表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/14

第11話『エリート令嬢との対決』




 


 帝都上層学園に潜り込んで三日。

 俺は、表向きはAランクの優等生として何不自由ない学生生活を送っていた――ように見えていた。


 


 だが実際は、常に裏の任務が進行している。


 


 朝は講義に出席しながら、教室の端末から学内ネットワークに侵入。

 昼は中庭で生徒会幹部の動きを観察し、夜は寄宿舎の自室であおいと神城からの指令を受ける。


 


 そんな日々の中、ついにその時は訪れた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


 放課後の特別教室。

 磨き上げられた大理石の床、天井まで届く本棚、そして中央には一枚板の長机。

 九条セリナはその一番奥に座り、紅茶を片手に俺を見上げた。


 


 「来たのね、アレン」


 「呼び出されたからな」


 


 俺が席に着くと、彼女はカップを置き、すっと組んだ足を組み替えた。


 


 「あなた、何者?」


 


 直球の問いに、背筋がわずかに強張る。

 だが表情には出さない。


 


 「言ったはずだ。北方連邦の留学生だと」


 「ええ、書類にはそう書いてあったわ。でも――」


 


 セリナの指先が、机上のタブレットを軽く叩く。

 画面には、俺の学籍データと経歴が映し出されていた。


 


 「調べれば調べるほど、あなたの“過去”は空白だらけ。……特に、二ヶ月前以前の記録が」


 


 ――嗅ぎつけられている。


 


 《気を抜くな。ここで尻尾を出せば終わりだ》

 イヤーピース越しにあおいの声が鋭く響く。


 


 俺は紅茶を一口飲み、静かに口角を上げた。


 


 「それは機密だからな」


 「機密?」


 「北方連邦の情報機関に関わっていた。……これ以上は話せない」


 


 虚実半ばの言葉。だが、セリナの瞳が微かに光る。


 


 「――面白い」


 


 次の瞬間、彼女は立ち上がり、手元の端末を操作した。

 教室のドアが自動ロックされ、窓のブラインドが下りる。


 


 「何のつもりだ」


 「力試しよ。あなたがただの“優等生”か、それとも……」


 


 床下から、訓練用の自律ドローンが数体せり上がってくる。

 球体に三本のアーム、先端にはスタンナイフが光っている。


 


 「私に挑む資格があるか、ここで証明しなさい」


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


 ドローンが一斉に突進してくる。

 俺はとっさに机を蹴り倒し、視界の端に浮かぶ“文字列”を掴む。


 


 【攻撃プロトコル:起動】――を、【攻撃プロトコル:停止】に。


 


 ――カチリ。


 


 動きを止めたドローンの一体を蹴り飛ばし、残る二体を机越しにかわす。

 その間にも、セリナは悠然と紅茶を口に運んでいた。


 


 「……やるじゃない」


 


 だが、次の瞬間、彼女の背後に黒い影が立ち上がる。

 床の影から抜け出すように現れたのは、影操作型の異能を持つ護衛ドローン。

 そいつには、俺の力は通じない――直接記録を持たない、純粋な“召喚型”だからだ。


 


 (……なら、持ち主を狙うしかない)


 


 俺は視線をセリナに向ける。

 そこに現れた“文字列”――【召喚制御:有効】を、【召喚制御:解除】に上書き。


 


 ――カチリ。


 


 護衛ドローンは動きを止め、影の中に消えた。


 


 静まり返る教室。

 セリナは口元に笑みを浮かべ、カップを置いた。


 


 「……合格よ、アレン。あなた、やっぱりただ者じゃないわね」


 


 彼女は背を向け、ブラインドを上げる。


 


 「近いうちに、生徒会室へ来なさい。あなたに紹介したい人がいる」


 


 その背中を見送りながら、俺は確信した。

 ――彼女は俺を試した。そして、興味を持った。


 


 次は、もっと深く踏み込むことになる。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ