第14話『家族の過去と隠された記録』
中央管理庁――国家のあらゆる記録とシステムを司る巨大な要塞。
表向きは白亜の塔のように美しいが、地下深くには一般市民が決して目にすることのない暗黒の階層が広がっている。
「地下第七層……この階層だけは、生きて戻った者はいない」
神城隼人の低い声が、警備用エレベーターの密閉空間に響く。
隣には白峰あおい、そして案内役として九条セリナが立っている。
「それでも行くのね」
「ああ」
俺の返事は短く、迷いはなかった。
ここに来たのは、階級制度の根幹を崩すため――だが、それ以上に、確かめたいことがあった。
◆ ◆ ◆
地下第七層。
厚い鋼鉄の扉を越えた先には、巨大な円形のホールが広がっていた。
壁一面に並ぶのは透明なカプセル。その中には無数の光の粒――量子化された〈原本データ〉が眠っている。
セリナが操作端末を起動すると、無機質な女性の声が響く。
〈検索対象を入力してください〉
俺は迷わず言った。
「……真嶋健司、真嶋美雪」
――父と母の名前だ。
光が走り、二つのカプセルが前面にせり出す。
映し出されたデータに、息が詰まった。
〈覚醒率:92% 適性値:A〉
〈覚醒率:87% 適性値:A〉
「……そんなはずは……」
本来なら、両親ともに最上位のAランクとして認定されるはずだった。
だが実際には、父はC、母はD――そして俺はEランクとして分類された。
「これは……」
あおいが唇を噛む。
「完全に抑制処置が施されてるわ。出生時に遺伝子操作で能力を封印されている」
セリナが低く告げる。
「理由は“反逆因子”。あなたの父――真嶋健司は、階級制度そのものに反対する運動を水面下で続けていた。政府はそれを危険視し、一族ごと潰すことを決めたの」
記憶が蘇る。
幼い頃、父が夜遅くまで机に向かい、何かを書き続けていた姿。
そして、突然連れ去られたあの日――。
「……父は、まだ生きているのか?」
沈黙。
やがて、神城が視線を逸らしながら言った。
「地下第九層――“抹消区域”に収監されている。生きてはいるが、二度と地上には出られないだろう」
胸の奥に、焼けるような怒りが広がる。
ただ格差を壊すだけじゃ足りない。この手で、奪われたものを取り戻さなければ――。
◆ ◆ ◆
その時、ホール全体に警報が鳴り響いた。
〈警告:不正アクセス検知 防衛システム起動〉
赤い光が走り、天井から無数の防衛ドローンが降下してくる。
その数は二十以上。しかも通常の巡回機ではなく、異能対策仕様だ。
「……やっぱり、気付かれたか」
神城が剣を抜き、あおいが端末を構える。
セリナは俺を一瞥し、短く告げた。
「――ここからが本当の戦いよ、アレン」
俺は頷き、視界に浮かぶ無数の“記録”へと手を伸ばした。
格差の元凶を暴き、家族を奪い返すために――。