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悪役令嬢を降りますので、後は好きにやってください  作者: 雲乃琳雨


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11/20

11、いとこの断罪

 夜、街にあるカジノで、エドワードはまた負けた。いらだってゲームテーブルを出ると、ラウンジ席で友人と酒を飲んだ。友人が、エドワードに聞いてきた。


「あの性格の悪い、いとこと結婚するのはどうなったんだ?」

「そのうちそうなるさ」


 いとことは、カロリーナのことだ。エドワードはカロリーナと会ったときの、茶色のくたびれたジャケットを着ていた。友人は貴族令息にふさわしい、刺繍の入った質の良い生地のベージュ色のジャケットを着ている。


 エドワードがカウンターで、お金を借りようとするとオーナーは横を向く。


「もうお前には、金は貸せない」

「なんだと! 金を持っているからって所詮、平民風情が!」


 エドワードは軽く酔っている。オーナーは、その言葉にカッとなった。


「出て行け! 二度と来るな!!」


 その様子を、店員と二階に上がろうとしていた、ヘイゼン・スピラ子爵令息が見ていた。モスグリーンのくせっ毛のショートカットに、少し垂れ目の甘いマスク、学園の3年生で生徒会の会計、彼も攻略対象だ。ヘイゼンは店員に聞いた。


「なんだあれは?」

「あれは、ブラウン男爵家の三男です。店のツケがかさんで、もう返せないでしょう」


 エドワードは店から追い出された。友人もついて来る。店の階段を降りると、下で平民の若者たちが待っていた。カロリーナをナンパした三人だった。


「旦那、こないだの報酬を払ってくださいよ」

「なんだと! 上手くいかなかったんだ。払うわけないだろ!」

「言われた通りにしましたよ。あのお嬢さんと話せたでしょ」

「そりゃないですよ。チビっ子に切られそうになったのに」


 若者たちが、口々にエドワードに言い寄る。


「これでいいだろ」


 あきれた友人が、金貨三枚を若者の一人に渡した。


「ありがとうございます。旦那!」


 若者たちは喜んで帰っていった。それを見てエドワードは、友人に食って掛かる。


「あいつらに払うなら、オレに貸せよ!」

「お前の借金が、金貨三枚でどうにかなるわけないだろ。街の人間と揉めると、街を歩けなくなるからやめろ。お前、どうかしてるぞ」

(くそ、俺だって公爵家に生まれてたら、こんな思いをしなくて済んだのに!)



 学校の休日の午後、カロリーナはベッドの上で、ゴロゴロと本を読んでいた。急にドアが開き、使用人の男が入ってきた。公爵家の使用人の格好をした、エドワードだった。


「!」


 カロリーナはあまりのことに、驚いて固まった。思考が、状況に追いつかない。ドアは、外から閉まった。エドワードは両手を広げて、にこやかに言った。


「やあ、こんな格好をしないと、お前に会えないからさ」


 この家でノックをせずに入るのは異常なことだった。


(この人が、私に気が付くはずがなかった——。誰かが、この家の情報を伝えていたんだわ)


 カロリーナは慌てて起き上がり、ソファの後ろに立った。ドアの外からメイド達の声がする。


「メリサ! お嬢様の部屋の前で何をしているの⁉」

「サラ、なんで戻ってきたの⁉」


 エドワードは、ドアの方を向いて悪態をついた。


「チッ、役に立たない女だ」

(これが、本当のエドワードなのね)


 カロリーナは、エドワードの豹変ぶりに、血の気が引いた。


「エド、こんなことをしてもダメよ。お金がないのはうちも同じなの。もう爵位返上が決まってるのは、叔母さんから聞いたでしょ」

「土地を売ればなんとかなるだろ。俺には時間がないんだ」

(うちは、税収でやりくりしてるのよ。土地を売ったらおしまいだわ。こいつバカなの⁉ お父様は外出している。とにかく時間を稼いで人が来るのを待たなきゃ)


 突然ドアが開いて、ヘイゼンが入ってきた。


「残念だが、お前はもう時間切れだ」

「誰だ⁉」


 エドワードの顔が引きつる。カロリーナも、まったく接点がないヘイゼンが突然家に現れて驚く。


「スピラ先輩、何でここに⁉」

「大丈夫かい。小猫ちゃん」


 ヘイゼンは、カロリーナにウィンクする。


(これも神スチルか。鼻血が……)


 カロリーナは思わず鼻を押さえた。


「俺は、こいつを追いかけてきた。間に合って良かった」


 ヘイゼンは、エドワードに詰め寄る。


「カジノはうちの顧客だ。ブラウン男爵家は債務不履行で差し押さえになった。もう、お前は貴族ではない」

(先輩の家は、金貸しと投資業だったわね)

「待ってくれ!」


 エドワードはことの重大さと、ヘイゼンの身分が分かったので、膝と両手を付いて懇願した。ヘイゼンは、エドワードに説明する。


「お前が無礼すぎて、オーナーが俺に泣きついてきた。もう債権回収が執行されたので無理だ。お前が50年働いても、元金は払えないぞ。

 ただ、二つを選べるようにした。国外追放になるなら、お前は残りの借金を払わなくていい。残るなら、生涯労働だ。国外追放なら、好きなところまで送ってやる。付添人と別れてからの旅費も持たせよう。かかった費用は全てお前のツケだ。戻ってきたらお前はお尋ね者で、その分も払うことになる。

 国外追放なら今すぐに行け。準備はしてある」


 エドワードは、のろのろと立ち上がった。


「国外に行く」

「いいだろう」


 エドワードが先に部屋を出ると、廊下にはスピラ家の私兵がいた。ヘイゼンは振り返ると、カロリーナに手を上げて、別れの挨拶をした。


(王子のお気に入りなら、王子に恩を売っておくのもいいだろう)


 ヘイゼンはニヤリとする。



 メイドのメリサは公爵が取り調べをした。メリサは両手を前で縛られて、呆然と下を見て座っていた。カロリーナも同席して、話を聞くことにした。公爵は厳しく言い放つ。


「全部話さなければ、主人を裏切った罪で極刑にする」


 メリサは何もかも白状した。メリサはエドの愛人だった。案の定、私の情報も流していた。ヅラも、街に行く話も。

 サラの話では、メリサにメモを渡されて、


『お嬢様が、あなたにお使いを頼んだから、ここに行ってきてちょうだい』


 と言われたが、いつも私が直接頼むので、行く前に確認に来たのだった。

 グッジョブ、サラ。サラにはご褒美をあげることにした。


(始めはすっかりエドに騙されてた。でも、性急にことを進めようとするから、すぐ分かるわよね。

 これって、ロマンス詐欺みたいなものね)


 カロリーナは、ため息をついた。


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