10.日常
少年が、初めて「市場」へと参加したあの日から、幾月か時は過ぎ去って現在、少年はいつも通りに森を駆け回っていた。
遭遇して襲ってきたゴブリンの棍棒を躱してから、愛用している鉈により頸を一薙。
血を流して倒れるよりも速く、仲間がやられた事で一時的に棒立ちとなってしまった次の的に向かって距離を詰めてもう一閃。
そして、少年を囲もうと動いていた姑息なゴブリンの方へと体を向けて走り出すと、ゴブリンが投げ来たことで飛んでくる石を鉈で払いながらスムーズに間合を詰めて喉を一突き。
ゴキッみたいな濁った音と確かな感触を感じながら後ろの方を向いた。
すると、弓なんてゴブリンにしては高等な代物を持って居たソイツが、慌てたようにして放った矢を軽く身体わズラすように傾けて躱し、また走る。
恐怖が殺意を上回ったのか、ソイツは自身よりも少し身長が高いくらいの存在に背を向けて逃げ出した。
だが、それも無理はないだろう。
自身とそんなに変わらない強さしか持たないと思って居た獲物が、仲間3匹を瞬時に殺してから自らの得意とするとっておきの矢を軽く躱して近づいてくるのだから。
焦燥に駆られるようにして走る獲物を追いかけて徐々に距離を詰めた少年は、得意の得物である愛用の鉈の持ち方を変え、槍投げのような投擲の姿勢を取り。
手に力を込めながら思いっきり鉈を投げた。
結果は命中
頭をひしゃげさせながら脳を潰されて生を失って前に倒れ込む弓持ちゴブリンの姿を見て、ゆっくりと油断なく狩人は獲物に近づいて行く。
殺した獲物の絶命を確認すると、頭に深く刺さってる愛用の鉈をゴブリンの首元を足で踏みつけ力を込めながら引き抜く。
そして、慣れた手つきでゴブリンを仰向け姿勢に直して胸元を効率良く切り開いて石を取り出す。
終わったら、他に仕留めた三匹のゴブリン達も同様に魔石だけ取り除いて、腰に取り付けた袋の中に入れて行く。
「後は、鳥か兎が見つかれば幸運か」
そう独り言を小さく呟いて、少年は今日の糧を探して森を歩く。
街に着いた少年は、森からの帰り道に川で洗って綺麗にした得物を布で刀身を隠しつつ腰にぶら下げながら、「市場」の方へと進んで行く。
「おや、いらっしゃい。どうやら狩りは順調なようだね。」
「ああ、鳥3兎2だ。今日は結構運が良かった。」
「それは重畳。何か買って行くかい?」
「服一着と、鳥の干し肉の作り方を教えて欲しい。」
「……いいけど、兎の次は鳥か。この前教えた兎については作ってるのかい?」
「ああ、何個か作ってるのはある。だから、要領はなんとなく分かるんだが、一応鳥についても知っておきたくてな。」
「……まあ、いいけど。言っておくけどうちは肉屋じゃないよ?」
「知ってるさ。だけど、知ってるなら馴染みの奴から教えて貰った方が良いからな。頼む。」
「はぁ、こっちもそれで損してる訳じゃないから全然良いんだけどね。わかったよ、この後教えてあげる。どうせ、魔石を売りに行くんだろう?それが終わったらまた来なさいな。」
「わかった、じゃあまた後で。」
そう言って、いつもと同じように馴染みとなってる露店商の下へと向かう。
「おう、坊主。また魔石の買取か?今回はちゃんと脂を落として来てるだろうな?」
「どんだけ昔の話をしてるんだ?しっかり処理をして来たさ。ほら、ゴブリン11だ。」
「いや、おれにとっては最近なんだが…まぁ、良いか。それにしてもお前さん、結構腕が良いよな?」
「まぁ、ぼちぼちだよ。」
そう言いながらも少年は、己に「力」が発現した日について思い出していた。
今より少し前、森での歩き方にも狩りの方法もある程度確立させて来ていたそんな折。
ゴブリンを討伐していた少年は、不思議な現象を体験していた。
ゴブリンの頸元へと鉈を振る時に、何らかのエネルギーが自分の腕の方に急激に凝集するイメージが頭に湧き、加えて、振り下ろした鉈がした仕事はいつもよりも苛烈であり、獲物の頭を遠くまで吹き飛ばしてしまっていた。
今まで頸を深く斬りつけるなら兎も角として、切断して頭を吹き飛ばしてしまうなんて事などなかった少年は、獲物は一旦放置して即座に自らの腕へと意識を巡らせる。
すると、腕だけではなく身体中から何らかのオーラのような物が立ち上り、それが集まっている腕にはいつもの何倍もの力が出せそうな気配がしていた。
試しに、腕ではなく脚に力を込めてからその場でジャンプすると、いつも以上の跳躍力を発揮して周囲にある木々と同程度の高さまで跳び、そこから地面に向けて自由落下したにも関わらず、脚に特段のダメージはなく健全としていた。
この日から、少年の狩の効率は何倍にもなった。
しかし、万能感に浸れてた当初とは違って、現在では褒められても謙遜をするようにしていた。
「力」は、エネルギーの上に成り立っているという当たり前の事実に、ゴブリンとの戦闘中に気付く事が出来たから。
おかげで、そのエネルギー切れを起こした時以外はゴブリンに殺されそうになる事もなく安定して狩りを行えているのだ。
「ほれ、銅貨11枚だな。」
「……確かに受け取った。ありがとう。」
「おうよ、また来な!」
以前、血が付いてない綺麗な方が買取の時に文句を言われなくて済む、と教えてくれた割と親切な魔石を取り扱ってるおっさんに礼を言ってから少年は、食糧を取り扱っている商人の方へと向かう。
いつも通り、人混みでそこだけぎゅうぎゅな露店の前に立って一呼吸。
「行くか!」
気合いを入れてから、人の群れの中へと飛び込むようにして入り、脚に「力」を少しだけ込めながら踏ん張って店主の元に向かう。
「黒パン二つ!」
両手に銅貨を一枚ずつ握ってそう声を張り上げて、手元の銅貨がなくなって、代わりに馴染みある感触のモノが手に納まったのを確認すると、速やかに人混みから離れて行く。
「ふぅ、いつも通りだな。ここは。」
そう疲れたように言いながら、少年は帰路に着く。
「おかえり、にーに!」
昔よりも格段に血色の良くなった妹を見ながら、今日もここに帰って来れた事に心の内で喜びながら、少年はここでもいつも通りに言う。
「ただいま!」
ここまでお読み下さった皆様、本当にありがとうございます!
この作品は、これで完結となっております。
少年のその後を幾つか削って10話に納めましたが、切りの良い完結に出来た事、嬉しく思います。
ここまで書く事が出来たのは、読者の皆様が居て下さったからだと私は心からそう考えております。
再度言わせて下さい、
本当にありがとうございました!!!
そして以下は、皆様へのお願いとなっております。
「どんなリアクションもありがたいので、宜しければこの後書きの下にあるリアクション機能や【▼感想を書く】を利用して頂けないでしょうか?
「お疲れ様」でも「ここが引っかかった」でもどんな一言でも嬉しいです。
この作品は、私が初めて完結させる事が出来たものですので、新人を助けると思って、どうか宜しくお願い致します!!」