7、護衛が付く
翌日、校内の廊下でカロリーナは、黒髪の美形騎士に声をかけられた。長めのショートカットで、鋭い目つきはいかにも武士といった感じだ。
「王子の命令で、今日からしばらく私が護衛に付きます。ロッドワイラーです」
(犬? あれはロットワイラーか。懐かしい響きで親近感。でも、護衛が付いたら悪目立ちするのだが)
多分昨日、王子が追いかけたので念のため、嫌がらせ防止で付けたのだろう。後、監視。
「よろしくお願いします」(向こうから、攻略対象がやってくるのはどうしたものか)
シュタイン・ロッドワイラー男爵令息は同じ2年生で、この人もすでに、王子の騎士として働いている。学園で一番の剣の使い手で、攻略対象でもある。
(でも美形をお供に、二人で歩くなんていいわよね。これもきっとイベントなのね♡)
カロリーナは上機嫌だった。王子もたまには、いいことするわね。二人でいれば王子派の人達に、ライバル視される事はない。
昼休みになり、二人で、外の席でランチを食べることにした。芝生のテーブル席が空いていた。
(やっとイベントが楽しめる!!)シュタインにとっては、こっちのことなんか気にもしていないだろうが、そんなことはどうでもいいのよ!(美形とランチよ!)笑
お弁当を出そうとすると、目の端に人影が写る。金髪のサラサラヘアに前髪を分けた女の子が、植え込みに隠れてこちらを見ていた。白のリボンを頭のてっぺんで結んで、端が耳のように立っている。あれはライバルの一人、生徒会書記の1年、アリス・デュー伯爵令嬢だ。
(もしかして、黒犬の事が好きなの?)ライバルと攻略対象を引っ付けるのは、ちょっと名案じゃない?
カロリーナは自分の口元に手を当てて、身を乗り出し、小声でシュタインに聞いてみる。
「アリス令嬢のこと知ってる?」
「はい、生徒会書記のデュー伯爵令嬢ですね。うちの隣の領地です」
シュタインも、アリスの視線には気が付いていた。アリスは二人が急接近したので、ぴょこぴょこ焦っている。アリスの方をちらりと見ながら、
「あの子、あなたのこと好きみたいよ」
「え!?」
「私とあの子だと、どっちがいい?」
シュタインは迷わず答える。
「あちらの令嬢です」
「素直で大変よろしい!」
二人は席を立つと、走って逃げる。アリスは慌てて後を追いかけた。角を曲がると、シュタインとぶつかる。
「わあ!」
ぶつけた鼻に手を当てて、アリスは思わず大声を出す。
「誰かをお探しで?」
「いえ、あの」
シュタインの前なので慌ててしまい、アリスは涙目になる。カロリーナは、シュタインの後ろから、ひょいと顔を出し、
「私よね」
「はい」 ということになった。
アリスも昼食を持ってきていたので、席に戻って3人でランチを取ることにした。アリスは大きな水色の瞳と、体型が小柄でとてもかわいらしい。不思議の国のアリスが、モデルなんだろうなと思う。
「領地が隣りなので、お祭りに行って先輩の事を見たことがあります」
アリスは、恥ずかしそうに話す。
「そうなんだ~。シュタイン君は、アリスちゃんの憧れの人なんだね」
「はい!」
アリスは顔を赤くして恥ずかしながらも、正直に答えた。好意を持たれて嫌な気はしないはず。シュタインもアリスに興味を持っていた。
(なんて初々しいの♡)萌えスチルね
二人を視界におさめながら、カロリーナはにっこりして頬に手を当てて、ランチを食べる。
「ねえ、任務の間は3人でランチをしましょうよ。2人より、いいわよね」
シュタインに同意を求める。
「そうだな」
「ありがとうございます。カロリーナ先輩!」
校舎内を歩くベンが、3人が座って話している姿に気が付いた。
「王子、あれを見てください。なんか楽しそうですよ」
「なぜ、デュー令嬢がいる? 任務はあんな内容だったか?」
「さあ? 報告を待つしかないですね」
シュタインの任務は3日間で、その間3人は一緒に昼食を取った。主にカロリーナとアリスが話して、シュタインは聞いているだけだった。アリスは生徒会役員なので、素行は王子のお墨付きだ。庇護欲をそそる妹キャラなので、シュタインは3日間で、アリスにメロメロになっていた。
その後、間もなく二人の婚約が決まる。これでライバルが一人片付いた。
任務最終日の放課後、シュタインは報告のため、生徒会室にいた。王子とベンがいる。シュタインは、両手を後ろに回して立つ。
「アルファイン令嬢の周りに、不審な者はいませんでした」
「何、楽しんでるんですか」
ベンがチクリと言う。
「いい任務でした」シュタインは、横を向いてほほを染める。「アルファイン令嬢は思ったよりいい人でしたよ。後輩に気を遣ったり、素行に関しては以前と違って、穏やかでした」
王子は客観的な意見を聞くために、カロリーナの様子についても報告するように言っていた。シュタインはカロリーナの隣のクラスで、以前はカロリーナが騒ぐと声が聞こえていたが、最近はそういったこともない。
「…」
ベンは苦笑いをする。王子はまた、手を顔の前で合わせて、顔には濃い影があった。