12、ゲーム行動
カロリーナは、学園の校門を通っていた。休日明けだが、エドの件でぐったり疲れていた。
あの後、スピラ家の使用人が留守にしていた公爵に説明に来た。公爵はカロリーナが無事だったので、エドワードの処分については了承した。
(とんでもないことに巻き込まれたけど、終わって良かったわ。スピラ先輩には感謝ね)
玄関までの道が、騒がしい。生徒会が通路の両側に並び、風紀チェックをしていた。手前の左側には王子と、筆記用のクリップボードを持ったセレナと、ユフィアがいる。
ヒロインが王子に話しかけていた。
「どうして、私は生徒会に入れないんですか⁉」
「あなた指定のボランティア活動に参加しなかったでしょ」
横から、セレナが声を荒げた。いつもは清楚なセレナも、ヒロインには我慢できなくなっていた。ヒロインが素を引き出したというところか。
「どうして、ボランティア活動なんかしなきゃいけないんです?」
ヒロインは、しぶとく王子に訴えかける。
「希望者が多いので、テストして選抜しています」
ユフィアが代わりに答える。王子目当ての令嬢や、素行に問題がある者をふるい落とすために、希望者には孤児院でのボランティア活動を課して審査しているのだ。そこへ、アグネスが突っ込んできてヒロインを突き飛ばした。
「きゃー!」
「王子、おはようございます!」
ヒロインは普通に転び、王子はヒロインを助け起こした。
「大丈夫か」
「あら、ごめんなさい。わざとじゃなくてよ」
アグネスは王子に無視されてヒロインに謝る。アグネスは面倒が嫌いなので、生徒会に参加する手を使わずに、直球勝負していた。
「君、気をつけなさい」
「は~い、ごめんなさい」
王子にたしなめられて、素直に謝る。それを、カロリーナは冷ややかに眺めて、素通りした。
(あれは、きっとイベント行動。王子は誰が転んでも助け起こすのかも……。ヒロインは、前編だと生徒会に入れたのかもね。アグネスは前世で言う、今時の子って感じ。ぶつかられたくない……)
カロリーナは考えて、ゾッとした。
少し行った先の右側には、ヘイゼンとクリップボードを持ったレオンと、アリスがいた。
(こちらは、平和な絵面。良かった先輩がいて。一昨日のお礼をまだ言ってなかったのよ~)
ヘイゼンは、家の仕事をしているので、ほとんど学校に出てこなかった。カロリーナはヘイゼン達の方に歩いていき、みんなに挨拶する。
「おはようございます」カロリーナはスピラの前に立つと頭を下げた。「スピラ先輩、先日はありがとうございました。本当に助かりました」
「おはよう。いやいや、いいよ。ヘイゼンと呼んでくれ」
ヘイゼンは、ウィンクして爽やかスマイルで答えた。レオンとアリスも挨拶を返した。
「姉さま、おはよう」
「おはようございます。先輩」
王子が後ろから、ズカズカと急ぎ足で歩いてきた。挨拶を飛ばして、カロリーナに話しかけた。
「ブラウン男爵家のことを聞いたぞ。お前は、大丈夫だったようだが」
「はい、ヘイゼン先輩が助けてくれました。頼りになりますね♡」
カロリーナの目は、キラキラしていた。
「なんだと!」
カロリーナは、みんなを後にしてすたすた行ってしまう。王子は、ヘイゼンを睨みつけた。
「カロリーナが世話になったようだな」
(え? なんで機嫌悪いの?)
王子はそう言うと、持ち場に戻っていった。ヘイゼンは、顎に手を当てて考える。
(逆に、目をつけられた。なんて嫉妬深い男だ。あいつに取り入るより、公爵家に恩を売ったほうがいいな)
放課後、アルファイン公爵邸に、ヘイゼンとレオンが遊びに来ていた。ヘイゼンは公爵が招いた。応接室で4人が座り、公爵とカロリーナがお礼を言う。
「ヘイゼン君、その節は本当にありがとう」
「私からも改めてお礼を言います」
ヘイゼンは、レオンと顔を見合わせた。
「ボクはレオから相談されていたんです」
「そうだったの⁉」
カロリーナは、驚いた。レオンが少し照れて説明する。
「街で会った時、不自然だったので先輩に相談したんです。エドワードは、カジノに借金があったから」
(エドの借金はあの時分かったけど、浪費の血は争えない……)「レオもありがとう!」
カロリーナは、レオンのおかげだと分かって、キラキラした目をレオンに向けた。ヘイゼンが、ナンパの件の詳細を話してくれた。
「街の者に頼んだそうだ。エドワードの友人が教えてくれたので、金貨4枚を支払ったよ。いい友人がいたのに、話を全く聞けないやつで残念だ」
公爵は腕を組み、目をつむってため息をついた。
「あいつは、妹に似たんだな。まったく」
(これで、赤い髪は関係ないってことが分かって良かった)
カロリーナはひそかに喜んだ。公爵はレオンに優しい目を向けた。
「レオは立派な跡取りに成長して、義兄も鼻が高いだろう。今度、義兄にもお礼を伝えておく。これでリーナに会っても文句は言わないだろう。
二人とも、また遊びに来てくれ」
そう言われて、レオンも嬉しそうに微笑んだ。ヘイゼンは心の中でニンマリする。
その後、裁判所でメリサの判決が下り、家門の乗っ取りを手助けした罪で、生涯流刑地送りになった。
ブラウン男爵家は、借金返済で取り潰しになる。叔母夫婦は公爵家の領地で、召使の監視付きで暮らすことになった。長男と次男は、実家を支援しなくて良くなったので、婿先の家族たちとほっとしていた。
エドワードは、ルミナージュ国の南隣にあるアルバラ国の首都まで行くと、付添人と別れた。その後の消息は誰も知らない。エドワードは、祖母と同じ道を辿ることになった。
学園での昼休み、カロリーナは外の席でランチを取っていた。今日のメンバーは、アリスとシュタイン、レオンにヘイゼン、自分を入れて五人だ。なんだか増えてきた。
「そんなことがあったんですね」
カロリーナとヘイゼンから、エドワードの話を聞いてアリスは、震えて青い顔をした。シュタインが心配そうな顔をして、アリスの手をそっと握る。そこへ、ユフィアが現れた。
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
カロリーナが言うと、ヘイゼンが余っている椅子を持ってきて、カロリーナの横に置いた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
(珍しい人が来たわね。生徒会のメンバーがいるから来てもおかしくないけど、どうしたんだろう?)
カロリーナ以外はみんな生徒会の関係者だ。シュタインも生徒会手伝いとなっている。
ユフィアの様子を見ていると、ユフィアはカロリーナの右隣にいるレオンを見て微笑んでいた。
(あれ~、もしかして)
ランチが終わると、みんなで校舎に戻り始めた。そこへユフィアが、カロリーナをそっと呼び止める。ユフィアはいつも無表情だが、神妙な面持ちなのが分かった。
「カロリーナ様、折り入って相談したいことがあります」
「はい、なんでしょう」
「今日、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
学園では言えない話だと分かる。
「よろしくてよ」(先輩だが、どう接していいか分からないキャラだわ)
その様子を、前を歩くレオンが振り返って、ちらりと見ていた。
校舎からベンが、六人の歩く姿を見ていた。前を歩く王子に声をかける。
「あれ、見てください。生徒会役員と関係者が五人も。カロリーナ嬢、人が変わってから意外と人望ありますよね」
「そうだな」
王子はその様子を、自然と受け入れていた。
(この人がキツイから、人望ないだけかも)とベンは思った。




