チャプター3:「ブルファイト」
航宙戦闘飛行群の本隊より前身進出し。各戦闘宇宙機からなる飛行隊は、それぞれの所定の行動を開始。
飛行隊の担う役目は二つ。
一つは、飛行群本隊のこれよりの進入投射のための。事前の宙域優勢の確保、敵機の露払い。
そしてもう一つは、敵艦隊へ先行強襲し、各敵艦にダメージを与えて戦闘力を削ぐこと。
この二点をもって、飛行群本隊への脅威を少しでも排除することだ。
その進入投射行動は、三個飛行班が担う。
敵艦隊の懐への直接の進入を担うは。
ジョウサクの所属する、Ffq-421にて編成される「アイザック」飛行班。
そして、〝W-93 ダウンフリート〟という戦闘投射機(戦闘爆撃機)にて編成される、「クーパー」飛行班。
W-93は、元は宇宙ステーションからの脱出帰還機であるシャトルをベースとし。
そのシャトルに、倍以上の大きさのあるブースター&武装モジュールを連結けん引させる形態を持つ。
改造戦闘爆撃機だ。
その敵艦隊の懐への直接進入を担う二個飛行班を。
さらに、同じくFfq-421で編成される「ポスタル」飛行班が、広い範囲で援護する。
「――ッ」
適当に散会して備える隊形で。向こうの宙域を堂々と航行する敵艦隊を目指していた各飛行班。
しかしジョウサクが頭上方向の気配に感づき。元より険しいその人相を、一層険しくしたのは直後。
《来たぞッ、真上ッ》
ほぼ同時に、警報の電子音が操縦室内に響き。
さらには僚機より、張り上げ伝える通信が届く。
敵機襲来を告げるそれ等。
直後。間髪入れずに、周囲で援護を務めるポスタル飛行班の各機が、迎撃のため急上昇を始め。
さらに次には頭上に火力投射を、時間も惜しむ意図で頭上向こうへとばら撒く姿を見せる。
頭上で、最初の敵味方双方の火力が交錯、一瞬の間に双方のそれが瞬き。
さらにはいくつかの爆発が――位置関係から、敵機撃墜を知らせるそれが巻き起こる。
しかしさらに直後。鳴り響いていた通信に警報は、不気味な推進の音と、そしてエネルギー兵器の掠め切り裂く音に阻まれる。
「ッ、来るぞッ」
通信に張り上げるジョウサク。
その瞬間。飛行隊目掛けて頭上方向より、無数のエネルギー兵器が成す光線が降り注ぎ襲い。
そして飛行隊編隊の内で、一つの爆発が巻き起こった。
「ッオ」
すぐ傍に見えたそれに、伝わる衝撃に。顔を顰めるジョウサク。
さらにそこへ間髪入れずに、無数の飛行物体が近くを、頭上から下方に向けて飛び抜けた。
《喰われた、喰われたッ!》
《一機やられたッ、アイザック8がダウンッ!》
張り上がり、交錯する無線通信。
敵艦隊への進入を試みる飛行班に向けて。こちら側の「ポスタル」班の迎撃をしかし躱し抜けて、帝国側の艦載機群が襲来。
己たちの被害顧みずにも、頭上方向よりこちらへ襲い掛かり。それによりアイザック飛行班の内の一機が撃墜されたのだ。
「ッ――やってくれたッ」
敵からの一撃に、苦い声を零しつつ。ジョウサクは下方へと飛び抜けて行った敵機群を追いかけ見下ろす。
《アイザック及びクーパー飛行班、乱さず維持せよッ。お客さんはこちらで相手するッ》
一発目の襲撃に、険しい声色が通信に上がり交わっている所へ。しかし落ち着かせるようにそう促す言葉が割り込まれる。
その通信は、ポスタル飛行班の長からのもの。
《ポスタル班がダイブして突っ込むぞッ》
そしてまた別の誰かが告げ。
迎撃のために一度上昇したポスタル班が、降下への転換からジョウサク等の傍を飛び抜け。
飛行隊の下方へ逃れた敵機群を、ダイブ軌道によって追いかけていく。
そして、旋回回頭からの再襲撃を企んでいた敵機群を、しかし阻むべく。
眼下の向こうや周辺で、両者の火器火砲の交じり合う、激しい中空戦闘が開始された。
「任せた」
その敵機の相手、妨害をポスタル班に任せ。
ジョウサクは操縦桿を操る手を確かとし直し、向こうに迫りつつある敵艦隊を見据える。
「――ッォ」
瞬間。飛行隊の周囲を無数のエネルギーの閃光が飛び抜け。そして大小いくつもの爆発炸裂が巻き起こり始める。
敵、帝国艦隊の各艦からの苛烈な防空砲火。
飛行隊はその射程に入ったのだ。
《正面ッ》
そこへ通信に上がる、僚機からの端的に告げる声。
示された正面を見れば、向こうより数機から成る帝国艦載機の編隊が迫る様子が見えた。
「ブルファイトといくかッ」
零し、それを通信に上げて促すジョウサク。
その次には、敵編隊の側が先に火力投射を寄越し。周囲をエネルギー兵器の火線が飛び抜ける。
「焦るな、乱されるな――」
しかしジョウサクは焦らず、その旨を自身に言い聞かせ、同時に通信で僚機に上げて促しながら。
真正面より迫る敵機の群れを、備わる照準器に収め始める。
「――捉えた」
そして照準を完了し、その旨を零すと同時に。
――ジョウサクは操縦桿のトリガーを引いた。
――28mrwフィジックスカノン。
Ffq-421がその機体に搭載する、大口径機関砲。
宇宙空間での運用を想定して開発された、特殊なその機関砲が。
操縦者の意志を反映し。瞬間に咆哮を上げて、向こう強力な火力火線を叩き込んだ。。
ジョウサクのアイザック4の切った火蓋に呼応するように。
アイザック飛行班各機も、それぞれがほぼ同時に射撃投射。無数の火線からなる強力な弾幕を生み出し、正面向こうへと叩き込む。
それは、あと少しでこちらとすれ違おうとしていた敵編隊の各機を――直撃。
複数機を立て続けに爆砕し、弾き飛ばし。宇宙の塵と果てさてた。
「弾いたッ」
敵機の複数機の撃墜を、さらには残る敵機が交戦を断念して離脱する様子を正面に見て。
ジョンソンが零しながらも、直後にはジョンソンを筆頭に飛行隊各機は。今に撃ち屠られた敵機の爆炎に、粉微塵までになった破片を割って潜り抜け通過。
飛行隊は、いよいよ敵艦隊を正面間近に見る。
《間もなくだ、進入投射に備えろッ》
それを見て、進入投射を担う飛行隊のリーダー機から、促す言葉が通信に上がり寄越され。
各機は一層、エンジンを吹かした。