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召喚されましたが、帰ります  作者: 犬田黒
第三章 ラピス王国
52/73

50 川の精霊

<夜様、私のこともお忘れなきよう!不肖この翠、キリヤ殿が盾となるのであれば、最強の矛として夜様をお守りする所存!>


 仔犬姿の翠が夜とキリヤの手の上にその銀色の可愛らしい足をのっけた。可愛すぎてニヤニヤしてしまう頬をなんとか引き締め、ありがとう、と空いてる手で頭を撫でる。ああ、可愛い。元の世界に戻ったらみんなを連れて動物園に行くのもいいかもしれない。


「間も無く例の川へ到着いたします。」


 外から御者の声がかかり気を引き締める。自分の歌で解決できるか分からないが、やれるだけやってみよう。


 馬車が止まり、ドアが開けられる。先に降りたキリヤが差し伸べた手を取り、外へ出る。


「おやおやナツメ様。この度は我が国の危機の参じていただき、改めて感謝を申し上げます。」


「サンチェス様....。」


 (宰相がいるとか聞いてないんですけど...?)


「ランスロットで構いませんよ、ナツメ様。早速で悪いのですが、こちらへ。」


 (こいつ急にナツメ様とか呼んでんな...しかも心の中がわからん...きもいな...)


 という考えを全て飲み込み、営業スマイルで乗り切る。ランスロット側へ進むとすぐにその状況が目に飛び込んできた。


「これは....ひどい...」


 目の前には大きな溝が左右に広がっている。先は見えないが、そこに大きく広い川が流れていたことは一目瞭然だ。


「この川は我らの国で最も大事な川でしてね、日常生活はもちろん、国一の大きさと長さを誇るため、様々な所に水路が引かれているのです。」


「なるほど、それは今すぐにでも元の状態に戻したいですね。でもその前に約束をして頂けますか?」


「約束....ですか。随分と可愛らしい言葉をお使いになられるのですね。」


「口約束だし、また後できちんと誓約してもらうつもりだけど、ひとまず、ね。キリヤ、それからそこの貴方。そう、ランスロット様の従者、あなたよこちらへきて。」


 突然指名されたランスロットの従者は焦りながら、キリヤはいつもの真顔で横に立つ。全員が揃ったのを確認してから夜は口を開いた。


「今回の件、川の精霊の怒りを買ったことが事の始まりと聞いています。魔鉱石の採掘のしすぎで川が汚染されてしまっただとか...。私との約束は至極簡単です。魔法石の採掘量をきちんと計算して取りすぎないようにすること。」


「おや、採るな、とは仰らないのですね。」


 一々棘のあるランスロットの言葉にキリヤが顔を顰める。心の中は怒りで溢れているようなので大丈夫だから、とキリヤを落ち着かせつつ話を進める。


「ラピス王国では魔鉱石が主要な輸出品と聞いておりますので。発掘を基に生計を立てている者もいるでしょうし、今すぐやめろとは言えません。しかし、魔鉱石が自然から与えられた恩恵であることも事実。難しいのは承知の上ですが、自然と人間、両方の両立を目指していただきたいのです。」


「なるほど、真っ当な意見ですが、難しいのも事実ですな。何か策でもおありで?」


「いえ、素人の私ではお役に立てないでしょう。強いて言うなら今までの採掘量と川の汚染の関係を調べ、採掘量の限度を制定する、と言うことぐらいでしょうか。まあこういうのは専門家に任せた方が安全でしょう。一先ずは口約束だけでもして頂きたい。私が歌うのはその後です。」


 夜の言葉に嘘がないのを見て取れたのか、堪忍したようにランスロットはため息を一つ吐いた。


「かしこまりました。今後の採掘量は見直しましょう。」


「言質は取りましたよ?ランスロット様。キリヤ、今の聞いたね?そこのあなたも。証人もいるし、良しとしましょうか。」


 夜の確認にキリヤが一つ頷き、ランスロットの従者はぶんぶんと頭を縦に振った。


「さて、そろそろ始めましょうか。」


 大地に膝をつき、白い装束が汚れることに心の中で謝る。


 (ごめんなさい、洗濯係さん。白に土汚れって殺したくなるよね。大丈夫、こう言うの洗うの慣れてるので、私が責任持ってちゃんと洗います。....この世界の洗剤ってどう言うものなんだろう...。)


 と考えたあたりで、ぶんぶんと首を振り頭から無駄な雑念を追い出す。今は目の前のことに集中しなければ。


 (今まで普通に生活していたのに、突然汚されてムカつくよね。きっとただ歌うだけじゃ意味はない。出てきてもらって誠心誠意謝罪して説明するってのが一番だよね。)


 バイトで培った経験をもとに精霊に出てきてもらうため、歌うことにした夜。すぅっと息をいれ、静かに歌い始めた。


 あなたと話したい

 あなたに伝えたい

 

 そんな気持ちを込めて歌っていく。それまでそよいでいた風も動物たちの音も鎮まっていく中で、少しずつ水の音が聞こえてくる。


 溢れ出るそれを感じる

 もうすぐそこまで来てる

 残酷なまでに物事はやって来て勝手に進んでいく

 でもあなたは独りじゃない

 

 歌が進んでいくにつれて、触れてる地面から水が溢れてくる。夜の歌に呼応するように()()()頭上に集まるのを感じる。目を閉じ歌っている夜は感じることしかできないが、後ろに立っているキリヤからその状況が伝わってきた。


ー水の精霊だ....本当に出てきた....


ー水が溢れてきている...これが歌姫の力.....。


 どうやら夜の狙いは成功しているらしい。二つ目の声はあの従者か。初めて見たのならそんな反応にもなるか。歌姫は毎回召喚されるわけでもないし、最後に召喚されたのは確か200年前だったか...。


 (そういえば、800年前の歌姫の手記、もしかしたら誰かに隷属の歌を用意されていたのかも....。私の時みたいに....。)


<なんだ、随分と余裕じゃない?歌姫サマ?>


 水中で発したような声が脳内に響きはっと顔を上げる。手はすでに濡れており、水位は少し戻っていた。そして、頭上には水でできた綺麗な女性がいた。水でできているはずなのに体つきは妙にふっくらとしていて、水でできた服を纏っている。これで透けて見えないのが不思議だ。怒ったように眉を吊り上げる精霊は、今度は皆に聞こえるように口を開けて発した。


「出てきてやったわよ、あんたの歌が鬱陶しいから。それで?要件くらいは聞いてあげないこともないけど。」


 精霊は出てきてくれた。あとは誠心誠意伝えるだけだ。夜は覚悟を決め、立ち上がった。 

更新遅くてすみません...。

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