52 マーシャの冒険
所変わって王城に残ったマーシャチーム。夜たちを見送り早速王城の中を探検することになったが、心配性のメアリーは着いてきてはいるが、今にも帰りたそうにしている。
「マーシャ...戻りません....?」
メアリーの弱気な発言にもマーシャはへこたれず寧ろ強気に首を横に振りずんずん進む。初めて来たはずなのにどこへ行けばいいのか何故か分かる。
(たぶんこっち。)
マーシャの迷いのない足取りにメアリーも説得を諦めて着いていく。正直ナツメ様にはああ言われていたが、心配なものは心配。特にここは他国。自国でも不安は拭えなかったが、ここでも警戒するに越したことはないだろう。ふと、マーシャの足がすっと止まった。慌ててメアリーも立ち止まると目の前には衛兵と扉が。
「貴様ら何者だ。」
「私たちは歌姫ナツメ様のお付きのものです。すみません、この子迷っちゃったみたいで....。」
絶対まずい!とメアリーの頭が警告を発しているため、何とか逃げようとマーシャの肩に手を置きご令嬢スマイルを繰り出す。
「迷ってないよ。ここであってるの。」
(マーシャ....!今は黙っててお願い!!)
メアリーの願いと懇願する瞳は虚しくも無視され、マーシャは衛兵に綺麗なカーテシーをしてみせた。
「初めまして、ヒビス王国第二王女のマリアと申します。この度は王に謁見賜りたく参りました。」
まだあどけない少女の完璧な物言いと立ち居振る舞いに圧倒された衛兵の隙を縫って、マーシャはささっと部屋の中に入ってしまった。その後に空が続き、居た堪れないメアリーももう知らん!と中へ飛び込んだ。中は質素な造りになっていて物も少ない。恐らく執務室のようなものだと思われる。右側に扉があるのを見ると寝室に繋がっているのかもしれない。
部屋の奥で王は書類に囲まれながら、目の前の珍入者に顔を顰めた。
「其方...確かマリアと言ったか。隣国の姫が何故ここへ。衛兵はどうした。」
「私が王へ謁見したいと言ったら通してくださいました。突然で申し訳ございません。」
またも丁寧なカーテシーをしてみせたマーシャに王は少しばかり驚きの表情を見せた。というかさらっと嘘をついている。段々ナツメ様に似てきている気がする...。
「成程。其方は塔に監禁されていたと聞いたが、礼儀はなっているようだな。良かろう、話たいことがあるのなら申せ。」
随分直球だなぁとメアリーは思いつつ、マーシャの後ろで壁になる。私は壁、空気、そう思わないとこんな所1秒だって居られない!メアリーの気持ちはマーシャには全く届いておらず、マーシャはただ淡々と話を進める。
「私がお話ししたかったことはただ一つ。精霊王についてです。」
精霊王の言葉に王は一瞬体を動かした。ただでさえ寄っている眉にさらに皺を寄せ、無言の圧を繰り出す。怖い...ナツメ様だってこんな圧出さないのに...。
「精霊王がいる所へ案内して欲しいのです。」
「何故。」
短いながらも様々な感情が込められた一言。メアリーはすでにその圧だけで塵になりそうなのに、マーシャは全く臆する様子がない。
「約束したからです。精霊王を解放する、と。」
「精霊王の解放...?それを為すことでこの国がどうなるのか分かっての発言か...?」
「勿論、分かっています。その上で私は解放したいと考えているのです。」
ねえ、どうなるの、分かんないよ置いていかないで...。今にも泣きそうなメアリー。とにかく今はひたすらに怖いこの状況から逃げ出したかった...。
「それでは其方はヒビス王国から遣わされた間者と見なすぞ....?第二王女殿。」
「それは決して違いますが、そう思われても仕方ないでしょう。ですが王よ、精霊王もあなたもすでに限界です。それは分かっておいででしょう?」
マーシャの言葉に初めて王が弱い顔を見せた。一瞬のことだったが、グッと何かを堪えるかのような顔をメアリーは見逃さなかった。
「ならん...。何があってもそれだけはならんのだ....。」
王の固い意思にマーシャは想定内だったのか、何事か小声でつぶやいた。すると、王の目の前に風の精霊王が姿を現した。
「私は風の精霊王と契約を結びました。この意味があなたには分かりますよね?」
「それはつまり……其方は精霊の愛子ということか?」
「そうです。」
(え、言っちゃった?!そんなあっさり言ってよかったんだっけ?)
一人頭の中で自問自答を繰り返すメアリー。そんなメアリーを置いて話は続いていく。
「精霊の愛子についてはひょっとしたら私よりも詳しいでしょう。なんせこの国は精霊の愛子によって完成されたといっても過言ではないのだから。」
「成程………其方の意図は理解した。ならば、私の為すべきことは唯一つ。其方らを水の精霊王の下へ連れて行こう。」
「感謝します、王よ。」
そうしてカーテシーをするマーシャだが相変わらずメアリーは全く状況が把握できていない。一人置いて行かれてとても悲しいが、それに気づいた空がそのふわふわの体をそっとメアリーに擦りつけながら、上目遣いをしてみせた。
(かわいい…癒される…でも毛が制服についちゃう……。)
とても複雑な社畜の感想になってしまった。メアリー?とマーシャに呼ばれたことで現実に戻り急いで後を追った。
「其方らを信用してのことだ。他言無用で頼む。」
王の言葉にマーシャもメアリーも重く頷いた。執務室にあった本棚の何の変哲もない本を王が強く押し込むと、カチリと音が鳴りゆっくりとその隠し通路は現れた。勿論王の書斎ということもあって、そのような隠し通路があることは当然のことだろうが、唯一他と違うのは水音が聞こえ通路が淡く光っていること。光源は階段を下った先にあるようで、奥はまだ見えない。王が先を行きそのあとをマーシャ、エメ、空、メアリーが続く。一段一段下っていくごとに寒くなっていくようで、体が震えた。半袖を着ているせいで余計寒く感じてしまう。階段は思いの外長く、ようやくついたと思ってもまだ通路が続いていた。しかし、もう目的地には近いようだ。等間隔に水滴の垂れる音がする。どんどんその音は大きくなり、遂にそれの正体が分かった。
あけましておめでとうございます!と言いつつもうだいぶ時間たってました、すみません…。少し長くなったので前編、後編に分けます!今後ともよろしくお願いします!!




