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13「特訓の日々①」


 翌日(一日目)――


「これから君に古代のフォルトゥナの力を身に着けてもらう訳だが、まずはその性質を知ってもらう必要がある」


 最初に少年は言った。


「俺たちは力をインストールすることで手に入れることができるんだけど、実際にはデータをストレージにコピーしたらそれで終わりじゃない。力を得るということは、その力をふるえる存在に自分自身が変化するということだ。専用の認識器官、操作器官が生成され、力の行使に耐えられるよう肉体が変化することもある。人間が本来持たない特殊な力であるほど、この変化は大きくなる」


「怪物みたいになるってこと?」


「見た目はあまり変わらないことが多いかな。どちらかというと脳…… いや魂…… ちょっと違うか…… コンピューターで例えるとOSのカーネル機能やネットワーク機能のような、基本的な機能が書き換えられる、みたいなことの方が多い」


 あまり専門的なことで例えられてもよく分からないんだけど。


「それってどんな感じなの?」


 少年は少し考える。


「見え方、感じ方が変わるんだ。好きだったものに嫌悪感と吐き気を感じるようになって、別のものが以前と違っていいものに感じられるようになる。手足の動かし方が今までどおりではうまくいかなくて、新しい動かし方を覚えないといけなくなったりする。そんな感じかな」


「……それって実体験?」


「部分的には」


「そうなんだ」


 どこが実体験なんだろう。


「君たちフォルトゥナに話を戻そう…… ホアキンが本来得るはずだった天人の力もその特殊な力の典型で、ストレージの大半を占拠したうえで、他の力をまともに扱えないほどの専用構造に持ち主を作り変えてしまうものだった。一日中、苦もなく空を飛んでいられて、寝ている時でもふわふわ浮かんでいられるようなものになるには、人間じゃなくなるしかないってことだ。でもホアキンは、その巨大な力を受け入れられるほどのストレージがなかった。ストレージが足りない人間に無理に力をインストールしようとした時、何が起きると思う?」


 答えを求めている訳ではないようだ。

 少年はそのまま続ける。


「大半は何も起きない。前提条件が揃わずインストールが開始できなければ無事で済む。ただもし不完全でも開始できてしまった場合は、容量不足で中断されるまでインストールが進み、最終的には不完全なデータと不完全な肉体変化が残ることになり、最悪の場合は生命活動を維持できなくなって死ぬことになる。

 ただ、ごくまれに無事に生き残ることがあって、そういう場合には新しい力が生まれる。それは限られた力しか持たない代わりにストレージ消費量も少なく、使用者の身体変化もごく少ない廉価版になる。

 これは天人に限らず、神々の権能をそのままの形で維持していた半神の多くに起きたことだった。当時の半神たちは世代を重ねるにつれ次第にストレージを失いつつあり、その中で存続できたのは、自らのストレージ消費量を減らせた力だけだった。ホアキンに起きたことはその一例とも言える。そもそも二千五百年前の時点でも、ほとんどの半神は既に廉価版への移行を済ませていて、天人のように古代の強大な権能を維持できているものの方が例外だった」


「その完全版と廉価版ってどのくらい違うの?」


「俺たちは完全版を第一世代権能、廉価版を第二世代権能と呼んでいる。第一世代権能は神の権能の一端、世界の理を作り変える力だ。天人の王族は、十万トン程度の岩の塊を上空に持ち上げ、数日にわたり時速百キロ程度で飛行させ続けることができた。岩と一緒に飛ぶ天人の身体が風圧に耐えられないだけで、現代の飛行機のように風圧から守られるコクピットを作り、その中でシートに固定された状態ならもう少し速くできたんじゃないかと思う。ちなみにその場で数十秒ほど浮かべて数百メートルほど放り投げるだけでいいなら岩山一つ、おおよそ五百万トンくらいまではいけたはずだ」


「……話盛ってない?」


「実際に見たことしか言っていない。一度だけ共闘したことがあるんだ。でも、裁定者の前で奴らが真の上限を見せたとは思えないから、もう一段強かった可能性もあるだろうな」


「……それが本当だったら、天人ってもう半分じゃなくて完全な神様じゃない?」


 五百万トンの岩というのがまず想像できなかったが、すごい量なのは分かる。


「たぶん天人の神はもっとすごかったんだろう、俺は知らないが。これが廉価版のフォルトゥナになると一気に規模が小さくなる」


「百トンぐらいになっちゃうとか?」


 適当に言ってみる。

 百トンってどのくらいなんだろう。

 少年は首を振った。


「限界まで鍛え上げたとして、人間の身体一つを五分も浮かべ続けたらエネルギー切れだ。一応、出力を下げていくと、一気に持続時間は伸びていく。体重を半減させる程度に留めれば、並みのフォルトゥナでも六時間は持つだろう」


「自分の身体にしか効果がないってこと?」


「身に着けているものくらいなら、難易度は上がるが一緒に軽量化できるぞ」


「もう廉価版というより劣化版じゃない?」


 体重百キロでも一千万分の一、持続時間を考えればもっと下だ。

 少年は楽しそうに言った。


「その通りだ。成長を終え、十分に熟練した天人なら、ほとんどが十万トンの岩を五分くらいは当たり前に浮かべられたけれど、フォルトゥナでは自分自身だけを五分以上浮かべ続けられた者でさえ歴代でも数えるほどしかいなかった。全盛期のホアキンにも自力飛行するほどの力はなかった。……ホアキンは空を飛びたいなんて全く考えていなかったようだったがな」


「そんなに強かった天人も今はいないんだよね」


 天人はローマによって滅ぼされたと聞いていた。


「天人は脆すぎた。ものを空に浮かべる力は確かに何でもできて、圧倒的な強さなんだけど、使うには集中が必要で、奇襲に対してとっさに防御を固めるのには向いていなかった。

 時代も悪かった。あの頃は、完全な権能を引き継ぐ半神が少数だが生き残っていて、勢力拡大を狙う強者たちは天人のような高火力の半神と戦うことを想定して戦い方を考えていた。

 半神たちの欠点は共通だ。力の発動にある程度の集中と手間がかかること、そして肉体が弱く脆いこと。だから半神に挑む者は、威力はそこまで大きくないが、とにかく一瞬で放つことができ、一瞬で届く技をまず開発していた。悟られずに接近し、生身を晒していれば素早く仕留め、そして不利となれば一目散に逃げ去る。あの時代の新たな強者は、都市を一夜にして滅ぼしたり、大軍勢を単独で潰走させたりする力はなかったけれど、狙った少数を殺すことには長けていた。

 天人たちも警戒はしていた。王族クラスは重力場による防御壁を常時まとっていたようだったが、結局、小さな油断を突かれ、最終的にはまとめて狩られてしまった。

 フォルトゥナの力はほとんどの部分で天人から大幅に劣化していたけれど、速さだけは別だった。手足を動かすよりも速く反射的に使うことができ、また使うストレージが圧倒的に少ないために弱点を補う力を追加で取得することができた。

 フォルトゥナは当時の覇者である瞬間的な火力を極めたタイプの天敵となる方向で力を組み上げていった。

 ストレージの限界のために、最終的にはより有用なものに入れ替えるため選択肢からも捨ててしまうものもあったが、千年前にはほぼ固定されていた。その中で必須とされたのが今に残る三つの力だ」


本作をお楽しみいただき、ありがとうございます。

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