第13話『異能の格差の真実』
九条セリナとの試合から二日後。
学園はまだその余韻に包まれていた。
「AランクがSランクに勝った」という事実は、表向きは友好試合として報じられたが、裏では上層部の会議をざわつかせているらしい。
その日の放課後、セリナから連絡があった。
《放課後、北棟の資料室へ。話がある》
資料室――普段は生徒会と一部の教員しか入れない。
そこへ足を踏み入れると、棚の奥にある扉が開き、薄暗い別室へ通された。
「来たわね、アレン」
セリナは机の上に一冊の古びたファイルを置く。
表紙には〈機密・階級制度起源〉と刻まれていた。
「……何だ、これ」
「あなたに見せるかどうか迷ったけれど、勝負の報酬として渡すわ」
中を開くと、そこには階級制度が導入された経緯が記されていた。
――驚くべきことに、ランクは生まれながらに決まっているわけではなかった。
「……これは……」
「そう。もともとランクは、異能の“覚醒率”と“適性”を基準に割り当てられていた。でも実際には……」
セリナがページを指で叩く。そこには、衝撃的な一文が記されていた。
〈覚醒率・適性値は人工的に改竄可能〉
「……つまり、ランクは生まれつきじゃない」
「ええ。政府はそれを知りながら、“生まれで決まる”という嘘を広めたの」
ページをめくるたびに、制度の歪みが露わになる。
Sランクの大半は、覚醒促進処置や遺伝子編集を受け、能力を強化された者たち。逆に、Eランクの子供には能力抑制薬が出生時から投与され、潜在能力を封じられていた。
「……じゃあ、俺の力も」
「おそらく、元は別の能力者のものよね。あなたの“記録改竄”は……単なる偶然じゃなく、制度の副産物かもしれない」
胸の奥がざわめく。
父が拘束された理由、母が壊れて家を出た日、そして俺自身がEランクにされた意味――全てが繋がるような感覚があった。
◆ ◆ ◆
「……これを知って、あなたはどうするの?」
セリナの問いに、俺は即答した。
「決まってる。――この格差を作った連中を、根こそぎ潰す」
セリナの瞳が一瞬揺れた。
彼女はSランクの中心にいる人間だ。それでも、俺の言葉を否定しなかった。
「なら、次は本当に危険な場所に行ってもらうわ」
「危険な場所?」
「中央管理庁の地下第七層――異能適性の原本データが保管されている場所よ」
そこには、全市民の本来の覚醒率と適性値が記録されている。
もしそれを解放できれば、階級制度の根拠は完全に崩れる。
だが同時に、それはSランクにとって最大の禁忌でもあった。
「……いいだろう。案内してくれ」
俺の決意を見届けるように、セリナは微かに笑った。
こうして、俺は格差社会の“心臓部”に向けて歩み始めた。
――そこに待つのは、ただの戦いではなく、この世界の真実そのものだ。