像の前に香を焚いた。

悪霊退散。

兵の無事。

国の安寧。

祈りは真面目であった。


やがて、祈りが終わる。


だが、武人である、一息付くと酒を求めた。


山の仙人の堂には、

古くからの酒が備えられていた。

洪信はそれを飲んだ。

一杯。

また一杯。

山の冷えた空気と

強い酒。


やがて

彼は大きく笑い出し酒の器を持ち敷地内を歩き出した。


敷地の奥に古い封印の扉を見つけ、洪信は、兵に命じ扉を開けと命じた。


留守番の者は、命に代えても封印を守ると扉の前に立ちはだかった。


だが、兵は、いとも簡単に封印を解き放した。


洪信は、堂に入った。

堂の奥に古い石碑があった。


誰も触れてはいけない石。

苔に覆われ、

文字もほとんど読めない。


洪信はそれを見て言った。

「この山の仙人どもは、

石まで祀るのか。」


兵たちは止めた。

だが洪信は笑った。


酒に酔い、

恐れを忘れていた。

彼は石碑に近づき、

手をかけた。

石は重い。


しかし

長い年月で、

わずかに動くようになっていた。

洪信は力を込めた。

石が軋んだ。


その時、

石碑の表面に刻まれた古い文字が、

かすかに光った。


洪信はそれに気づかない。

ただ声を上げて笑いながら言った。

「仙人よ、怒るなら怒ってみよ。」


そして彼は、

刻まれていた文字を声に出して読んだ。

「こう……」


苔の奥に隠れた文字。

「こう来たりて……」


兵たちは顔を見合わせた。

風が止まった。


洪信は最後の文字を読んだ。

「開く。」


その瞬間。

石碑が

深く震えた。


閉ざされていた

大元の石碑。

そこに刻まれた百八の星の名が

同時に応じた。

石の奥で眠っていた魂が

一斉に揺らいだ。

何かが目覚めた。

黒い渦が姿を見せた。

渦の中心には、百八の光が脈を打ち、

まるで封じられた魂が、

いましも呼吸を取り戻すかのようである。


やがて、天のどこからともなく声がした。

それは言葉とも、ただの響きともつかぬものだったが、

確かにこう告げていた。


「時、至れり」


次の刹那、百八の光は鎖を断つように弾け、

四方へ飛び散った。


それらは星ではない。

天に宿り、地に落ちるべくして落ちる、

運命の種子であった。


このとき、

天も地も、

まして人の世の誰ひとりとして、

その行く末を知る者はなかった。


百八の光がすべて地へ落ちたとき、

夜空は何事もなかったように澄み渡った。


だが、この夜を境に、

大宋の世は静かに、確かに、

ひらかれたのである。


封印は解かれた。

百八の星の魂は

天の石から流れ出し、

地上の石へと散っていく。

山へ。

川へ。

野へ。

村へ。


遠い未来。

その先に何が芽吹くのか。

今は、誰も知らない。


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