6.それから
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ウェズリー様が、お飾りの夫となることが決まりました。
彼の荷物は客室に運び込まれ、夫の部屋はエヴァンが使う事になりました。
ウェズリー様は最後まで青い顔をしているだけでした。
それから数日後、ウェズリー様の愛人さんの刑が執行されることになりました。スノードロップ侯爵家の温情により、安らかに眠れる毒杯を賜ることとなった様です。
やった事は悪質ですが、その大元の原因はウェズリー様ですからね。
事前に謝罪の手紙を受け取っており、そこには謝罪と今回の事に至った経緯が書かれていました。
ウェズリー様を選ばなければ、彼女も幸せになれたでしょうに。
残念です。
彼女の遺体は誰も引取り手がいなかった為、共同墓地へと埋葬されました。
私は彼女の謝罪を受け入れ、せめてもの手向けで花を送りました。
それで終わりです。もう、彼女を思い出す事はないでしょう。
それからウェズリー様は、心を入れ替えたのか、真面目に領地運営を手伝っています。
辿々しい所はありますが、お義父様の執事に日々嫌味を言われつつ頑張っている様です。
私とウェズリー様との関わりは、相変わらずほとんどありません。
表向きには夫婦なので、夜会などのパートナーが必須の場には二人で出席しますが、それくらいでしかウェズリー様と接する機会はありません。その時も軽い打ち合わせくらいで余計な会話はありませんでした。
一度だけ、彼にやり直せないかと聞かれた事があります。無理ですと答えた所、以降まともに話す機会はなく、いつのまにかウェズリー様は敷地内の別邸で生活していました。
そのうち、体調不良を理由に引き篭もる様になり、顔すら見なくなってしまいました。
お見舞いを何度が申し入れましたが、すべて却下されました。
一応、聖女の資格はあるので治療を申し出たりもしましたが、それでも治らない病らしく却下されました。
そんな病があるのかと驚きましたが、心の病であるなら仕方がありません。それは流石に聖女でも無理です。
魔女様なら治す薬を作れるかもしれませんが。
そしてエヴァンは、私の事実上の夫となりました。
毎日のように愛され、結果として私は彼と出会って一年も経たずに、妊娠。元気な男の子を出産したのでした。
それからも立て続けに身籠り、あっという間に子供が四人もできました。双子もいるのですごい賑やかです。
また、エヴァンは冒険者としてかなり強く(なんとS級冒険者でした)、魔の森の管理や魔獣の討伐にかなり尽力してくれました。
他にもエヴァンは冒険者らしいな見た目によらず、学生時代は冒険者ギルドで事務の手伝いのアルバイトもしていたらしく、そっち方面でも活躍していました。
西の辺境にも冒険者ギルドはありますが、流石に内部の事は私も詳しくは知りませんでしたから。
こうして彼は、魔の森を抱えるスノードロップ侯爵領において、なくてはならない存在となったのです。
そんなわけで、初めは胡散臭そうにしていた領民たちからも、エヴァンの評価は上々となったのでした。
そうしてエヴァンは、ウェズリー様が体調不良で参加できない夜会にも、彼の代理の義弟として私と参加し、社交界でも有名になっていきました。
まあ、女性人気というよりは、猫耳と尻尾のおかげで、そういうのが好きな方々から大人気になったのですが。
領民達の暮らしが安定し、魔の森が有る暮らしに人々が慣れてきた頃。スノードロップ侯爵家は獣人国とのやり取りも再開しました。
アーノルド様の死の後も細々とやり取りは続けていたのですが、領地も落ち着いたのでこれからは本格的にやり取りが出来ます。
ここでもエヴァンは活躍する事になります。
見た目が獣人に近い事と、なんと冒険者として獣人の国で活躍していた事もあるそう。
王族に繋がりが有る方と面識があると知った時には義両親も流石に驚いていました。
どうやら相手は身分を隠して冒険者をしており、エヴァンとパーティーを組んでいた事があるのだとか。
お陰で獣人国との繋がりが強くなり、それを通じて魔族の国とも交流ができた。これが国益に繋がり、スノードロップ侯爵家は爵位を上げるかどうかの話が出ているという噂。
お義父様は、様々なバランスと面倒事が増えるのが嫌なので断りたいみたいですが。っていうか、爵位あげると後は公爵になりますね。
となると、王族との繋がりなども面倒ですね……。爵位は今のままで良いんじゃないかな?
とにかくなんだか、すごい事になっているけれど、私はスノードロップ侯爵家に恩を返せただろうか?
アーノルド様の遺志を繋げただろうか?
もし、出来ていたなら、とても喜ばしいと思う。
◆◆
そして、私とエヴァンが愛人になって四年ほどが経った頃。ウェズリー様が亡くなりました。
心の病から無気力になり、体力が落ち、衰弱してしまったようです。
心の病は光属性の治癒魔法でもどうにもできません。精神に作用できる闇属性の魔法なら治せたのかも知れませんが、生憎そこまで能力の高い闇魔法使いはこの国にはいないのです。
何も知らなかったので、結局一度もお見舞いすらしていません。
それを申し訳なく思い、エヴァンに吐露すると、「ホリーが気にする事はない。アイツは──自分の運命に向き合っただけだ」と言いました。
それがどういう事なのかはわかりませんでしたが、きっとわからなくても良いのでしょう。
ウェズリー様ともっと心を通わせられれば、違う未来もあったのでしょうか? でもいずれエヴァンと出会っていたならきっと同じ結果になっていたと思うので、なかった未来は考えないようにします。
せめて、ウェズリー様か安らかに眠れる様に祈っております。
◆◆◆
それから一年後。
私とエヴァンは正式に結婚しました。いえ、再婚ですね。私は。
これに対し周りの反応は意外と好意的で驚いたのですが、よくよく聞いてみれば学生時代からウェズリー様の素行の悪さは有名で、彼が結婚をしても上手くは行かないだろう事、兄のアーノルド様の代わりは務まらないだろう事は予想されていたらしい。
……ウェズリー様、一体何をしでかしたのですか?
いえ、亡くなった方を悪く言うのはやめましょう。不毛ですし。
そして私は、五人目の子供を出産しました。
五人目は女の子でした。
髪や瞳の色は私にそっくりですが、頭にある一対の獣耳と、お尻にある尻尾はエヴァンと同じ。
どうやら、スノードロップ侯爵家の血を濃く受け継いだみたいです。
そんな見た目なので、エヴァンはもちろん、兄姉全員で猫可愛がりしまくりで将来がちょっと心配ですね。私が しっかりしないと!
ちなみにほかの兄姉は、長男、長女、次男と三男です。次男と三男は双子です。
エヴァンと初めてそういう関係になった時に言われたことが、本当になってしまいました。
運命の番ってこういうところの相性もいいのですね。
長男はスノードロップ侯爵家の跡取りとして頑張っています。
空色の瞳はアーノルド様を思い出させます。きっと良き後継になるでしょう。
長女は浄化の力と光魔法の才があるようで、私と共に修行をする毎日。将来は聖女よりも治癒師になりたいみたいです。その辺りはゆっくり決めてゆきましょう。両方になっても良いのですから。
次男は大人しめで、三男は活発。どんな大人になるのでしょうか。楽しみですね。
まあ、全員女性もしくは男性を泣かせるような大人にはしないように気をつけましょうね。
そして、エヴァンはお義父様から爵位を継ぎました。
領民も魔の森のある生活に適応し、それが当たり前になってきました。
魔力資源も十分取れるようになり、このままいけばダンジョンも形成されるかもしれません。
それはまた大変なのですが、私たちならなんとかやっていけるでしょう。
ウェズリーが亡くなった時、ホリーには既に子供が四人います(男、女、男双子の順)。
その後もう一人生まれて計五人子供を授かりました。
本編はこれで一応完結です。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
この後、オマケが二作ほどある予定です。
誤字報告ありがとうございます!
助かります!!




