2、ゲームイベント
屋敷に帰ったカロリーナは、手を広げてメイドのサラに命令する。
「今日は、薔薇風呂よ!」
「かしこまりました」
湯船に薔薇の花を浮かべて、お風呂に入る。
(は~、幸せ。これよこれ、令嬢生活万歳!)
「お嬢様、今日はご機嫌ですね」
「そうよ!」
サラは長く使えているメイドで、よく気が利くのでカロリーナのお気に入りだ。お姉さんといった感じで見守ってくれていた。
お風呂から出て、夕食まで時間がある。ふかふかのベットでゴロンと横になり、婚約破棄計画を練る。
カロリと王子が婚約したのは、子供の頃。カロリがわがままを言って、父のウルトラCで婚約を取り付けた。父は人柄がよくて、陛下からの信頼も厚い。王子も陛下に言われるまま従う性格だが、カロリが王子妃にふさわしくないのは分かっている。勉強もしないし、マナーもなってない、気も短くて暴言吐きまくり。カロリはダンスが得意だがそれは、王子と踊る時の見た目を気にしているから。まあ運動神経がいいから、階段でよけられたんだけど。
(ダンスが得意なだけの女に、王子も見切りをつけてるはず)笑
王子は、学園では女性徒全員を家名呼びして、公平に扱っている。これはゲームと同じで、婚約者を変えることを検討しているからよね。そろそろ潮時だと思っている王子にとって、こちらからの婚約破棄は願ったり叶ったりのはずだわ。
サラがノックをして、入ってくる。
「お嬢様、お食事の時間です。旦那様もお戻りですよ」
「分かったわ」
食事の部屋で座って待つと、公爵があわてて入ってきた。
「リーナ! 王子から聞いたよ。濡れ衣を着せられたって?」
(王子が話したんだ)父は、財務大臣なので王宮勤めだ。
それを聞いて、サラも口を押えて驚いた。公爵は席に着く。
「それなら大丈夫よ」
「どうしたんだ? 機嫌がいいじゃないか。いつもなら怒って八つ当たりしているのに」
「お父様に、もっといい報告ができそうだから」婚約破棄のね。フフフ
「そうか、あはは」(嫌な予感しかしない)
二人は食事を始めた。
朝起きてカロリーナは、鏡を見る。
(赤い髪なんて罰ゲームだわ。めちゃくちゃ目立つし。名前もカロリーだし)懐かしい響き…
(素顔はそこまできつくないわよね。鋭いのは、アイラインのせいもあったのね、髪の設定が縦ロールじゃなくて良かった笑)
サラが部屋に入ってくる。
「今日のメイクは、自然な感じにして、髪もまとめてちょうだい」
「かしこまりました」
サラは、髪を1本の編み込みにすると、白い小花の飾りをランダムに挿して、清楚な感じにした。
登校すると、取り巻き兼友人の侯爵令嬢と伯爵令嬢二人がすぐに寄ってきた。
「あら、カロリーナ様、今日はメイクを変えました?」
「髪型も大人ぽっくて素敵ですわ」
「ふふ、ありがとう」
教室でも、他の生徒がカロリーナの事を話していた。
「カロリーナ様って、なんか静かになった感じしますね」
「いつもいるだけで、騒々しいですけどね」
「一時的でしょうか?」
それを聞きながら、カロリーナは満足そうだった。
(このまま、自然にイメージチェンジね)悪役令嬢の中に普通の人が入ったら、それはもう普通の人なのよ! ヒロインもしかり。
昼休みの食堂。カロリーナはトレーにランチを乗せて、友達二人と席をさがしていた。そこに突然、
「キャー!!」
ヒロインは大きな声で叫びながら、カロリーナの横でころび、無残にもトレーのランチをぶちまけた。カロリーナは普通に、びくっ!! っと驚いた。
「ひどいです。カロリーナ様! 足を引っかけるなんて」
(これもイベントか…)
ここが前世なら、雑巾を持ってきて片付けたのだが、令嬢はそんなことはしない。イベントに付き合う気もない。
「ごめんあそばせ」
カロリーナはそう言うと、さっさと行ってしまった。友達も慌てて追いかける。
「どうしたんだ」すごい声がしたぞ
王子が登場した。ヒロインは喜んで、王子に泣きついた。
「カロリーナ様に、足を引っかけられたんです! なのに知らんぷりして、行ってしまいました!」うっ、うっ
ヒロインは涙を浮かべる。カロリーナは何もなかったかのように、サンドイッチをおいしそうに食べていた。友達は、ハラハラしながら現場の方、特に王子を気にしている。
「誰かその場を目撃した者はいるのか?」
王子の問いに誰も答えなかった。王子は離れた所にいる男子生徒を見ると、その生徒はうなずいた。
掃除の者がやってきて、ヒロインに服を拭くためのフキンを渡すと、その場を片付け始めた。幸い、他の者に被害がなかった。
「令嬢は、また新しい食事を持ってくるがいい」
「ありがとうございます。王子様」
ヒロインは、またカウンターへと戻っていったが、カロリーナの方を気にしていた。
(あの女、なんで自分の仕事をしないのよ。出会いイベントは、ゲーム通りだったのに!
その後は全く何も起こらなかったから、自分でイベントを起こすしかなかった。そうしないと王子と仲良くなれないでしょ!
悪役令嬢ならちゃんと仕事しなさいよね。バグかしら。でも、今回も王子が来たから良かった♡)
それから数日後。カロリーナが専攻授業に行くために、一人で中庭の回廊を歩いていた。突然、何かが上から落ちてきて、ガシャン!! と音がした。見ると植木鉢が割れていた。
「!」
カロリーナはとっさに上の階を見たが、3階に逃げる影のようなものしか見えなかった。
音に、他の生徒が集まってくる。
(これって、命危なくない?)ただの脅し?
あわてて教師がやって来て、犯人を調べることになった。