45 ラピス王国で観光
更新遅くてすみません…。もう少し頑張ります。
6時間のフライトは思ったよりすぐに終わりを迎えた。最後までキリヤは青い顔で眠り込み、空と翠も夜のそばで眠っていたが、マーシャはずっとエメ(エメラルドの愛称)から護身術等々を学んでいた。これまでは、メアリーと夜から貴族の子女としての礼儀作法や歴史、四則演算などの最低限のものを教えていたが、今後王族として生きていくのならば、それ相応の学びという物が必要になるのだろう。残念ながら、男爵家のご令嬢と異世界者にそれを教えることが出来るわけもなく、王から排斥された魔力なしの王女に家庭教師をしたいというもの好きもおらず、今日まで生きてきたというわけだ。
精霊王が人間の王族に何を教えられるんだよ、という突っ込みもありそうだが、意外や意外、エメは人間の事情、特に王族に関して精通していた。下手すれば人間よりも詳しいその膨大な知識は、まだヒビス王国で精霊の愛子が重宝されていた時代の名残らしい。人間と関わる機会が多く、自然と覚えその学問の楽しさに目覚めたのだとか。今ではすっかり親交もなくなっているヒビス王国に残っていたのも、愛子の出現を待っていただけでなく、新たな学びを得たかったからという理由らしい。なんとも勉強熱心な精霊である。精霊は好奇心旺盛と聞くが、これはまた別な気がする…。そして、エメが開講した”教えて!エメ先生!″で5時間ほどみっちりと指導を受けていたのであった。この講義では、夜がぽろっと口にした他国での精霊の愛子の出現についてもエメが教えてくれた。
「そもそも精霊とはどこにでも存在している。旧くは我々を見える人間が多く、我々も彼らに力を貸していた。その相互関係の残っている国が今向かっているラピス王国だな、あの国は魔素が多いだけでなく、水の精霊王と古代に契約を結んだことで今でも精霊の恩恵が強いのだ。」
「え?あの国、水の精霊王と契約してるの??てか精霊王との契約って一代限りじゃないの??」
「いい質問だな。それは契約者がラピス王国を未来永劫守護させるよう水の精霊王に約束させたからだ。それからあいつはあそこに縛られている。いや、これは言い方が悪かったな、真意はあやつにしか分らぬ。」
「…エメは、その精霊王とお話ししてないの……?」
「ん……ああ、精霊は他の属性の精霊と関わることは少ないからな。精霊王とて同じこと。………以前はもう少し会っていたのだがな…。」
最後の言葉は独り言のように静かに消えていった。心なしか悲しそうに見えるが、どうやら夜には精霊の心の声は聞こえないらしい。ここにきて新たな発見だった。どこか気まずくなった空気をエメが咳払いして誤魔化す。
「話を戻すが、精霊との契約は基本的に契約者のみだ、その血縁者に受け継がれることはない。だがあの国は初代契約者によって、王が代替わりするたびに契約を更新しているのだ。だから精霊の愛子が誕生することはない。」
こうしてエメによる講義は無事に終わり、夜たちはラピス王国に到着した。初めての国に到着して最初にやることといえば……そう、観光である。
ヒビス王国に来た当初は余裕がかけらもなく、気づけば勉強漬けの日々……解放されたと思えば監禁されていた少女の保護そしてセヴェルへの出張。なんやかんや観光をする時間は取れなかった。そもそも元の世界でも観光なんてしたことはなかったが、だからこそこの世界にいる間は少しでも楽しみたかった。
「よぉし!そうと決まれば、観光に繰り出そう!空と翠…ちょっと小さくなれたりする?」
<できるよー!>
<可能ですとも>
白っぽい煙に包まれたと思うと、空と翠の姿が子犬ほどに小さくなった。
「か、かわいーーー!!!」
目をキラキラさせ、尻尾を振る二匹の小さな頭を無心で撫でていると、メアリーが話しかけてきた。
「ナツメ様、観光する前にラピス王国の国王たちに挨拶をしたほうが………。」
「くっ……それに気づいたか…。でもね、メアリー、それは代わりにノーマがやってくれるわ、多分。だから私たちは観光するのよしましょう!」
早口でまくしたて、メアリーに懇願するように顔をずいっと近づける。これでメアリーは折れてくれるハズ…と思ったが、メアリーはじとーっとした視線を向けてきた。
「ナツメ様……ハリス王子に会いたくないのでは……?」
………一瞬心を読まれたのかと思って焦った。どうやらメアリーには夜の考えがバレバレだったらしい。確かに、あの夜会であった時からあの王子にはもう二度と会いたくないなぁとか思っていた。人の話聞かないタイプだし、婚約者いるらしいのに口説こうとしてきたし……。そんなことを考えてメアリーから目をそらしていると、小さな手が夜の服を遠慮がちに引っ張ってきた。
「私も……かんこう?してみたい………。」
ナイスタイミング!!!!!これでメアリーは完全にこっち側に傾いた。そして、この機を逃してはいけない!!!とばかりに夜はメアリーとマーシャの手をとり駆け出した。
「いっぱい!楽しい思いで作ろ!!」
城下町はたくさんの人、そしてそこかしこに飛び交う精霊によって賑わっていた。精霊は小さな丸い光となって浮いており、色は属性によって異なるのか、緑、茶、赤そしてたくさんの青。やはり水の精霊王の守護の下にあるのが関係しているのだろう。ラピス王国が海に面し、海産物で豊かなのも水の精霊王の加護だからか。道端に立ち並ぶ出店はどれも美味しそうな匂いで、夜はすぐに立ち止まってしまう。それでも爆買いしないのは貧乏ゆえの性か。ふと、マーシャがある出店で立ち止まった。
「マーシャ、何かいいの見つけたの?」
そう聞くと、彼女は焦ったように首を横に振りその場を離れた。マーシャが見ていたものは、青く綺麗なラピスラズリのついた腕輪。ラピス王国の名前の元にもなった世にも美しい海を閉じ込めたような宝石。
「おや、可愛らしいお嬢さんだ。この腕輪が気になるかい?」
店主が機嫌よさげに話しかけてくる。
「ええ、妹が気になったみたいで、これいくらですか?」
「一つ10ルリだよ。」
「それじゃあ、三つもらうかな、はい、30ルリ。」
毎度、という声とともに三つのブレスレットが渡される。ナツメ様ー?とメアリーの呼ぶ声にはーいと返事をして駆け寄る。このブレスレットがマーシャにとって大切な思い出になるといい。つらい記憶は一生残り続ける、完全に忘れることはできない。今後も辛い経験をしないとは100%言い切れない、だからせめて今だけは、今だけでも少しでも多くの楽しい思い出を、マーシャに。
いいね、ありがとうございます!!嬉しいです!!!




