08 電話してみた
案内された部屋はやはり豪華で、男子と女子とでフロアは分かれた。ただ、一部屋一部屋はとても広く、部屋同士の間も広いため簡単にお互いの部屋を行き来できないようだ。外には騎士も立っているため尚のことである。
女子2人は残念がっていたが、夜にとっては好都合。距離が離れてるだけでも心持ち楽になるのである。
部屋に入り、一息つく。侍女は夕食を運びに来る際に紹介すると言う。まだ2時間ほどは暇だろう。夜は、鞄の中から使えるものがあるか確認することにした。
鞄には、少しのコスメに学校の教科書がいくつか。お財布にヘッドホン、家の鍵そしてスマホ。
(スマホって使えんのかな...。)
何事も試すべし。夜の人生の教訓だったりしたりしなかったり。
スマホは通信費がかかるため実際はそんなに使用しておらず、保育園と小学校、バイト先そして龍太郎とのやりとりがメインだった。あとは精々、音楽を聴くくらいだろうか。
スマホの電源ボタンを押せば、すぐに画面が表示される。時刻は15:40と表示されているが、学校を出たのが15:30頃だったことを踏まえると、前の世界の時刻のままだろう。当然、圏外になっていた。
それでも何かやってみよう、と思い手始めにメールを送ってみる。・・・・送信できません・・・・
何度か試してみたがやはりうまくいかない。それなら次は電話だ。電話帳を開き、まず母に電話にかけてみる。・・・・出ない。片っ端からどんどんかけていく。といっても、夜の電話帳なんてたかが知れている。すぐにその名前に辿り着いた。
(龍.....お願いだから出て......。)
必死に祈りながらかける。何度も何度も何度も...。
10回を超えたあたりで、もう諦めようかと思った時、プッという軽快な音が鳴った。
息を呑み、夜は相手の声が聞こえるよりも先に言葉を発した。いつまでこの奇跡が持つかわからない。なら今のうちに、伝えたいことを....!
「龍!私は無事!弟妹をお願い!!私の口座の暗証番号、龍の誕生日。そこにいくらかお金入ってる!面倒かけるけど、帰ってくるから!家のことお願い!!ごめん!!!!!だいすき!!!!」
そう叫ぶと、相手から一言、
「待ってる。」
と言う声が聞こえた。その刹那、今まで耐えていた涙が溢れ同時に通話は途切れた。夜はしばらく声を押し殺して泣いて、夕食が運ばれるまでに赤い目元をなんとか元に戻した。
(覚悟は決まった。目標も決まった。何が何でも元の世界に帰る。)
夕食を無理矢理口に詰め込み、飲み込む。メアリーだと名乗った侍女は少し目を丸くしていたが、お風呂はどうなさいますか?という問いかけに高速で頷く夜を見て微笑んだ。
「それではお湯の準備をいたしますので、準備が出来次第及びいたします。それまでごゆっくりなさってください、歌姫様。」
最後の自分の呼び名に、夜は驚いてむせてしまった。
次は龍太郎側の視点になります。