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十九
霧は晴れつつあった。海上に小舟を漕いでしばらく、海賊船が隠れていた島から煙が幾筋か立ち上るのが見えた。井達開が言った通り、水軍が火矢を使ったのだろう。
六飛は目を岸に転じた。月に照らされた桟橋に、人影はふたつ。井達開と高のものだ。王衛の気配はなくて、ほっとする。
舟が桟橋に着いた。
船倉で見たものを報告すると、井達開は苦しげに眉をしかめた。
「仙狸の子の仕業に見せかけるために殺されたのだろう」
六飛は黙っている。おそらく、井達開は最初からこの事件は仙狸の子の復讐を装った人間の悪事だと踏んでいた。方士を雇ったのは、たぶん、念のためで、高が『当家には周到なところがある』と言っていたのはそういう意味なのだろう。
けれど、方士は仙狸の子を見つけてしまった。見つけたあやかしを、方士はどうするつもりだろう。
「あの……王衛、紅音の先生は……?」
「この先で落ち合うことになっているが」
「じゃあ、あの……俺、ここで……」
目線で小舟の底に横たわる紅珊を示す。
「紅珊のこと、頼みます」
顔を上げずに、くるり、とふたりに背を向けた。その背に、井達開の声がかかる。
「後日、労いの席を設ける。廟堂で待て。また連絡する」
うなずいたか、うなずかないか、曖昧に六飛は振り向く。すぐに葦の茂みに姿を消した。




