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召喚されましたが、帰ります  作者: 犬田黒
第三章 ラピス王国
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57 誘拐された歌姫

 ヒビス王国の王城にて、ヒビス王国の王太子アルベールは、珍しく怒りを露わにしながら長い廊下を早歩きで進んでいた。あまりにも顔が怒りで歪んでおり、それを見たメイドがひっと悲鳴を漏らすほどだ。普段から感情のコントロールを叩きこまれているアルベールではあるが、今回の件はどうにも感情が制御できないでいる。そのままの勢いで会議室の扉を開けると、先客はその音を聞いてアルベールの怒り具合に少し怯んだようだった。青い顔をした男が二人と、冷静な顔をしてアルベールへ向き直った男が一人。その男、ラピス王国の国王はアルベールが口を開くより先に深くお辞儀した。


「此度の件、愚息とこの無能な男の企みを阻止できなかったこと、深くお詫び申し上げる。これは部下の企てたことに何も気づけなかった私の落ち度だ。」


 だがそんな隣国の王の謝罪にも、アルベールは顔を緩めるどころかより一層険しくする。


「私は貴殿の謝罪を受け入れない。そんなものは後でいくらでもできる。だが今事態は一刻と進んでいる。謝罪よりも先に事態の収束に尽力願いたい。」


 アルベールは未だ王ではなく、王太子である。あの一件以降床に臥せった父王の代わりに公務を行うようにはなったが、父が死ぬかその口からアルベールが王になることを認められるまでは王として名乗りを上げることはできない。そのため、立場的にも上の隣国の王に対してこのような口の聞き方そして謝罪を断ることは、無礼千万であった。それに苦言を呈そうと、ラピス王国の第一王子ハリス王子が口を挟もうとしたが、アルベールの表情に気圧されすぐに押し黙った。


「いつまで立っている、腰をかけてくれ。そしてもう一度状況の説明を頼もう。私は歌姫が攫われた、としか聞いていないのでな、さあ早く。」

 

 どかっとソファーに座り脚を組むアルベールの態度にイラつくと同時に、上から目線な物言いにやはり気を悪くしたハリス王子だったが、彼に逆らうほどの度胸はない。ハリス王子は隣で放心状態のランスロット宰相を盗み見ながら、話し始めた。


「そもそもの出来事はこの隣の宰相が考えたことなのだ。私が考えたわけではない、そこはきちんと理解してくれ。うっ....」


 早速自分の保身に走った王子に冷たい眼差しを向けるアルベールと、自分の隣に座っている父から放たれる殺気にハリスは思わず唾を飲み込む。二人から視線を逸らし、咳払いで誤魔化して先を続ける。


「宰相が、歌姫は天使としての権能をすでに解放しており、今彼女を囲って仕舞えば天使との子が出来る。そうすれば、魔王に怯えることもなく、召喚を行う必要もなくなる、と。だから早く既成事実を作れ、と言われた。そしたら....。」


「そしたらなんだ?」


 ハリスが少し口篭ったのにアルベールがイラつきながら促す。ハリスはチラリと自身の父を見てから呟いた。


「そしたら王太子として認められる、と....。」


 その言葉に国王は驚き、同時に哀しい顔をした。


「...其方を王太子にしていなかったのは、精霊王との契約を少しでも遅くさせるためだ。知っているだろう?精霊王との契約は普通の人間はできない。我々は初まりの約束があるから何とか出来ているだけなのだ。こんな苦しみを其方に背負って欲しくなかったのだが...。」


 裏目に出てしまったな、と困ったように眉を寄せうっすら笑う父に、ハリスは驚きと嬉しさと罪悪感とが混ざり合った複雑な顔をする。初めて見た王ではなく父の愛情に、ハリスはどうしたらいいのか分からず困惑した。


「おい、今は親子の時間ではない。早くその後を話せ。」


 しかし今は何としても歌姫・夜の行方を聞き出さなければならないアルベールは、親子らしい初めての会話もぶった斬る。今は拗れた親子関係を修復する時間じゃないわ、この◯◯....を何とか飲み込んだために、先ほどより口が悪くなっていることに気づかないアルベール。ハリス王子もあわてて話を続ける。


「そのあとは宰相の言う通りに待っていたら歌姫が落ちてきたのだ。彼女を捕まえてそのまま部屋の中に連れて行った。一度大きく反抗された時に彼女がベッドから降りたんだが、扉には鍵がかかっていた。だから窓から逃げるかと思ったんだが、気づいたら彼女の嗚咽が聞こえた。それで見てみたら彼女の口にワインのボトルを宰相が突っ込んでいたのだ。」


「一気にワインを飲んだせいか、歌姫は酷く朦朧としているようで、ベッドまで連れてこられても全く反抗しなかった。私は宰相を追い出して、その...続きをしようと思ったんだが、その時歌姫が苦しみ出した。」


 突然バンっと大きな音を立てて扉が開かれた。驚いたハリスがソファから大きく飛び上がる。アルベールはこんな時に...と怒りを露わにしながらその闖入者を追い出そうとした、が、彼が自分と同じ顔をしてハリスを睨んでいるのを見てすっと怒りが小さくなった。


 今にも魔法をぶっ放しそうなユルグを宥める方が先決だと考え、ユルグを自分の隣に座らせる。ユルグは終始ハリスを見つめ黙っている。闖入者に驚き追いついていなかった王も流石におかしいことに気づき、アルベールを咎めるように見やる。アルベールは黙って首を横に振り、ハリスに話を続けさせた。最初は戸惑っていたハリスだったが、ユルグの視線に耐えられず話を続けた。


「歌姫の背中から白いそう、まるで骨のようなものが生えてきた。あれは気味が悪かった。まるで魔物のよ...「それ以上言ったら殺すぞ。」


 黙って聞いていたユルグが自身の魔力を全開にしながらハリスを脅す。自分の仲間に、友人にこんなことを言ってくるやつの神経が知れない、と腑が煮えくりかえる思いで絞り出した声は思いの外魔力が乗ってしまったようで、ハリスは青い顔をして苦しそうに首を掻き始めた。王は慌ててユルグに対して詫びを言いながら止めてくれと懇願する。


 抑えようのない怒りに、止めたくない気持ちが大きくなってハリスの顔は青を通り越して白くなっていく。観かねたアルベールに肩を叩かれようやくユルグはハリスに向けていた殺気を引っ込めた。突然の解放に咳き込み、首元を抑えながらユルグを睨むハリス。しかしすぐにあの恐怖を思い出したのか、何も言わず席に座り直した。今度は誰かが促さなくとも、ハリスは自分から話し始めた。


「その後だ...。歌姫の背に羽が完全に生えると、私は急いで宰相を呼びに行った。彼女はどこか怪我をしたみたいで、白いシーツが血だらけになっているのが見えたからな....。手当が必要だと思ったんだ。そして入ってみたら見知らぬ男が立っていた。異様に美しい...あんな顔は今まで一度も見たことがない...。」


 ほとんど独り言のように呟いた言葉にアルベールはあの男を思い出した。まさか...と思い、急ぐ心を落ち着けながらハリスに尋ねる。


「その男は...黒い翼を生やしていなかったか?」


「ああ、確かにあった。飛び去る時に大きな黒い翼を広げていたのを覚えてるが...なぜ王太子殿が?」


 驚いたハリスはアルベールがかの人物を知っていることに不信を抱く。今思えばあれが魔族であることは間違いない。何故あの時思い付かなかったのか...そこまで考えハリスははた、とある考えに辿り着く。


「そいえば、宰相はもう1人の魔族を知っているようだったな。あの男より小さくて、確か名前は...ウリエル、と言ったか?」


 その言葉に今まで虚な瞳をしていたランスロットの瞳に恐怖の色が浮かび、体が震え始めた。

変なところで切ってすみません!連れ去り後日譚もう少し続きます。

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