44 飛空艇で空の旅
更新遅くなり、すみません!!
皆さんは6時間というフライト時間、どのようにして過ごすだろうか。読書、睡眠、はたまた瞑想...そもそも新幹線にすら乗ったことのない夜が飛行機に乗った経験もある訳がなく、初めてのフライトをマーシャと共に存分に楽しんでいた。CAは勿論いないので、機内食などのサービスもないし、アニメや映画の見れる画面も無いわけだが、どんどん地面が小さくなっていく様子を見るだけで目をキラキラさせる2人。
(これが内臓と体が置いていかれる浮遊感...!!)
ジェットコースターに乗ったこともなかったが、この浮遊感にワクワクを覚えたため、夜の絶叫系への耐性が高いことが伺える。マーシャも同じようにしてはしゃいでいるため、彼女も絶叫系を乗りこなせそうだ。メアリーは外を見てはしゃぐ2人に、小さく見える建物を丁寧に紹介している。一方で、キリヤと空&翠は見事にやられていた。気圧の差にやられたのか、青い顔をするキリヤは今にも吐きそうだった。
「....メアリー、私たちよりキリヤの面倒見てあげて?」
「あらあら、お顔が真っ青ですわ。こちらで横になりましょう、その鎧も脱いで。」
大人しく指示に従うキリヤはただでさえ静かなのに、いつもの5倍も静かだった。息してるのかも怪しいほどに弱っている。空と翠もすっかり弱り、夜の方へよろよろと歩み寄った。
<よる〜なでてぇ....。>
そう言いながら、夜の足元に倒れ込む空。翠も同じように横になる。
「よしよし....きついねぇ。」
ゆっくりと二匹の頭を撫でてやると、少し楽になったのか、尻尾を少し持ち上げた。
「私も撫でていい....?」
遠慮がちだに尋ねてくるマーシャに撫でてあげて、と微笑む夜。生きていることを否定され続けてきたマーシャは、自分の為すこと全てが否定的だ。最初は食事すら遠慮していて、夜たちが部屋を出て暫くしてから食べる、と言うようなことをしていた。誰かが部屋にいると、マーシャは一日中動こうとしなかったし、息すらも止めているようだった。塔で過ごした6年間は彼女の人間としての尊厳と自由を踏み潰すのに十分過ぎる時間だった。
それが今ではやりたいことを尋ねるようになった。嬉しすぎて夜は体中の水分が無くなりそうなほど泣こうとしたが、少しの涙にマーシャが驚き悲しそうな顔をしたので、すぐに引っ込めた。優しく空と翠を撫でるマーシャに、夜はそっと話しかけた。
「ねぇ、マーシャ。私たちはこれから違う国に行くの。そこでは味方はメアリーと私とキリヤ、それに空と翠だけ。もしかしたら危ない目に遭うかもしれない。だから、マーシャに自分の身を守れる力を持って欲しいの。」
ーあそこよりも怖いところなのかな....
マーシャを怖がらせてしまったことに少し後悔するが、いずれにしろ王女という立場の彼女はいつ命を狙われたっておかしくはない。監禁されていたわけだし。彼女には、精霊王の力を存分に使ってもらわなければ。
「マーシャ、実はあなたにはまだ味方がいるの。」
そう言うと、味方?とマーシャは不思議そうに夜の顔を見上げた。
「そう、味方。マーシャだけのとーっても強い味方。マーシャが願えばいつだって彼らは現れるの。」
いつの間にか空と翠を撫でる手は止まっていたが、二匹は眠ってしまっていた。マーシャは夜の話に聞き入っている。
「私たちはいつでも貴方を守れるわけじゃない。強くても、数が多すぎれば負けてしまう。だから、知ってほしい。マーシャが自分で自分の身を守る方法を。」
「.....知りたい。お姉ちゃんが助けてくれてからずっと、守られてるだけじゃダメだと思ってたの。私もお姉ちゃんたちを守りたい....。」
.....いい子すぎんか?え、6歳ってこんなにいい子だったっけ??それとも自分と比較してるからダメなのか?夜の6歳と言えば、弟たちがまだ小さくて、母に子守も家事も全て押し付けられ毎日発狂寸前だった。必要以上に苛立ち、学校でも周りから遠巻きにされていた気がするなぁ...などと思い出す。
(うん....状況が違いすぎるな...!)
それでも、監禁され自由を奪われていた少女がこんなことを言い出すなんて...やはりマーシャは天使に違いないなどと結論を出す夜。
「わかった、それじゃあマーシャの仲間を呼ぶ方法を教えよう!」
精霊王のことだ、どうせそこら辺で見守っているのだろが、彼が言うには愛子の意見が重要とのこと。精霊王がそばで顕現するには、マーシャ自身の意思と願いが重要になるはずだ。
「マーシャ、強く願うの。心の底から思っていることを。それだけで、あなたの仲間は姿を現すから。」
マーシャの手を優しく包み込む。小さな手は夜の手にすっぽりと収まり、暖かな体温が伝わってくる。マーシャは夜の言葉を反芻するようにして、そっと目を瞑った。
すぐにマーシャの右隣が輝き出し、風の精霊王が姿を現した。
「久しいな、愛子よ。呼ばれるこの時をずっと待っていたぞ。」
精霊王の姿にメアリーと寝ていたはずのキリヤが目を見開く。心の声も一気に騒がしくなる。マーシャは少し呆けた後、唾を飲み込み口を開いた。
「あの時、私を外に出してくれてありがとうございました。あの、もし良ければ、一緒に居てくれませんか...?」
マーシャの言葉に精霊王は嬉しそうに頷く。
「当然だ!それよりもっと口調を崩してくれ、愛子よ。我らはそなたと共にある。そう言う運命なのだ。」
「わかりまし....わかった。あのね、私のこと名前で呼んで欲しい..な....。」
「名前!!なんと呼ぼうか?そうだ、我にも名前をつけてくれ、愛子よ。」
これにはマーシャは想定していなかったようで、固まってしまった。まだ世界を知り始めたばかりの少女に名付けは難しいのだろう。それでも一生懸命に考えるその姿はとても微笑ましい。
「それじゃあ....あなたの髪、とても綺麗だから....エメラルドっていうのはどうかな...?それと、私はマーシャ。」
「エメラルドか...素晴らしい!!そして、愛子いやマーシャよ、そなたと名を交換したことにより、ここに契約の印を刻む。」
エメラルドがマーシャの額に触れると、そこには紋章が刻まれた。夜が白雪と契約を交わした時のように、エメラルドにも契約紋が現れる。マーシャは何が起こっているのか分かっていないようで、夜に助けを求めるような顔を向けた。
「大丈夫だよ、これはどんな時でもマーシャとつながっている、っていう証拠。それにこれでマーシャは魔法が使えるようになるよ。」
「ほんとうに?!!!」
突然、マーシャが声を上げ立ち上がった。その顔は希望と期待で満ち溢れている。気にしていたのだ、魔力なしで役立たずと言われることを、まるで呪いのように染み込んだその言葉を。
「確かに、我と契約を結んだため、マーシャは我の力を扱える。だが、力を使うには丈夫な身体と精神が必要になる。今はまだ使えんな。」
使えないと言う言葉に、肩を落とすマーシャ。それでも、将来魔法を使えるという事実は彼女の呪いを一つ解き放った。
いいね、ありがとうございます!とっても嬉しいです!!絶賛風邪ひき中なので、皆様もどうか体調には気を付けてください………。




