チャプター4:「打撃」
《間もなくだ。投射軌道へ進入開始》
《了、クーパー飛行班、スタンバイ》
敵艦隊を真正面の近距離に捉え、火力投射のための進入行動が開始。
そこから飛行隊の隊形は入れ替わり。クーパー飛行班の戦闘投射機、W-93各機が正面に出て、アイザック飛行班の各機がそれを援護する形を取る。
クーパー飛行班のW-93の役目は。そのけん引する武装モジュールに抱いて装備する、大型の誘導弾弾体を敵艦に叩き込むことだ。
「照準設定開始――」
そのクーパー飛行班の最前を務める、班指揮官機のクーパー1の操縦席で。
その操縦手が、照準開始を告げる声を上げて動きを見せる。
しかしその動きよりも目を引くのは、その操縦手自身。
その姿は長身だが猫背の全身に、頭部を始め手足の全てが、尖る形で硬い皮膚を持つ。申し訳ないが、まるで怪物と思ってしまうような容姿姿だ。
ステイラ修尉(大尉相当)。
彼は、一種の〝ミュータント〟だ。
惑星ジアでは、薬学技術によって。人からミュータントへのその身を進化変貌させた人々がいた。
それは歴史の歩みの内で、JEによって生み出された技術形態、存在の一つ。
薬学により人体を強化進化させ、強靭強力な身体を得ることを目的としたもの。
その姿形態は多岐に渡る。
元は。歴史深き、そしてJEとは仇敵関係にあった陣営の、「亜人」種族の強靭さに拮抗するために生み出されたもの。
現在にあっては。
ミュータント化志願者は所属組織から大きな手当保証が出るため、それを目当てにミュータント化を受ける者が世間には多いが。
また同時に、様々な理由で自ら興味を示し。
手当保証に興味が無くとも、率先してミュータント化技術により姿を強化変貌させる者も昨今では珍しくない。
元より多種多様な生命種族の住まうジアであったため、ミュータントとなった人々は比較的年月を費やさずに受け入れられたが。
それとして、やはり身体を変貌させる大事な決断を伴う物には変わりなく。
であるのに、昨今では「異文化に憧れる感覚」でミュータント化を希望する若者も少なくなく。微妙な社会問題となっていたりする。
そんな歴史背景を持つミュータントの一人であるステイラ。
彼にあっては、主に航空宇宙隊からの保証手当を目当てにミュータント化を自らに施した身の上。
詳細には、〝クラウ系ミュータント〟と言うのがステイラの今の身体の分類。
その彼の、尖り険しい形が特徴の眼が。
起動された照準装置越しに、その向こうを刺すまでの様相で見つめている。
照準機が映すは、敵艦隊の中核を成す戦艦の片割れ。
「ブラセバディ級戦艦」。
艦隊の旗艦を務める、まだ新しい型であるヴィルティオス級と比べ。旧式化の兆候の見え始めた艦であるが。
しかしやはり戦艦だ。それから寄越される強力な火砲火力の数々が、こちらの飛行隊の周囲で無数で炸裂している。
「良い艦だ、惜しいな」
そのブラセバディ級の、一つ形で完成された姿に。ステイラはその獰猛までに見える特徴的な顔に、反した静かな声色で評す旨を零し。
しかし次にはその声を阻むように、敵戦艦を捉え切った――照準を完了したことを知らせる電子音声が、機内に響く。
「――投射ッァ!」
それを聞いた瞬間。ステイラは知らせの声を通信に上げると同時に、操縦桿のトリガーに力を込め。
そして機はそれに呼応し。牽引武装プラットフォームに備えた備えたランチャーより、複数発の誘導弾弾体を撃ち放った。
それは、他クーパー班の各機も同様。
各機より撃ち放たれた誘導弾弾体は群れを成し、推進を吹かし。
敵艦隊の内のブラセバディ級を目指して、軌道を描いて迫る。
ブラセバディ級を含め、帝国艦隊各艦は強力なジャミング能力を有し。現在もそれは発動されている。
しかし緒戦からここまでによる、それによる苦い経験から。ジアに、JE側も対策を講じている。
今に艦隊を狙う誘導弾弾体のシステムは、外部より防護遮断、独立しており。あらかじめ設定された軌道を取る。
機動、機敏さに、急な状況の変化への対応力を犠牲としているが。その分各面で堅牢での堅牢さを誇った。
その弾体群は、いよいよブラセバディ級戦艦へと迫る。
敵艦からの激しい、防空砲火で数発が撃ち落され爆砕するが。しかし防空砲火を潜り抜けた数発が、その懐へ飛びこむ。
そして――
至った誘導弾弾体の数発が、ブラセバディ級戦艦の艦体各所に直撃。
艦の各所で、巨大な爆発が上がり巻き起こった。
さらには、弾薬庫かエネルギー機構関係にでも誘爆を引き起こしたか。
艦の備える巨大な主砲の一つが、しかし吹っ飛んでまた爆砕する様子光景がはっきりと見える。
「期待した以上に、吹っ飛んだな」
その弾体投射の成果を。盛大な光景を眼下に見て、ジョウサクは一言を零す。
「クーパー班は離脱しろ、こっちで敵の目を引き付け眩ませる」
そしてしかしそれに気取られ続けず、次にはジョウサクはクーパー班に向けてそう離脱を促し。
そして、離脱して行くクーパー班に数機の護衛を側方背後に見つつ。
しかしジョウサクを筆頭に、アイザック班のFfq-421の数機は、進行方向をそのまま正面に定め続け。
そして今に行動不可能なまでに落とし入れたブラセバディ級の元へ、そのまま突入。
巨大な敵艦のその表面を、這って滑るように飛び抜け始めた。
これは離脱する味方の援護。敵の目をその間引き付けるための、陽動のための行動だ。
「とぉッ」
瞬間には、敵艦の表面を飛び抜けるジョウサク等の近くを、またいくつもの火線が掠め。炸裂が巻き起こる。
ブラセバディ級自体は行動不能なまでに陥ったが、まだいくつかの銃砲座が生きているようだ。
しかし、その銃砲座から上がる防空砲火が交錯する中を。しかしまるで臆さず、紙一重の機動飛行で這い進み、抜けていくジョウサク等。
さらには進路上、敵艦の表面にまだ生きている銃砲座を見止め。それにこちらから機関砲火を叩き込み、撃破までもを成して見せる。
《080、上方から敵機襲来ッ》
「躍起にさせたな」
そこへ続く僚機より、ジョウサクの耳に知らせの通信が届く。
知らされた方位の上方。敵機の一個編隊が、こちらを狙って降下襲撃を仕掛けてくる様子が見える。
それに、戦艦を一隻無力化され。敵側が躍起になり始めていることを察するジョウサク。
「ズラかるぞ」
しかし、その敵機編隊より火力火線が放たれ、それが届く直前。
ジョウサク等の各機は、その直前に上昇行動を行い。攻撃をまた紙一重のそれで回避。
襲い来た敵編隊を、しかし交わして背後下方に見つつ。
ほぼ完全に戦闘不可能に陥り、宇宙を漂う塊と化したブラセバディ級戦艦を離れて行く。
「おっと」
その直後。図ったことでは無いが、その回避を兼ねた離脱軌道からの延長で。
向こう後方を航行していた敵旗艦、シュティルビオンがその進路上に重なり。
急速離脱からだいぶ速度に乗っていた、ジョウサクのアイザック4を筆頭とする数機は。そのままシュティルビオンに迫り。
敵艦側は、ブラセバディ級の死角から突然現れたジョウサク機等に、反応が遅れたのか。
僅かにジョウサク等を狙って上がった砲火は、進路後方で炸裂して空を切り。
そしてその最中をジョウサク等は、敵艦の懐、眼前に飛びこみ。その艦橋構造の目の前を飛び抜ける形となった。
その際ジョウサクは、その内の指揮指令所の内の様子と。その中心で、少し驚く色を見せる女の姿を。偶然一瞬だが見た。
「悪いな」
そんなそれに向けるように、冗談交じりに零しつつ。
ジョウサク機等はそのままシュティルビオンより離脱。そしてしかし上昇から旋回反転し、さらなる宙空優勢のために再び戦闘へと飛びこんだ。