17、恋人たちの日当日
「やっぱり……、おそろいだった」
カロリーナを迎えに来た、お忍び用の馬車から降りてきた王子を見て、ペアルックだと分かる。
「何か言ったか?」
「いえ聞こえてるでしょうよ」
カロリーナは、王子の手に自分の手を乗せて馬車に乗り込んだ。首都の街はすでに祭りでにぎわっていた。メイン会場は街の中心部から少し離れた広場だ。商店街前の道は、片側に馬車を止められて片側通行になっている。会場周辺は、馬車の乗り入れが禁止だ。二人は馬車を降りて、歩いて会場に入った。
広場までの道には、色とりどりの屋台が道に並ぶ。串に刺した肉を食べながら歩いたり、学校でも食べたフルーツサンドをまた食べることが出来た。
(食べ歩き最高!)
一通り食べると、王子が店に案内する。
「贈り物をするから店に入ろう」
「え?」
恋人たちの日は贈り物を贈り合う。今度は何にしようか。特に考えていなかった。二人は宝石店に入った。
「さあ、婚約指輪だ。選べ」
「ぎょ」(これは逃げられないようにするやつ)
プラチナの、大きな四角いダイヤが付いたものを手に取った。
(テレビで見た四角いでかいダイヤだ! 前世で見て憧れだったんだよね。王子の財力ならこれぐらい買えるよね)
「気に入ったのか?」
「はい」(とても♡!)
「よし、これをもらおう」
「ありがとうございます。手直しがいりますのでサイズを確認します。どうぞこちらへ」
店員は、カロリーナを席の方に案内する。王子は購入手続きをしにカウンターの方に行く。
(男性の婚約指輪は買わないよね。何か別の物)「あの、男性用の物を見たいのですが」
カロリーナは、店員にこそっと耳打ちする。
「では、こちらなんかどうでしょう。男性用の宝飾品です」
サイズを見る前に、先に商品を見せてもらう。指輪に似た少し小ぶりの石が付いたカフスを見つけた。
(これこれ、指輪と同じカットのダイヤのカフス、素敵!)
「これを後日届けてください」
「かしこまりました」
広場に明かりがともり、音楽が流れ、恋人たちが踊り出す。学園のみんなもいた。二人も踊る。
帰りの混雑を避けるため、二人は一足早く広場を後にした。祭りの賑わいが遠ざかる。手をつないで、外灯に照らされた静かな歩道を歩いて行く。降りた場所で、到着していた迎えの馬車に乗った。
「楽しかったです!」(恋人たちの日、最高!)
「私達も恋人たちだろうか」
王子が、急に問いかける。カロリーナは恥ずかしそうに、戸惑って答えた。
「そうですね」
横を向いて頬をかく。
「では、そろそろ愛称で呼び合おう」
「はい……」
「公爵はリーナと呼んでいたから、俺はリナにしよう」
(私はカロリって呼んでますけど)
最近は、カロリと前世が大分なじんできた。
「俺のことは、みんなジークと呼ぶから、お前はウィルと呼べ」
「はい、ウィル……」(王子を愛称で呼ぶなんて、なんか変な感じ)
ぼーっと王子を見るカロリーナの横に、王子は移動してくる。二人が親密な時間を過ごせるのは、今は馬車の中だけだった。王子が顔を寄せてくる。
(これはキスをするということかしら! きゃー!)
カロリーナが目を閉じると、王子はキスをした。
(でも疑問がある)「王子は私が好きなんでしょうか?」
「!」
カロリーナは真顔で聞いた。王子は赤くなって答える。
「私は好きでもない女とキスをしたりしない!」
(政略結婚だから、役割だけを求めているのかと思ったけど違うんだ)
その言葉にカロリーナは、ほっとして赤くなった。王子がカロリーナを覗き込む。バチッと目が合う。
「お前は好きでもない男とキスをするのか?」
「!」(そんなことしない……)
王子から視線を外して、前を見て考えた。
「私、王子のことが好きなんだ!」
言葉が思わず出た。それを聞いて、王子はカロリーナを抱き寄せた。カロリーナも王子に腕を回した。
今日の日は、素敵な思い出になった。




