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18「決闘②」


「マランドロ、てめえ、俺に何か恨みでもあんのか?」


 決闘場の上で、最初に口を開いたのはマリオだった。


「何のことだい、マリオ」


 ダンスのステップを踏みながら朗らかに答えるマランドロに、マリオは憎々しげに言う。


「お前ならサンドラも、イサドラだって選べたはずだ。リラを選ぶ理由がないだろうが」


「恨みはないよ。でも君にリラはもったいないね」


「それは俺の台詞なんだよ」


「僕にももったいないか。自覚はあるんだな」


「もったいねえほどだから欲しいんだろうが」


「君は彼女を不幸にするよ。俺なら彼女を幸せにできる」


 このバカは何を言っているんだろうか。

 マランドロの言葉にマリオは少し驚く。


「本気かよ……」


「当然本気だ」


 マランドロの答えにマリオは息を呑んで、そして目を細める。


「でもお前はきっと、リラを退屈させるよ。あいつはな、不幸なぐらいがちょうどいいんだ!」


 決めつけないでほしいんだけど。

 ていうか意味不明なんだけど。


「マリオ……!」


 マランドロが語気を荒げた瞬間、その足ががくりと崩れる。

 目はマリオを睨んでいるが、何もできずにいる。


「はは、俺を殴りたくなったか! マランドロ! 堪え性のねえ奴だ! だから負ける!」


 その一瞬で、マリオはマランドロの懐に踏み込んでいる。

 いつも以上に力強い踏み込みだった。

 マランドロの腹にはマリオの拳が既に突き刺さっている。

 そのまま担ぎ上げると、肩の上で大きく一回転させて、地面に叩きつけた。

 マランドロは起き上がれない。

 マリオは笑う。


「ほらな」


「決着! 勝者、マリオ!」


 審判役のフォルトゥナが告げる。

 リラはあっという間に終わった決闘にため息をつく。


「マランドロが何も抵抗できないなんて……」


 マランドロではマリオには勝てないと分かっていた。

 だがここまで一方的になるとは思っていなかった。


「扱いの難しい『テスカトル』をよく使いこなしている。『祝福レガリア』による身体機能向上も相当の練度に到達しているな」


 リラは決闘場で勝ち誇るマリオを見つめる。


「でも『軽身セフィロ』は使っていなかった」


「『軽身セフィロ』を生かせる動きでもなかったな。隠す理由もないだろうし、おそらく持っているのは『幸運フォルトゥナ』と『テスカトル』、『祝福レガリア』の三つか。最悪ではなかったな」


 最悪のパターンはマリオがフォルトゥナの四つの力全てを保有していることだった。


「持っていたとしても、やることは大して変わんないでしょ」


 相手の手札に応じて作戦を変える余裕はない。


「……その意気だ」


 リラは踏み出す。

 決闘場は婚約場。

 ここから続けて、最終的な勝者であるマリオとリラの婚約式が執り行われる。決闘場のすぐ外まで進むとリラは大きく息を吸って言い放った。


「私はマリオとの結婚に不服を宣言する!」


 その大声に審判役のフォルトゥナは動きを止める。


「リラ、一体何を……」


「私はマリオと結婚する気はありません!」


 決闘場の上のマリオは余裕の笑みで言う。


「リラ、今更そんなこと言っても意味がねえだろ。もうお前は俺の嫁だ。これは五分前にもう決まっちまったことなんだぜ!」


 そこで口を出したのは司書の老人だった。


「マヌエル、法典を忘れたのか? 思い出せなければお前は教室からやり直しだぞ」


「それは何のこと…… まさか…… 不服? 宣言……! もしかして!」


 老人の言葉に審判役のフォルトゥナは慌て、それから気付く。


「リラを戦わせる気ですか!」


「戦うかどうかはリラが決めたことだ。わしがそそのかしたように言わんでくれ。もしそそのかした奴がいたとしても、そりゃそこの裁定者だ」


 二人の問答に、マリオは戸惑ったように言う。


「おいおい、どういうことだ? リラに断る権利なんてねえだろ。マヌエル先生、そんなものはないよな?」


 審判役のフォルトゥナは、大きく息を吸い、頭を振ると言った。


「確かにない」


「そうだよな」


「ただし、これから生まれる可能性はある。今リラが言ったのはその手続きの宣言です。決闘婚が執り行われる時、女には不服を宣言することで勝者と決闘する権利が生まれる。そしてその決闘で男が勝利できなかった場合、その女は自らの結婚相手を自分で決めることができるようになるのです」


「何だって? もう一度言ってくれ!」


「望みを叶えたければ、リラと戦って勝つ必要があるということです」


「何なんだよ、そりゃ。聞いてねえぞ、マヌエル先生! 俺はきちんと確認したんだ、そんな文章はなかった!」


「皆さんに配っているテキストでは省略されていますが、原本にはあるのです」


 マリオは怒りに顔を歪めて、リラを睨む。


「誰の入れ知恵だ? そこのガキか!」


「誰でもいいでしょ。あんたがあたしに勝てなきゃ、ここで話は終わり!」


「まさか俺に勝てる気か、リラ! やめとけよ、手加減なんてしねえぞ!」


「いらないわよ!」


「フォルトゥナがフォルトゥナでない者に負けることはありません。意味がないから教本では削除されたのです。マリオ、あなたはフォルトゥナで、リラはそうではない。分かりますね?」


 マリオは顔をしかめて言う。


「勝てばいいんだろ。勝つさ」



 ◆◇◆◇◆◇



「お前の雰囲気からして、何かあるとは思ってたんだ。マランドロは一発で仕留めたから疲れはない。期待しても意味ねえぞ」


 そのまま決闘場の上でリラはマリオと向かい合った。


「どうかしら。あんたのことだから、安全に勝つため、それに格の違いを見せつけるために、余計な力を使ってると思うの。どう、当たってるでしょ?」


「当たってねえよ!」


 決闘の開始の合図。

 マリオは前回通り無防備にふんぞり返る。

 対してリラはその場でマリオをぶん殴ろうと力を込め、ふりかぶり、大きく跳躍する。その瞬間に全身の力が抜けるのを感じた。『威圧ズグラース』だ。


「そんなんで勝てる訳ねえだろがあ!」


 視野の端に強化された身体能力で迫るマリオが映る。

 う、うご、うごかな、な、な、ない

 動かない。動けない。

 身体が動かせない。

 気持ち悪い。

 めまいがする。

 吐きそう。

 働かない。頭が働かない。

 何も、な、なにもか、かん、かんがえ、か、か、か、あ、あ、ああ…… あ…… ……


本作をお楽しみいただき、ありがとうございます。

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