13、レオンの婚約
放課後、公爵邸にユフィアが訪ねてくる。応接室で話を聞こうとするが、ユフィアは暗い顔をして話し出せずにいた。仕方なく、カロリーナから話を切り出す。
「ユフィア嬢は、レオのことが好きなんじゃなくて?」
「! さすが、カロリーナ様です。まさにそのことで相談したくて」
(おお~、レオを好きだなんて! お目が高い)
二人は秀才同士だから、気が合うだろう。カロリーナは、うんうんと一人でうなずく。
「父からは、王子の婚約者になるようにと言われているのです。私なんかには、到底無理だと思います」
(そんなことないわね。候補には入ってると思うけど。謙虚なのもいい)
カロリーナは小指を立ててお茶を飲みながら、そう思った。そこへ、ドアがノックされて、サラの声がする。
「お嬢様、ちょっとよろしいですか?」
「どうぞ」
ドアが開き、サラが入ってくる。
「レオ様が、お嬢様にお会いに来られました。いかがいたしましょう」
『!』
二人とも驚いた。カロリーナは少し考えてから、ユフィアに確認を取る。
「丁度いいわ。レオに聞いてみなければ、話は始まらないわよね?」
「はい」
ユフィアも覚悟を決めた様子でうなずいた。カロリーナはサラに指示を出す。
「入ってもらって」
サラはレオンを部屋に通した。レオンはすました顔をして入ってくる。
「ボクも入ってもいいの?」
「ええ、あなたの話をしていたのよ」
「え⁉ ボクの?」
レオンは、ドア側のカロリーナの隣に座る。カロリーナはレオンを見て伝えた。
「ユフィア嬢が、あなたに好意を持っているの。あなたはどうかしら?」
「え⁉」
レオンは想定外のことに面食らった。でも、すぐに下を向いた恥ずかしそうに言う。
「ユフィア先輩は良くしてくれるから、うれしいです……」
その様子にカロリーナは、微笑む。ユフィアは、涙を浮かべて感激した。ハンカチで涙をぬぐう。
(これで決まりね)
カロリーナはふと気になった。
「今日はどうして来たの?」
「昼に、二人が話していた様子が気になって。姉さまが心配で来たんだ」
(きゅん!)「レオ、ありがとう」
「レオ様は、本当にカロリーナ様のことが好きなのね」
「うん」
ユフィアは、二人の仲の良さを受け入れていて、まったく気にしてなかった。レオンは、また顔を赤くして下を向いていた。
(でも、レオがここに来ることは、もうあまりないわね)
寂しいけれど、喜ばしいことだ。
この後、二人は婚約する。侯爵は渋ったが、侯爵夫人の一声で折れた。
「公爵家の跡取りなのよ。それで、十分でしょ」
ユフィアの髪色と細い目は父親譲りだが、穏やかな性格は母親に似たのだろう。これで、王子狙いは3人になった。
学園でも二人の婚約が話題になった。レオンとユフィアは、生徒会室でメンバーに祝福されていた。
みんなが帰った後、ベンが王子に言う。
「1年生二人に、先越されちゃいましたね。私達……」
「……」
王子は無言だった。
その日の放課後、王子が父と一緒に公爵邸にやってきた。出迎えたカロリーナに、公爵が静かに伝える。
「お前と話があるそうだ」執事に向かって「もちろん応接室だからな!」
(何の用かしら)
カロリーナは迷惑そうだった。王子は気にしていない。応接室で二人で向かい合う。
「お前は、新しい婚約者候補は見つかったのか」
「いいえ、私は学業に専念しておりますので、探していません」
王子は両手を軽く握り膝に置いて少し前かがみになり、視線をカロリーナから外した。
「結局、自分が追いかけてまで名前を聞いたのは、お前だけだった」(以前とは違い、自分の素を出せるのも、信用できるのも)
顔を上げて、カロリーナの顔を見る。
(こいつは、顔に出すから分かりやすいんだよな。考えてることは分からんが)
「?」(何の話?)
王子の様子にカロリーナは困惑する。王子は、真剣な顔をして聞いた。
「お前は俺のことをどう思う?」
(強いて言うなら)「女好き?」
カロリーナは斜め上を見ながら考えて、答えた。王子は顔に影を作って沈黙する。
「もういい。終業式の後、婚約について発表することにする」
「そうですか」(なんか、嫌な予感しかしない。王子の様子も変だし)
(イヤイヤ、関係ないから。婚約発表で、学園が静かになればそれでいいわ)
カロリーナは不安を振り払った。




