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第11話 結

私はもう罰を受けた。だから、この子を育て上げるまでは。もう少し勇気と一緒に……ごめんなさい。


 許して……お願い……お願い……


────────────────────────────────────



「ねぇパパ! 髪型崩れてない?」


「大丈夫、大丈夫」


「この袴、似合ってるかな?」


「そりゃあもう! すごい似合ってるよ」


「良かった! これ、ママが選んでくれたんだ」


 未来は満面の笑みで話しかける。その隣で、千春も嬉しそうだ。フォーマルスーツに身を包んだ俺は、未来の大学の卒業式を嬉しくも、寂しくも感じていた。


 千春も同じなのか、笑顔に少し寂しさが滲んでいる。


「未来〜おはよ〜」


「あ! パパ、ママ。私、行ってくるね!」


「いってらっしゃい」


 友達を見つけた未来は、そのままハイテンションで会場へ入っていく。


 春からは新社会人か……



 あの事件の後、千春は1ヶ月眠り続けた。そして、奇跡的に目を覚ますことができた。きっと未来が千春を呼び戻してくれたのだろう。


リハビリを頑張り、今では普通に生活を送れている。ストーカーに襲われたことは大きな傷となったが、夫婦と未来で一緒に乗り越えてきたつもりだ。


 そして、今日子育てが終了を迎える。これからは大人になった未来を支えられる夫婦でいたい。俺は千春に声をかけた。


「これまで、ありがとう。すごい助けられたよ。頑張ってくれて、本当にありがとう」


 千春は俯いて涙を流していた。


 最近、歳を重ねて涙もろくなってきたとはいえ、そんなにボロボロと泣かなくても。俺はフッと鼻で笑って、久しぶりに千春の頭を撫でた。


 未来は卒業記念だとかで、そのまま友達と旅行へ出かけた。


 夫婦でしっぽりなんて何年ぶりだろうか。食器棚に眠っていた普段とは違うグラスにお酒を注ぐ。それを千春に渡そうと前を見ると、何か言いたげな様子で俺を見つめていた。


 そして、強く決心したように名前を呼ぶ。


「勇気。じつはね……」


◇◇◇


 俺はこれまで過ごした時間を決して無駄だとは思わない。千春と未来と過ごす、22年間は誰が何と言っても幸せな時間だった。


 笑って、泣いて、怒って、悲しんで、それをお互いに支え合った。家族の絆は簡単には壊れるはずもない。今でもそう思っている。


 あの時、千春が俺に言った告白はショッキングなことではあった。


 でも、心から許そうと思えた。3人で過ごしたこれまでの時間にはひとつも嘘はなかったのだから。


 全てを話し終えた千春の手には、離婚届が握られていた。


 俺が許したとしても、千春は自分を許すことができなかったようだ。そして、離婚届には住所が書かれた1枚の紙が添えられていた。


「あの人に会ってきました。あなた達の人生を壊した酷い私に、あの人も勇気と同じように優しい笑顔を向けてくれた。未来を、勇気と一緒に育てられて本当に幸せだったよ。ありがとう……本当にごめんなさい……だから、これからは私が奪った時間を、彼と一緒に取り戻して……」


 はるかのことは綺麗な思い出として心に閉まっていた。その扉をまた開けていいのか、俺は迷った。住所を見ると、「キョートミラージュ」の近くであることがわかる。


 もしかして、はるかはまだ俺を……?


◇◇◇


岡本勇気さま


拝啓

 春風の心地よい季節になりましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか。というか、そっちも今春の始め頃かな?私もお母さんも元気にしています!


 先日は私が欲しがっていたカバン送ってくれて、ありがとう! サプライズですごいびっくりしました。もちろん、嬉しくて毎日使っています。


 じつはこの前、会社の後輩に仕事を教えていたら「岡本さんの教え方、すごいわかりやすいです」って言われました。


 私ももう先輩としてかなりレベルを上げているよ(笑)何を隠そう、この春からチーフになります! 社会人3年目で、すごいよね?


 あと、友春ともうまくいっているよ。早くパパに会ってもらいたいのに、旅費が高すぎてなかなか行けません! 今度のボーナスに2人で行けたらいいな。その時は、彼も一緒に観光案内してね。


 言われた通り、チューブのわさびを送ります。パパのことだから絶対、たこわさびを作ろうとしてるんだろうなと思って、ニヤニヤしながら入れました。


 パパはそれ以上いらないって言っていたけど、それだけじゃ何か寂しかったから私のお気に入りのお菓子も入れておきます。2人で食べてね〜


では、時節柄ご自愛ください。

                                    敬具


岡本未来


◇◇◇


「未来さんから荷物?」


「うん。そうだよ」


「あぁ、わさび!えぇ……でも、スウェーデンで生のたこって手に入るのかな?」


「うーん……じゃあ、今度の休みに一緒に探しに行こう」


「それ、いいね!」


 はるかは白い頬を赤く染めて、キラキラと光る笑顔で俺を見つめた。


この小説は私が執筆した2本目の作品です。


拙い文章で綴ったものを最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


リアリティを考えると、勇気とはるかが最後まで結ばれないほうが良いと思って、そのつもりで進めていました。


でも、やはり結ばれてほしい、もしこんな拙い小説を読んでくれる人がいたら結ばれることを望むんじゃないかとこの形で終わらせました。


これまで小説を書いたことのない私が、初めて感じたキャラクターへの愛着でした。


多様性と言われる時代でも、自分の個性に苦しんでいる人はまだまだたくさんいると思います。


そして、自分の子どもや友人にそういう人がいたら、どうやって接するべきか……それに迫られたことがある人もまだそう多くないはずです。



この作品でそれぞれの愛について、考えていただければ幸いです。

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