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召喚されましたが、帰ります  作者: 犬田黒
第三章 ラピス王国
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43ユルグの心配事

「……大きい!」


 目の前にある飛空艇を見上げてマーシャが呟いた。緑の瞳をまあるくし、頬を紅潮させている。


「これに乗ったら、空に行けるの?」


 興奮したように尋ねるマーシャにメアリーが鳥のように飛べますよ!と答える。マーシャがそれに喜び、その場で軽くジャンプすると、<ぼくもー!>と空も一緒になって跳びだす。翠はそれをメアリーと一緒に温かな目で見守っている。


「飛空艇の操縦はウチでもトップレベルの風魔法使いが指揮するから安心しろ。ラピス王国までなら軽く見積もって6時間くらいで着くだろう。」


「ありがとう、ユルグ。その魔法使いは今どこに…「ユルグ様~準備出来ましたぁ~」


 見送りに来てくれたユルグと話していると、飛空艇のほうから間延びした声が聞こえてきた。そちらを振り返ると、飛空艇からすごい勢いで茶髪の頭がユルグに向かっていた。ユルグは衝突する前にさっと横に避け、男性は見事に顔から地面にいった。


「いてて~も~なんで避けるんですかぁ」


 そう言いながら立ち上がる男性にユルグは面倒くさそうにため息をついた。


「あーこんなやつだが、風魔法については俺より上手い。名前はノーマ、虐めるなよ、ナツメ?」


 最後は夜をからかうように言い放つユルグ。私がいつ虐めた、いつ!!ノーマはユルグの言葉を真に受けて、虐め!?とユルグの背後に隠れてしまった。が、ユルグよりものっぽなため、頭が見えてしまっている。


「虐めませんよ、虐めたことないし、それどこ情報?一先ず、よろしくお願いします、ノーマ様。」


「げっ、お前俺のときより敬語使ってんじゃん。一応俺が宮廷魔術師長何だけど??」


「まあユルグは慣れだよね、てかあんた敬語嫌いじゃん。それに、ノーマ様は今回の旅を先導する人だから、私たちの命預かってる人だよ??ちゃんと敬意を持たなきゃね。」


 夜の言葉に安心したのか、照れながらノーマが出てきた。ユルグは呆れたようにノーマを見やり、最終確認は?と言うと、ノーマは慌てたように飛空艇へ駆け出した。どこか抜けてるようで少し心配になるなぁとノーマの後ろ姿を見ていると、ユルグが一気に顔を寄せた。


「フェンリルの話で思い出したんだが、以前他国の魔術に関して調べていたときに、ラピス王国だけ国家機密だからと調査できなくてな。あれは恐らく、その魔術が失われた古代魔法だったからだろう。俺に代わり調査してきて欲しい。」


 真剣な目で夜を見ているが、夜の肩を押さえるように両手が置かれ、逃げるんじゃねえぞという心の声まで聞こえてきた。拒否権はないらしい。あったとしても、夜は引き受けるつもりでいた。成功すれば、元の世界に帰るための答えに一歩近づけるはずだ。


「言われなくても、ちゃんと調べてくる。だからそんなに心配しないで。」


 夜の言葉に目を丸くするユルグ。心配?俺が?と不思議そうに自身に問いかけている。ユルグは国家機密なんて大それたものに夜を巻き込んでしまうことを心配していた。どこか間違えれば死ぬかもしれない、そんな危険に晒されてしまう。


 ただ、今まで研究づくめでちゃんとした人間関係を育まなかったユルグにとって共に研究する夜は初めての仲間だった。宮廷魔術師たちとは違う、何か別の存在。それまで誰かを心配することなんてなかったユルグは、夜に言われて漸くこの焦るような気持ちの名前を知った。


「そうだな....俺は心配だ、お前のことが。大事な研究材料がなくなるのはおしい。」


「うわーその言い方はないわ。まあでもユルグっぽい。」


 夜がおかしそうに笑い、ユルグもつられて笑みを浮かべた。


「.....生きて帰ってこい。」


 ユルグの綺麗な蜂蜜色の瞳が細められる。夜は顔いっぱいに笑顔を浮かべた。


「当然!ユルグこそ、ジャックを困らせないでよ?ちゃんとご飯も食べて!」


 そう言うと、夜は飛空艇の前で待つメアリー達の元へ駆け寄り、飛空艇の中に入っていった。後に残されたユルグは苦笑しながら、浮き上がる飛空艇を見守る。


「余計なお世話だっつーの。全く今回の歌姫は歴代の歌姫より奔放な奴だ。」


 それでも、その奔放が周りを動かしていたりする。この国では少なくとも良い方向に働いているはずだが、他国ではどうだろうか。誰とも婚約していない彼女は、既成事実さえ作れば閉じ込められる都合の良い鳥にしか見えないだろう。その歌声で国を、民を潤す小夜鳴鳥(ナイチンゲール)


 これまでは他国の要請を突っぱねてきた王太子も、流石に今回のラピス王国の要請は断れなかった。生活に欠かせない魔鉱石の原産国でもあり、ヒビス王国と同じだけの力を持つ王国。そんな国からの緊急要請を引き延ばしていた王太子は、ユルグと同様にナツメが囲われてしまう可能性を考慮していたのだろう。どんなに特別な力を持っていても、蓋を開ければただの15歳の少女。そういえば、年齢の若さにも驚いたな、などと思い出すユルグ。


 (どうか...無事に帰ってきてくれ。)


 すでに遠くに消えた飛空艇をユルグは暫く見てめていた。

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