55 奇襲
夜の護衛騎士であるキリヤは外で見張りをしていた。本来はこの国の騎士に任せるべきであるが、どうにもあの宰相がいけ好かない。よって、彼は今夜寝ずの番をしていると言うわけであった。ナツメ様には最後まで寝るようにと言い聞かせられたが、自分は彼女の護衛騎士なのだ。自分が守らないで誰が守ると言うのか。
カシャン
突如として鎧の音が廊下に響き渡った。辺りは闇で、光が全くない中でまた同じ音が響いた。....何かが近づいている。キリヤはそっと息を殺し、鞘に手を添えながら音の主が現れるのを待つ。不意に左の耳元で鎧の音が大きく聞こえた。瞬時に剣を抜き、そちらへそのまま剣を向けるがすぐにそれは囮であることに気づく。
(まずい、出遅れた!)
反対側から空を切る音がし、何とかそれに応える。剣で防いだその攻撃は、2本の短剣からであることは見て取れたが相手が全くわからない。目元だけ白く浮かんでいる様子から、全身を黒装束で覆っているのだろうと見当をつける。我慢勝負は相手が先に折れ、一度キリヤから距離を取るようにして後ろへ下がった。だがその手は攻撃を緩めることはなく、一瞬闇に消えるとすぐにキリヤに襲いかかってきた。
(ナツメ様に逃げるよう伝えなければ...!)
キリヤは敵の攻撃を流しつつ、剣の柄で勢いよくドアを2度叩いた。こちらに来る前、もしものために考えていた逃げるための合図。安否を確認したいが、敵と攻防一戦になり、中に入ることができない。
(無事でいてくれ...。)
キリヤの思いは夜にきちんと届いていた。というより、敵側の声も届いていた。どうやらキリヤに苦戦しているらしい。この間にこの城から脱出したほうがいいだろう。すでにメアリーはマーシャを起こし、空と翠も戦闘体制に入っていた。
「ナツメ様、窓から外へ!」
メアリーが太腿に忍ばせていた武器を取り出しながら窓を開け放つ。マーシャはドアの外から聞こえる戦闘音に恐怖を覚えているようで、幸いメアリーの物騒な武器には気づいていなかった。
「マーシャ、精霊王を呼びなさい。それから空、マーシャとメアリーについて。翠は私と一緒に。」
「ナツメ様?一緒に逃げないのですか?」
「二手に別れよう。敵が誰を狙っているのか分からない。お願いメアリー、マーシャを守って。メアリー達は商人の通る道を通ってヒビス王国に戻って。私たちは山を越えて戻る。」
一瞬悲しそうに顔を歪めたメアリーを諭すように夜は言った。しかし、次の瞬間にはメアリーは強く頷き、マーシャを片手に抱き上げると、空を連れて窓から飛び降りた。
「翠、私たちも行こう。」
翠が頷き揃って窓から降りようとした時、突然轟音が響き、キリヤが室内に転がり込んだ。同時に敵も侵入してくる。
「キリヤ!!!」
夜が駆け寄ると、キリヤは首元を抑えていた。何か針のようなものが刺さっている。キリヤはそれを引き抜くと、立ち上がり夜を後ろへやった。
「ナツメ様、先に行ってください。ここは私が食い止めます。」
ー精霊の愛子が見当たらない、それにメイドも。先に逃げたか。
敵の声に夜は身を固くした。狙いはマーシャだったのか、と思考を巡らせる間もキリヤは夜を庇いながら目の前の敵と戦っている。
ーこれでは埒があかない、メルたちを愛子の捜索に回すか。
すると、扉の外に待機していたであろう黒装束の人々が飛び出してきた。
「翠!あの人たち止めて!!」
<承知!>
翠が前線に飛び出し、風の魔法を盛大にぶっ放した。普段の言葉遣いからは想像もつかない殺意に満ちた風が敵を襲う。
「うっ、シルバーウルフ?!」
それまで全く口を聞かなかった敵側も流石に驚いたのか言葉をこぼす。
「よし、翠はそのままキリヤの援護。キリヤ、こいつらを絶対に先に通さないで!」
「ナツメ殿は!」
すでに立ち上がり、向かってくる敵の攻撃を凌ぎながらキリヤが叫ぶ。夜を庇っているので背中しか見えないが、心の中は夜の心配で一杯だった。
「私は邪魔になるから、逃げる!だいじょぶ、なんかあったら、歌うから!」
あとは逃げるが勝ち!と言うことで窓から飛び出す夜。先ほどメアリーが飛んでいたので自分でも飛べるだろうとたかを括っていたが...メアリーの身体能力を侮っていた。
「ここ三階じゃーんんんんん?!」
地面に向かって落ちながらこれ死ぬ?!と半泣きになる夜。
「まだ龍に会えてないのに...!」
しかし夜が地面と衝突することはなかった。どさっと何かにジャストフィットして夜の落下速度は0になった。
「君は...歌姫ではないか!」
夜はその声を聞き、誰の腕に落下したのかを即座に理解した。そして、飛び降りようとした。が、出来なかった。
「放せ、このクソ野郎!降ろせバカ!!」
夜は何とか降りようと手足をバタバタと動かしてみるが、相手の力は強まるばかりで全く意味をなさなかった。
「驚いたな、まさか宰相の言う通りにしたら歌姫が降ってくるとは。運命とは思わないか?」
そう言って、ラピス王国の第一王子ハリスは瞳を輝かせながら夜にぐいっと顔を近づけた。
「きもい顔近づけんな、お前婚約者いるだろうが!!!!」
感情が昂っている夜。残念ながら令嬢スマイルも作法もどこかへ飛んでいってしまった。そのまま暴れる夜をハリス王子はベッドへと押し倒した。
バトルシーン下手くそで面目ないです...。次の話は少しレイプ表現等が入ってきます、、




