赤い女の子と水
赤い髪。
赤い服。
赤い靴。
このような人を見かけたら正反対の後ろを振り向かずに逃げなさい。
おばあさんはそう言いました。
気づくと目の前には 赤い女の子 がいました。
外は暗く、私はどこかわからない道に一人で立っていました。前をみるとあの子だけにライトがあたっているように、赤い、赤い、赤い。
目を見張りました。
不意におばあさんの言葉を思い出しました。
「後ろを振り向かずに逃げなさい」
私は急いで逃げ、正反対に2歩、歩きました。
「ねぇ、なんで逃げるの?」
ドクンと、心臓が止まりそうになりました。
細くて高い声。
小さい声なのになぜか頭にしっかり入ってくる。
一人でいる恐怖。
赤い女の子という恐怖。
恐怖が重なり合い、今まで考えていたことがふわっと消えてしまいました。
「ねぇ、なんで逃げるの?」
「ねぇ、なんで??」
赤い女の子はニターと不気味に笑いました。
女の子は後ろをゆっくりと振り向きました。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「もー。あいりったら驚きすぎ」
私の友達のさゆりはパタッとタイトルが「赤い女の子」という本を閉じた。
「ほんと、あいりってビビりだよなー。まだ主人公がどうなるかわからないのに」
友達が口々に言う。なんでみんなは怖いって思わないんだろう。
「だって、普通に怖いじゃん」
私は泣きそうになった。
「なあ、今日、夜かくれんぼしてみようぜ!」
ある一人の男子、まきとが言った。
―夜かくれんぼ。
「夜かくれんぼ」とは最近この地域でハマりだした昔遊びだった。夜の11時50分から0時までの10分間でするどこでもできるかくれんぼだ。鬼がいない中かくれんぼをする地獄の10分間、と言われている。
「ムリムリムリ、無理ー!!」
私は咄嗟に言葉が出た。
それと同時に大きな笑いが起きた。
「まぁ、お前には無理な話だけどな」
まきとは偉そうに話した。
私は頭にカチーンときた。
「でも、あいりが怖いっていうのは当たり前だと思う。だって、夜の12時とか怖くない? 鬼に捕まったりしたら……」
隣りにいるみうが言った。
いつもだったらこんな怖い話をしないのにどうして今日に限ってこんな話をするんだろう……。私はがくっと肩を落とした。
「なにみうも怖がっているんだよ!まぁ、鬼がいないというのはちょっと怖いけどただの都市伝説じゃん?」
「都市伝説だから怖いんだってー!」
私は言った。
さっきから怖い、怖い、怖いって言いすぎだよ。本当に怖くなっちゃう。
「でも、やってみないとわからないんじゃない?」
さゆりが言った。
「は?」
みんなはさゆりの一言に一瞬、黙り込んだ。そして一斉に 確かに と言った。
まさかのことに私達は「 夜かくれんぼ 」をすることになった。始まる5分前の11時45分までに学校の前にある公園に集まることになった。
午後11時40分
親に見つからないようになるべく足跡を立てないようにスマホと一応財布を持って家を出た。私は公園へこっそり向かった。
夜の道は暗く人影がまったくなかった。本当に人が住んでいないように誰もいなく、とても静かだった。心細く感じた。だがこういう一人も悪くない感じがする。
まるで私だけの世界のように。
でもなぜか変な感じがした。今からあの怖い夜かくれんぼをするのに今は全く怖いと感じなかったからだ。
公園につくともう何人か揃っていた。
「ねえ、本当にやるつもりなの?」
私は不安になって聞いた。
「まあね。やるしかないでしょ」
みんなが揃った頃には時間まであと2分を切っていた。
―怖い。
「みうちゃん、一緒に行動してくれる?」
私はみうに言った。
「もちろん。私も同じこと言おうと思ってた」
そう言って、みうは笑った。ホッとし、胸を撫で下ろした。
「じゃあ、0時にになったらまた自由解散な、明日学校で会おうぜ」
私はみうと一緒に歩きだした。
きっと私達には「逃げる」という手段があったはず。だけど、このような行動をとるのは惜しかった。
鬼は本当にいるのか、捕まったらどうなるのか、みんなは無事に今日を乗り越えることができるのか。そう思ったからだ。
午後11時50分
息をこらして公園の近くにある遊具にみうと一緒に隠れた。気のせいか、どこか遠くで足音がなっている音が聞こえる。
ザッ ザッ ザッ
「ねえ、なんか音が聞こえない?」
「足跡のこと?」
「うん。なんかこっちに来ているような……」
嘘だよ。こんなはずはない。いるわけがない。幽霊をまったく信じていなかった私は自分を否定することしかできなかった。
「逃げたほうが良い……よね?」
はっとしてみうを見た。
私は頷いた。
――怖い。
せーのって言ったら一緒に正反対に逃げよう、そう決めた。
「せーの」
私は急いでゆっくり別の場所に移動しようとした。怖くて周りが見えない。気づくと私は学校の前に立っていた。いつもはなんとも思わないのに、夜のこの時間に学校を見るといつもよりも大きくまるで私に向かって襲いかかってきそうなお化け屋敷のように感じた。
――怖い。
息をすい、怖いものなんてない。そう自分に言い聞かせ、学校の門の隙間から中に入った。
まさか、学校に侵入することになるとは思わなかった。
ゆっくりとなるべく足音を立てないように下駄箱を通って廊下に向かった。突然――。
スタ スタ スタ ザッ ザッ
足音が聞こえた。
心臓が跳ね上がった。
私は急いで近くにあるトイレへ向かい、トイレの個室に駆け込み、鍵を閉めた。
だが、足音はまだ聞こえていた。
息をこらして隠れた。
スタ スタ スタ
音が大きくなっていった。
スタ スタ。
ドアの前で止まったように聞こえた。ドアの向こうに誰かいる……そのような気配が感じられた。
――怖い。
何分くらいたったのだろうか。
まだ向こうに誰かいるのだろうか。
私は決心をし、息をすい、トイレの鍵をカチャンと開けた。
――そこには誰もいなかった。
「良かった……」
トイレにある小さな時計を見るとちょうど0時になっていた。
私は急いで後ろを振り変えずに冷たい校舎を走って家まで直で帰った。
みんなは大丈夫だろうか。そう思いながら家へ戻り急いでベットへ向かい、寝た。
今日も夜かくれんぼの話で盛り上がった。
なんとかみんな無事に帰れたそうだ。だが、一つ妙な共通点があった。それは、みんな同じ足音を聞いているのだった。
「今日もやろうぜ!」
一人の男子が言った。
「みんな寝不足になってない?」
「まあ、大丈夫でしょ」
「そうだね」
最悪。今日もやるんだ……。
夜、私はこっそり家を抜け出し、公園へ向かった。風景が昨日と同じだ。今日も0時で解散だと言った。11時50分になると、私は昨日と同じように学校へ侵入し、同じトイレに行った。
「きっとここなら大丈夫」
私は昨日と同じトイレの個室に行き、鍵をカシャンと閉めた。
今日はなにかおかしかった。
足音が聞こえなかった。
何分か経ったとき――。
ジャー
水の流れる音が聞こえた。
下を見ると足元に 赤い水 が流れていた。
なんで?
ドアの下を覗いた。そこには 赤い靴 があった。
嘘だ。嘘だ。こんなの夢だ。
私はもう一度ゆっくりと下を覗いた。
「みーつけた♪」
高くて細い声だった。
その子と目があった。
そこにいたのは目がギラリと光って、唇が赤く、不気味に笑っている 赤い女の子 だった。
水が赤い。赤い。赤い。
まるで血のように。
自分の手を見ると真っ赤に染まっていた。赤いのはこの水のせい?
それとも私が、赤い?
「後ろを振り向かずに逃げなさい」
ここはトイレのなかだよ。
私は今でも鬼として、夜かくれんぼをやっている。――次はあなたが鬼だよ
トイレの隙間を見ると、赤い女の子の顔が見えるかもね、
夜のトイレや学校には気をつけてね。
今あなたの後ろにもいるかもよ。
※注意書き
どうして主人公あいりは暗いトイレなのに水が赤いってわかったんだろう。本当にその子がいたところは学校のトイレだったんだろうか……。