20、卒業エンディング 最終回
公爵邸に、王子がカロリーナを訪ねてきた。応接室で向かい合って座る。
王子は、ヒロインがあんな行動をとったことが理解できなくて、悩んでいるようだった。カロリーナは、前世のことを話すことにした。
「おかしな話ですが、聞いてもらえますか?」
自分の前世のことと、ゲームの話をした。
「それであいつは、あんな行動をとったのか。やっと納得した」
王子は驚きとともに、暗い顔が晴れていた。
「王子が、気にかかっていると思って話すことにしました。
それでもここは、私にとっては現実の世界です」
「言いにくいことを話してくれてありがとう。二人もいたなら本当にその世界はあるのだろう。お前の考えが変わったのも、おかしな言葉遣いも納得した。このことは誰にも言わないでおこう」
「レオには前世の部分は話してあります。あの子も同じように知りたがっていましたから」
王子は、レオンが先に知っていたことに少し不満だったが、ゲームのことは二人だけの秘密なのでよしとした。
「仕方ないな」
「でも、他にもいるかもしれませんから、そういう人がいるということは話してもいいですよ」
「分かった」
(ようやくゲームが終わろうとしているのかな)
カロリーナもほっとした。
「これからウィルの婚約者として、覚悟して生きていかないといけないなと思います」
「良い心がけだ」
王子は言ったものの顔を赤くした。カロリーナも告白みたいかもと思って、赤くなった。二人は微笑んだ。
王子は、カロリーナの横に移動してきた。ポケットから箱を取り出し蓋を開けた。そこには、恋人たちの日に買った婚約指輪があった。
「指輪が出来てからいろいろあって、渡すのが遅くなってしまった。
カロリーナ・アルファイン、私と結婚してほしい」
「!」(なんとプロポーズが!)
カロリーナは感極まって、涙目をつむって何度もうなずくしかできなかった。王子はその様子に、笑顔を浮かべた。カロリーナの手を取り、左手の薬指に婚約指輪をはめた。
カロリーナも後で、同じ日に買ったカフスを王子に渡した。王子は驚いて、とても喜んでいた。
学園は卒業式を迎える。カロリーナは、もうかつらを取って参加した。王子から次期生徒会長に指名されたのと、主席になったので送辞を述べるからだ。
王子もいなくなるし、生徒会長としての存在感を示すためにも、これからは地毛で過ごすことにした。
卒業式とダンスパーティが終わり、最後に生徒たちは個人間で花束贈呈をして、別れを惜しんでいた。
なんとヘイゼンは欠席が多すぎて留年。そして、次期副会長になった。生徒会室ではそれ以外の卒業生に、花束を用意した。ユフィアはハンカチで涙をふいて、在校生たちにお礼を言う。
「とても楽しい学園生活だったわ。ありがとう」
カロリーナがいることを面白くないと思っていたセレナは、早々に帰って行った。この後、卒業生と在校生のクラバットの交換があるので、帰ったのは良かったと一部の者は少しホッとした。
クラバットは、学年で色が決まっているので、持ち上がりは出来ない。交換は、学園の縁起物として好まれていた。大体は、婚約者同士、親しい先輩後輩、寮の同室の先輩にお下がりをもらうことが多く、卒業式前に卒業生に話を付けておく。クラバットをまだ着けている先輩には、当日にお願いしたりもある。もらった人はお礼に、学年カラーとは違うクラバットを卒業生に贈るのだ。1年生は、知り合い筋の後輩に贈ったり、わざわざ、もらいに来たりする人もいる。
レオンは、カロリーナからもらった。それを王子は、しぶしぶ見ている。本当は自分が欲しかったからだ。
ユフィアが、カロリーナの物をレオンに着けた。レオンはユフィアから3年生のクラバットももらった。お礼に、薄紫のクラバットをユフィアに贈り、着けてあげた。
ベンは、シュタインとアリスから交換を申し込まれていた。自分は一人寂しい思いをするなと思っていたので、二人からの申し出にとても喜んだ。
ベンがシュタインに着け、シュタインはアリスに自分のを着ける。ベンは二人から、トーンの落ち着いた青のクラバットを贈られた。ベンは少しかがみ、アリスが着ける。
王子はカロリーナに、自分のクラバットを着けた。カロリーナは色に迷ったが、自分の髪色に近い朱色がかった赤のクラバットを王子に贈った。王子は嬉しそうだった。二人は交換した後、微笑み合う。
ヘイゼンは留年なので蚊帳の外だが、そんなことは気にしなかった。贈呈の様子をみんなと拍手して祝っていた。むしろ、王子とベンとセレナがいなくなって、気楽に過ごせるなと思った。
(カロリーナとは気が合うし、来期が楽しみだ)
一緒に卒業できるように、真面目に通う予定だ。
お開きとなり、みんなで生徒会室を後にした。王子は、カロリーナを誘う。
「二人で話をしよう」
「はい」
手をつなぎながら、学園を一周する。王子は学園の景色が見納めなので、二人で回りたかった。
(思い出の場所をめぐるのは、きっとエンディングスチルね)
二人は、校舎の外の芝生に腰を下ろした。
「いろいろありましたね」
「ああ。──これからは、あまり会えなくなるな」
王子は、カロリーナの顔にかかった髪を指でよける。
「私はやっと、学園生活を満喫できます」
「お前……」
(だって、王子を中心にいろいろありすぎたから)
「お互い頑張りましょう」
「そうだな。お前が卒業したら、結婚の話が出る」
「いやいや、ちょっと早すぎですよ。20歳ぐらいでどうですか?」
「分かった。二人ともその方が落ち着くだろう。準備も時間がかかるからな」
(ふー、良かった。焦るわ)
王子は、感慨深げに学校の景色を眺める。春の柔らかい景色が広がっていた。
「まさか、お前を選ぶとは思わなかった」
「私も選ばれるとは思ってなかったです」
(私は、王子ルートを攻略したってことだよね。今でも信じられない)
心地よい風が吹いて、髪がなびく。
「行こう」
「はい」
手をつないで、玄関まで行き階段を降りると、みんなが外で待っていた。
妹たちよ、私はゲームを満喫した。ゲームはこれで終わり。私はこれからも、この現実の世界で生きていく。
◇
その後、王子が卒業したので、アグネスは3年生から復帰できた。すっかり人が変わってしまったが、誰かを突き飛ばすことはないので良かった。ヘイゼン先輩が励ましていた。アグネスは生徒会の手伝いに参加するようになった。思ったより早く二人は引っ付きそうだ。
そして、ベンとリンダとの縁談が持ち上がった! というか、ベンの父クライン侯爵がベンの婚約者を探していたので、うち父が紹介したのだ。リンダのその後の話も父に話していたので、それを聞いて人となりが良いと思ったのだろう。リンダも、父親の子爵もとても喜んでいた。こちらの方がしっくりくる組み合わせだ。やはりセレナは、便宜上のライバルだったようだ。
ゲームのイベントが終わって、私は普通の生活を送れるようになった。生徒会の仕事は予想外だったけど、今は学園生活を楽しんでいる。




