60 ダンジョン探索
翌日早朝。黒井たちは装備を身につけ、さっそくダンジョンへと向かっていた。るんるんに前を進む黒井が後ろをついていく一護たちにダンジョンについて説明する。
「このダンジョンは初心者向けで、階層も10階程度しかないんだって!最初はDランクの魔物から始まって高くてもBランクまでしかいないんだってさ!ちょうど良くね???」
「そうだねぇ。でもその話3回目だよぉ、黒井くん。」
「あれそだっけ?」
楽しみでさ〜と満面の笑みで振り返る黒井に釣られて一護も頬が綻ぶ。
「お、黒井、あれじゃね?」
「ん?おー!あれだー!!」
白木が前方にある、突如として現れたぽっかり空いた穴を指さす。そこには看板が立てられ、ダンジョンの名前が載っている。
「よっしゃー出陣じゃー!!!!」
そのままの勢いで飛び出す黒井を後から3人が追いかける。
「一護、索敵頼む。」
「任せてぇ。....うん、近くに魔物はいないかなぁ。あ、黒井くん、500m先にDランクの魔物一体いるよぉ。」
影魔法の能力の一つ、索敵を習得していた一護はその能力を使って周囲の警戒を始める。
「おっしゃー!さんきゅーいちご!」
黒井の行くさきで魔物を倒す音が聞こえる。どうやらもうエンカウトして倒してしまったらしい。置いていかれないように、と3人もスピードを上げる。黒井に負けじと追いついた3人も各々見つけた敵を倒していく。森に入ってから色々な魔物を倒してきたお陰か、レベルも上がっており、敵を倒すのも楽になってきた。
清水は無口頭での呪文が使えるようになり、一護の隠密のスキルも高くなった。強いて言うなら暗殺の技を磨くくらいか。元々剣道をやっていて剣のような武器に慣れていた白木は、2ヶ月と少しの騎士団長による扱きのお陰で、急所を的確に狙えるようになった。実戦することによって、さらに敵への攻撃に対する抵抗がなくなっている。我らが勇者黒井はと言うと、初日の魔物を殺す触感に嫌悪感を抱いていたが、それも過去の話。どんどん自分のレベルが上がっているのが手に取るように感じられ、切ることへの抵抗感も無くなっていた。そして魔法の同時発動も少しずつではあるが、様になってきているので魔法剣士としての将来が期待できる。
宝箱を見つけたり、隠し通路がないか隅々まで散策しながら4人は順調に階下へと降りていく。出現する敵のランクも上がっていき、徐々に個人では倒せなくなってくる。5階層以降では連携プレーがメインとなり、黒井が指示を出しつつ敵を倒すようになった。
「清水、援護たのむ!一護は隠密メインで奥の方にいる敵に攻撃してくれ!俺は右やるから、白木は左!!」
「了解!」
「おっけ〜」
「おけ!」
場数を踏むにつれて段々と、連携プレーに磨きがかかってくる。黒井の指示は的確になり、白木たちも言われたこと以外の事を考えられるようになった。特に後衛の清水と隠密によって隠れている一護は、全体的に敵を見れるようになったことで、取りこぼしも少なくなった。黒井たちも視覚から襲ってくる敵が減って目の前の敵に専念できるようになり、効率的に狩れるようになった。
少し苦戦しつつも無事に戦いも終わり、次でラスボスの間となったところで、ひたと清水の足が止まった。
「清水?どうした?」
黒井の問いに清水は少し難しい顔をしながら黙っている。考え事をしている時の清水の癖で、いつも眉間に皺がよるので、怒っているように見える。
「まいっち...?」
一護の不安げな声に清水はゆっくりと顔をあげ、おかしい...と呟いた。
「何がおかしいんだ?」
「さっきの敵...ランクがおかしいと思わない?」
「ん?あーさっきのはレッドウルフだよな。統率の取れた群れだったから倒すの大変だったよなー!」
黒井の無邪気な言葉に清水はふるふると顔を横に振る。
「....レッドウルフはBランクの魔物だよ....。このダンジョンって最高でもBランクしか出ないんだよね?それってボスがBランクってことじゃないの?ここでBランクの魔物が出るのはおかしくない...?」
「いやこんなもんなんじゃね?」
黒井のあっけらかんとした答えに清水は満足していないようで、白木と一護の方にもみやる。白木は考え込んでいるようで、腕を組みながら床をじっと見ている。一護は困ったような顔をしてうーん?と苦笑した。
「...確かに少しおかしいかもな。ほら、最初の方はDランクの魔物ばっかりだったのに、一階層より下には全く居なかった。全部CかBランクばっかり。正直、初心者向けにしては難しいと思う。俺らは転移者としての固有スキルもあって、レベルが上がるのも早いから何とか着いていけてるけど、初心者向けって言われてる割には難しかった...と思う。」
白木の言葉に清水が全力で頷き、黒井はえーと不満げな声をあげる。
「そういえばぁ、私たち以外の冒険者もいないよねぇ。ダンジョン初めてだからこんなものかと思ってたけどぉ、ほんとはもっといるんじゃないのぉ?」
流石の黒井もそれには同感したのか、確かに...と苦い顔をしながら頷く。自分の意見が通じた、とみて清水はさらに畳み掛ける。
「あとね、どう考えてもこの扉の先はBランクの魔物じゃない。Aランクの魔物だよ...。ううん、それ以上かも。」
清水の爆弾発言に皆一様に驚き、目を見開く。
「え、ランクとか扉越しにわかんの?!」
黒井の的外れな驚きに白木はそこかよ、と突っ込む。清水は表情こそ変わらないものの、瞳が嬉しそうに光り、黒井の疑問に早口で答える。
「うん、あのね、ユルグさんに最初に教わったの。敵の魔力量を測る方法。測るって言うより見るって感じなんだけど、それで魔物だと魔力量によってランクが変わってくるから使えるに越したことはないって。」
一息に言い切る清水に黒井はおぉー!!と瞳を輝かせ清水に詰め寄る。どうやるんだ?!!と急接近する黒井を白木は引き剥がし、今じゃない!と一喝する。
「清水の話通りならこの先はAランク以上の魔物だ。どうする?リーダー。」
リーダーという言葉に反応した黒井はむむ、と考え込む。
「....正直今の俺たちのレベルじゃAランクはきついな...。ダンジョンの中で死んでも生き返るわけじゃないし、ここはゲームの中じゃない。さっきのBランクの魔物にも少し苦戦したしな。今回は引き返そう。」
黒井の慎重な発言に3人は安堵してほっとため息をつく。もしこれでいやいやいけるだろ!とか言い出したら一発ぶん殴ろうかな...などと物騒なことを考えていた白木は、スタンばっていた拳を緩める。一護は少し涙目になっていたのか、目元を指で擦っていた。
「よっしゃ、そんなら早く戻ろうぜ。意外と時間かかったからな、もう夕方かもしれない。」
来た道を戻り出した黒井の後を清水、一護、白木が続く。しかし、その背後でボスの間へと続いているはずの扉が乱暴に開かれる。驚いた4人が振り返ると中から一匹の黒い大蛇が姿を現した。大蛇は綺麗なエメラルド色の瞳に猫のような瞳孔をギラつかせながら4人をじっと見つめる。蛇に睨まれた蛙の如く固まって動けないでいる3人と、何故か1人動いている黒井。余計なことすんなよ、と肩を叩いてくる黒井に白木は目で訴える。
「え、これ詰んだくね?」
黒井の場違いな声だけが、不自然なほどに静かなダンジョンに響いた。
(((絶対今じゃないだろ、よ、よぉ。)))
3人の心の声が初めて重なった瞬間であった。
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