4、正式に婚約破棄発表
その後の学園は、女生徒が浮足立っていた。朝はみんなが、王子に挨拶をしに行く。昼は王子が食堂で取るようになって、いろんな女生徒たちとランチをしていた。カロリーナは弁当を持参して、食堂以外で食べるようになった。友人もそれに合わせていた。今日は、外のテーブル席でランチをしていた。
「カロリーナ様は今後、婚約者はどうされるのですか?」
「しばらくはいいわ。今まで勉強をしてこなかったから、学園に通っている間は勉強に集中するわ」(最悪、領地経営だからしっかり勉強しないとね)「あなたたちは婚約者がいたわよね」
「ええ、まあ」
二人とも目が泳いで、気のない返事だ。
「私に遠慮せずに、王子と話しても大丈夫よ」
「そ、そうですか」
「実は、お話してみたいと思っていたのです」
(今まで私が独占していたからね。でも、)王子が色んな令嬢とランチをしているのを見ると(真面目かと思ったけど案外、女好きなのかしら)
「私の事は全然気にしないで、二人とも食堂でランチを取りなさい」
「ありがとうございます!」
二人は嬉しそうだった。
(私も弁当ばかりでは、料理人たちに悪いわよね。食堂のランチもおいしいし__! いいこと思いついた)
カロリーナは屋敷に帰って、鏡を見る。メイクを落とした顔を眺めた。
(そうだ、思い出した。この顔、続編のカロリーバージョンだわ)
妹たちが手に持っていた続編に、優しい感じのカロリーナと、いかにも意地悪そうなヒロインの顔が載っていた。笑
『私たちはね、続編をやるから。前編は持っておいていいよ』
前編だと、攻略対象のライバル担当が決まっていたけど、続編だとライバル達もフリーになる。
(普通に過ごしたいから、できれば誰かのライバルにはなりたくないのよね。そうなると、残念だけど攻略対象は除外かな)
この世界はゲームの制約があまりないようだから、何もしなければある程度普通に過ごせるという事よね。ヒロインがゲーム通りにイベントを起こしているなら、ヒロインも転生者の可能性があるのかな。今のところヒロインは王子一択な気がする。
キャラクターは、前編も続編も同じだから助かった。妹は、隠しキャラはいないって言ってたし。
(私は、ヒロインも含めたメインキャラ10人に関わらなければいい)楽勝でしょ!
翌日からメイクをやめて、白茶色の地味なカツラを付けて行くことにする。前髪は左側でまとめてピンで留め、控えめな印象になった。
(完全にモブ化作戦よ!)
校門を入った後も、誰とも挨拶をぜず、話しかけても来なかった。他の生徒と同じように、誰の目も気にせず一人でスッスッと歩くことが出来た。
(やっぱりあの赤い髪が、目印だったよね。ああ~、目立たないって楽だわ~♡)
カロリーナは、教室の自分の席に着いた。他の女生徒が驚いて声をかけてくる。
「その席は、カロリーナ様の席ですが」
「そうよ」
穏やかな表情から、一変してキッと相手を睨みつける。
「だから私が座っているのよ!」
「その、冷酷な黄色の瞳、まさしくカロリーナ様! 気が付かずにご無礼を致しました。申し訳ありませんでした」
女生徒は震えあがって、謝罪した。
「よくってよ」
(悪役は降りても、公爵令嬢として舐められてはいけないものね! 前の記憶がよみがえって平民度高くなったけど、どうよ、見事な高位令嬢っぷりは!)オホホホ
気が付いた友人たちも話しかけてきた。時間がたつと、他の生徒も気軽に話しかけてくるようになる。カロリーナのキツさが和らいで好評だった。
今日は、王宮で舞踏会が開かれる。カロリーナは学校で被っているかつらを付けて参加した。いつもの豪華で派手なドレスと違って、パステルカラーのイエローで、会場に溶け込む目立たない地味さにした。さらに人ごみに紛れて、立っている(いつもならセンター)。婚約破棄になってから初の王宮の舞踏会なので、今日、正式に婚約破棄が発表されるのだ。閉じた扇子を口元に当てる。
国王と王妃が並び、その後ろから王子が入場した。参加者が頭を下げる間を通り、席がある階段を上がる。王が開会の言葉を述べると、拍手が起こる。それを王は、手を上げて制した。
「今日は王室から発表がある」
そう言うと王は席に座った。脇にいた伝令役が、紙をタテに広げて読み上げる。
「ジークアス・ヒルタン王太子とカロリーナ・アルファイン公爵令嬢の婚約が、正式に白紙となった。以上であります」
(よし。今日のミッション終わり)
カロリーナは口の端をニヤリと上げる。
会場はざわめいた。
「とうとう、解消なさったのですね」
「だから、カロリーナ嬢は参加されてないようですね」
「理由は何でしょう」
「カロリーナ嬢が学園で問題を起こしたそうですよ」
「王子には、合いませんでしたものね」
正確な情報は行き渡っていないようだし、貴族にとっては、そんなことはどうでもいいのだ。婚約破棄は、おおむね好意的にとらえられていた。みんなも、カロリーナの素行の悪さに、婚約破棄されてスッキリしたようだ。
「リーナ」
後ろから突然声をかけられて、カロリーナは驚いた。振り向くと、父方の従兄のエドワードがいた。
「エド!」(私に気が付いたの!?)「よく分かったわね」
「もちろんだよ」
エドワードは優しく微笑んだ。
(気が付くなんて驚いたわ。意外と鋭いのかも…)
エドワードは23才、傾きかけているブラウン男爵家の三男だ。短いこげ茶色の髪で、顔は少し角ばった輪郭の普通の青年だ。
(前世の感覚で言えば、普通でも全然いいのよね)
「婚約破棄には驚いたよ。さぞかし、ショックを受けただろ」
「ええ、まあ」そういうことにしておこう。「私には、向いてなかったのよ」
カロリーナは顔をそらし、扇子を広げて口元を隠した。ふと王子の方を見ると、こちらを見ていた。王子はすぐに、カロリーナから視線をそらした。
(気が付いた? まさかね)
「そうなんだ。なら、ボクと踊らない?」
「あら、ごめんなさい。今日はもう帰るからまた今度ね」
今日は、発表がちゃんとされるか、聞きに来ただけだった。そして、しばらくは社交界には出ないので、また今度も当分ない。
「そうかい。また、家に遊びに行ってもいいかな」
エドワードは残念そうにする。
「どうぞ」(しつこくないのもいいわね)
カロリーナはエドワードに手を振って。会場を後にした。