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悪役令嬢を降りますので、後は好きにやってください  作者: 雲乃琳雨


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8/20

8、買い物イベント

 王子は、カロリーナについて考えていた。


(今まで一緒にいて、あれだけ迷惑したのに、人間性が変わるのだろうか?)


 きっかけは、多分男爵令嬢の嫌がらせだろう。階段の時から言葉がおかしくなった。あの女生徒は言葉にあらがえないような、不思議な魅力がある。自分の判断も甘くなってしまった。


(自分で確かめた方がいいだろう)



 朝、校門の先で王子とベンが立っている。登校してきた、カロリーナに声をかけてきた。


「おはよう」

「おはようございます」


 カロリーナは挨拶と軽くお辞儀をするが、露骨に嫌な顔をする。それを王子は、引きつりながらも笑顔で返す。


「少し話がある。歩きながら話そう」

「はい」

「今度の休日、街まで視察に行くのだが、同行してもらえないだろうか」


 王子の申し出に、カロリーナは驚いた。今まで王子から誘うことは、一度もなかった。


「あー、その日は買い物をする予定がありまして……。遠慮します」


 カロリーナは、二人を置いてさっさと行ってしまう。二人は、ぽつんと残された。

 その日は、王子の誕生日プレゼントを買う予定だった。親しくもないのに、本人と行くわけにはいかない。ベンはカロリーナの様子で、すぐに分かった。この時期の令嬢の買い物と言ったら、それだ。もうじき王子の誕生日舞踏会が開かれる。


「多分、王子の誕生日プレゼントを買いに行くんですよ」

「なんだと⁉」


 王子は赤くなって、ベンを見る。


(多分、付いて行くだろうな)


 軽くため息をついて、ベンは思った。

 カロリーナは、舞踏会には行くつもりはない。ここで行かなければ、いい興味ないアピールになる。でも、プレゼントぐらいは贈っておこうと思ったのだった。


(毎年贈っているし、護衛を付けてくれた件もあるし、監視だろうけど。プレゼントを渡すのは、今回を最後にしてもいい)



 休日の日、カロリーナは馬車にサラと乗って、買い物に出かけた。カロリーナは毎年、王子にろくでもないものを贈っていた。長寿になると言われている、動物の干物。魔除けの木彫りの置物。仮面舞踏会用の宝石がゴテゴテ付いて重い上に、変な羽飾りのついた悪趣味な仮面など。今年はお詫びに、まともなものを贈ってそれで最後にしよう。街に来ると人気の宝飾店に入った。店員が寄ってくる。


「どのようなものをお探しですか?」

「若い男性用で、誕生日のプレゼントを探しています」

「もちろん私のだろうな」

「!」(ぎゃあ)


 後ろから変装した王子が声をかけた。カロリーナは、心の叫びが出なくて良かったと思った。王子の変装は帽子に茶色の髪にメガネ。カロリーナの後をつけて、同じ店に入ったのだった。


(これもスチルか。どんな姿でもお似合いです)


「そうなんですけど」(バレたら言うしかないよね)「ここでお買い物ですか?」

「そうだ」(まともな店に入ったな)


 王子も、今までもらった物のことを考えていた。


「ちょうどいいです。お気に召したものがありましたら、それにします」(悩む手間が省ける)

「いや、君が選んでくれ」


 そう言うと王子はその場を離れて、他の物を見に行ってしまった。店員が、いくつか商品を出してくれた。


「こちらはいかがですか。プレゼントに人気のモチーフです」

(あ~、びっくりした。さて、どれがいいかな)


 シルバーのブローチに目を止めた。下向きの剣のモチーフに、横向きのユニコーンの頭が付いている。この国では、ユニコーンは幸運のアイテムとされていた。十字の中心に、長方形の濃い水色の見事な宝石が付いている。


(これいいかも! 自分の目や髪色の宝石は、山のようにプレゼントされているだろうから。宝石の色やこのデザインがカッコよくて、絶対王子に似合う! 本人にあててみようかな)


「決まったのか?」

「はい! ちょっといいですか?」


 カロリーナは、ブローチを王子の左胸上に近づける。王子はちょっと驚く。


「これにします!」

「そうか」


 すると王子も、同じカットの大きな黄色い宝石が付いたシルバーのブローチを、カロリーナの左胸上にかざした。石を中心に放射線状の彫りがあり、周りを小さい曲線が囲むデザインだ。王子の顔が和らぐ。カロリーナは、きょとんとした。


「?」

「これを、プレゼント用に包んでくれ」


 王子は、対応していた店員にブローチを渡す。カロリーナも、出してくれた店員の方にブローチを渡した。

 先に商品を受け取った王子は、それをカロリーナに差し出した。カロリーナは驚く。


「私からのプレゼントだ。私のせいで、迷惑をかけた婚約破棄のお詫びと、それから、お願い事があるからだ。この後、少し話をしたい」

(嫌な予感しかしない……)


 カロリーナは、プレゼントを受け取った。

 二人は店の外に出る。広場にある、植え込みのブロックに二人で座った。


「お願いというのは、誕生日の舞踏会でファーストダンスを踊ってほしい。誰かをファーストダンスに誘えば、最有力候補だと勘違いされるだろう。それを避けたいのだ」

「分かりました。そちらも、勘違いされない態度でお願いしますよ」

「それは、抜かりない。お前は不参加のつもりだっただろうから、終わったら帰ってもいい」

「助かります」(元婚約者だから、私と踊るのは差し支えない。他の人に公平にってことよね。帰ればまた、便宜的なのは分かるだろうし、久しぶりに踊れるからいいか)


 カロリーナは、結局ダンス好きだった。


「それと聞きたいことがある。お前はあの階段の件以来、変わってしまった。それは男爵令嬢のせいか? 後輩とも親しくなったし、成績も上がった」

「ええ、まあ」(そういうことにしておこう。前世で双子の妹がいたから、年下の扱いはお手の物よ。勉強もそこそこまじめにやってたし)「男爵令嬢の姿を見て、反面教師になったというか……」


 口元に手を当て、うつむきがちになり、しおらしく振る舞った。


「そうか」(とりあえず納得したみたい。よし。そうだこの機会に、ヒロインの好感度を聞いておこう)

「王子は、男爵令嬢のことをどう思いますか?」

「そうだな、不思議な令嬢だと思う。彼女を悪く扱えないというか」


(堅物の王子も懐柔するとは! 恐るべしヒロイン属性……。それなら、どんなクソなことをしても、心を入れ替えました、とか言えば許される可能性大。ライバル達が、1/5ヒロインに対して、ヒロインは1人で最強ということ⁉)


 王子は、ぶつぶつ考えているカロリーナの横顔を見る。


(カロリーナは、今まで良い面が出ていなかっただけで、知らない面がたくさんあったということだな。たとえば、足が速いとか)「クッ」

「は?」(今笑った?)

「なんでもない」


 王子は思わず、笑いが漏れてしまった。握った手で、口元を少し隠して横を向き、コホンと咳払いをする。


「では、そろそろ行くとしよう」

「視察でしたね」

「ああ」(カロリーナの)目的は終わった。


 王子は慌てて、お忍び用の馬車に乗り去って行く。王子を見送るとカロリーナも、「お待たせー」とサラと一緒に馬車まで歩いて行った。



 王子の誕生日が近づき、王宮にプレゼントが届き始める。プレゼントは前もって送る者や、直接持ってくる者、舞踏会当日に持参する者もいる。プレゼントにはカードに目録が書いてあるものもあり、それを見て仕分けされる。それもベンの仕事だ。開封前のプレゼントは、執務室に運んである。


「カロリーナの、プレゼントは来ているか?」

「ああ、ありますよ。今年は小さい箱ですね」


 王子は、それをさっと受け取ると、自分の部屋に持って行った。


「?」


 部屋で包みを開けると、ユニコーンのブローチが出てきた。王子はそれを見て、思わずニヤッと笑った。

 カードには、


『よくお似合いでしたよ』


 と書いてあった。


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